【読書】 『経済政策で人は死ぬか』(デヴィッド・スタックラー、サンジェイ・バス)

※twitter掲載文の改稿&誤字脱字訂正版です。2015年5月~。
※公衆衛生の本ですので、緊縮一般について述べた本ではありません。

初読時:
『経済政策で人は死ぬか?』を読み始める。社会主義国家からの体制転換でも、ショック・ドクトリン(急進的な改革)の有無で死亡率やGDPまで違うとは……。※ショック・ドクトリンを行った側の成績が著しく悪い

 元が医学雑誌に載ってた論文なだけあって、要素要素の検討など論の運び方がとにかく手堅い。あと、p31~のイギリスでの生活保護関連のお話は参考になりそう。※推定不正受給額(200万ポンド)より撲滅コスト(4億ポンド)の方が遙かに高い。

 たとえば世界恐慌下アメリカの検証。「なぜか死亡率が減少してるね」→「でも死亡率減少にもいろいろな要素あるよね」→「公衆衛生の改善とかはもちろんあるよ」→「むしろ世界恐慌でのマイナスにも関わらず公衆衛生が頑張った」→「やっぱり財政出動した方がいいよ」みたいな。ちゃんと一般向けになっててえらい。

 ……そして日本の「財政規律」なる目論見を聞いて驚愕している。緊縮財政はかえって傷痕を残すことが知られている訳で、どこをどうやってもギリシャへの道のりでは……。

 大量の論文を元にした学術書ではあるけど、本文は250ページ弱かつ数式なしグラフ最小限(適切な注釈付き)と手に取りやすい。巻末にはきちんと出典付きで、踏み込みたい時の準備も万全。いい一冊です。

再読時:
『経済政策で人は死ぬか?』を読んだ後だと、今のギリシャの行く末がショック・ドクトリン後ロシアの惨状の後追いにしか見えませぬ。急進的な「改革」はあまり意味がないどころか、寿命が縮む形で確実に爪痕を残しますよ……。

 同著では、IMFが「医療は贅沢品」と見なしていたり、「医療予算の乗数(投資額に対するリターン設定)が誤っていて過小評価していた」ことが告発されてます。90年代以降のロシアでは緊縮が惨状を引き起こした訳ですが、20年後の今はと言うとあまり……。

 個人的に、「ロシアは民主化の混乱で目に見えて寿命が縮む影響があったのか……」と漠然と思っていたのですが、同時期に民主化しても緊縮財政をしかなかった国ではロシアのような惨状を呈さなかったという。正直相当衝撃的なデータですし、「適切な比較が意外な事実をあぶり出す」ことも分かります。

 ほかならぬギリシャで「緊縮による予算縮小で悪化した公衆衛生を、移民のせいにする」な事例も取り上げられてて、何ともな気にさせられもします……。数年前のお話ではありますが、示唆的というか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?