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そのときが訪れたら、ぼくは。

大切な人に、大切なことを言葉で伝えることは、とても大切なことだと思っている。


ありがとう。
いつもお疲れさま。

愛してるよ。
大好きだよ。
ずっと一緒にいようね。


いつもとなりにいるからこそ。
ふだんおろそかにしてしまいがちな、感謝や愛情を伝えること。
そんなシンプルなことが、いつまでもふたりの関係を、特別なものにしていくのだろう。

そんな特別な関係を、より確かなものにするために。
そのときが来たらぼくは、彼女に伝えたいと思っていることがある。

それはきっと、愛してるとか、一緒にいようとか、そんな美しい言葉たちのように、まっすぐに彼女の目を見て伝えるべきなのだと思う。
ぼくにそれが、できるだろうか。
回りくどくなく、素直に。
ちゃんと思いが伝わるように、言えるだろうか。


いつ訪れるともわからない、そのときのために。
ぼくらの関係を、より確かなものにするために。


そのときが訪れたら、ぼくは。
勇気をもって、伝えるだろう。







鼻毛、出てるよ。







彼女の驚き戸惑う姿が、目に浮かんだ。
あるいは彼女は、涙するかもしれない。
その涙のわけは、感動。
...ではないかもしれないけれど。
ぼくの目にもきっと、涙が浮かんでいることだろう。
精いっぱいの、勇気。
それを振り絞った安堵と感動が、ぼくを包む。

彼女の返事を、想像する。


はい、こちらこそよろしくお願いします。


とはならないかもしれない。
ぼくはただ、指摘をしただけだから。

彼女はトイレに駆け込む。
ぼくはそのちいさな背中を、慈しむように見守る。
掬っても掬っても枯れることのない、湧き出る泉のような愛をもって。
トイレから出てきた彼女の顔はすこしうつむき加減で、その表情は、恥じらいと動揺に満ちていた。
ぼくはそんな彼女の顔を覗きこむ。
さっきまで元気にコンニチハしていたその姿は、もうそこにはなかった。
抜かれたか、収納されたか。
サヨウナラの手段はもう、問題ではなかった。
ぼくは思わず彼女の身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。


もう大丈夫だよ。


彼女の耳もとでぼくは、そうささやく。
彼女の細い腕が、ぼくの背中に回される。
彼女の身体から伝わるその温もりに、ぼくは確かな愛を感じる。

一歩、進んだんだ。

ぼくは、そう思うだろう。
これからのふたりに、もう怖いものなどない。
ぼくらの関係が、より確かなものへと変わった瞬間。
新しい未来への扉が、そっと開いた気がした。









※彼女の名誉のために記しておきますが、これは完全なるぼくの妄想、非常事態へのシミュレーションであり、フィクションです。








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