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ラモーの底力

フリーランス音楽家の生活って本当に不安定なんです。生活リズム的にももちろん収入的にも。まぁ安定を求めてたらそもそもこの職業を選んでないけど。リスクもたくさん背負っている分、運によって運ばれてくるたくさんの刺激がご褒美で、まさに昨日がそんな日でした。基本的に古楽のオーケストラは99%の演奏家がフリーランス。病気や怪我による穴を埋め合っています。

日曜日の朝、ベッドの上でダラダラゴロゴロしていたらミュージシャン・ドゥ・ルーヴル管弦楽団(Musiciens du Louvre)の事務の人からテキストが・・・
「次の月曜日トゥールーズでのコンサートに参加できる?」って。
「え。次の月曜日って明日?」とお返事すると
「うぃ。」って。
急すぎやん!って思いつつ、スケジュール的には空いているし、なにしろ天下のMusiciens du Louvreと彼らの十八番、ラモーのSymphonie Imaginaire(幻想交響曲?)を弾けるなんてこんなチャンスなかなかないし!もちろん参加させていただきました🙏

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ラモーの曲ってほんっっっとうに弾きにくいんです。40年バロックオーケストラのプリンシパルを勤めていたイギリスの先生が「ラモーとヘンデルだけは初見できると思わない方がいい」ってアドバイスをくれてたのを思い出します。このプログラムはもう何回もコンサートをしていてレコーディングもしているから、リハは本番前のたった1時間半。いつものメンバーの方々は目をつぶってても弾けるんだろうけど・・・私はめっちゃ困る!半日猛練習したところで、そもそもオケの曲なんて一人で弾けるようになったってあんまり意味なくて、曲に慣れることが全てなんだけど今回はその慣れる時間がないし!

本番中は最初から最後までジェットコースターに乗ってる気分でした。もうずーーっとクラッシュ寸前の気分。もちろんカリスマティックなミンコフスキー先生と素晴らしい演奏家の方々に囲まれて、こんな大船に乗っている私一人の力なんて微々たるものなんだけど、やっぱり失敗するのは許されないから・・・これもイギリスの先生に言われてきたことだけど「舞台に立ったらあなたの個人的な事情は一切お客さんには関係ない。昨日頼まれたから初見、熱があって身体が動かない、親が危篤で心配・・・など全てどうでもいいこと。舞台上で意味のある事は、ただ素晴らしい演奏をするだけ」って。ということで何も言い訳せず、不安を隠して、なんとか事故なく全てプログラムを弾き終わって、アンコールのボレアードを弾き始めた時に、曲が美しすぎるのと(ゆっくりだから)安心したので涙が出てしまいました。泣くとかプロとして情けないけど、こういう瞬間があるから音楽をやめられないんだろうなって思う。

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ラモーのさまざまなオペラから素敵な器楽曲(今回は歌も少し入ってたけど)を抜粋して組み立てているこのSymphonie Imaginaireは言わばラモーのGreatest Hitsみたいなもので、フランスバロック音楽初心者から愛好家までみんな楽しめるプログラムだと思う。私はラモーって他の作曲家とは格が違うって感じます。私に初めてハーモニーの面白さを教えてくれたし、ぐっちゃぐちゃに見えて実はロジカルっていうのもすっごくフランス的でおしゃれだし、とにかく美しさが異次元だと思う!【ラモー】と【その他作曲家】って思うぐらいラモーは私の中で別格です。

クラシック音楽といえばドイツ!ロシア!イタリア!みたいなステレオタイプ、というか、ほぼ洗脳された考えを一回取り払って、フランス音楽、特に私の愛するラモー先生の音楽の面白さと美しさをもっともっとたくさんの人に知ってほしいなって思う。微力もいいとこだけど、私のミッションはそこなのかもってちょっと思い始めています。


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