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長谷川彰良氏による半・分解展とトークショー


昨日、長谷川彰良さんの半・分解展とトークショーへ行ってきました。


私はメンズ服は専門分野外なので、専門的な感想等は全く述べられないのですが、
服作りをする立場の人間として長谷川さんに共感するものがあり、服飾関係の展示やイベントに参加した時はきちんと記録にも残しておきたいと思ったので、感想を書き記します。




私がnoteを始めて間もない頃、note内で同業者の方を探していた時に、長谷川さんのページを見つけ、半・分解展のことを知りました。


長谷川さんのページの、昔の軍服が分解されたアイキャッチ画像を見た時から、「こんなことをする人がいるんだ!」と驚きでしたが、
よくよく考えてみると、「そういえば分解された服なんて見たことない。なぜ今までこういうこと(分解してみること、分解して展示をすること)をする人が当たり前にいなかったのだろう。」と、不思議に感じてきました。


なぜなら、分解するということは、服を理解するための大変有効な手段であるのだから、世界で一点しかないものならともかく、史料でも、量産された服であればそのどれか一着くらいは分解されて、展示している美術館・博物館があってもおかしくないのに…と思ったからです。

知恵の輪だって、初めて触ると解くのにものすごく時間がかかるけれど、完成したものを分解するところからスタートすると、一発で仕組みがわかりますよね?


そう思うくらい、分解してその服を知るという手段は、当たり前だと感じるのに、やっている人がいない。


もちろん、分解されたものを見たい。
ものすごく見たい。
美術館・博物館で古い服はたくさん見てきた。
でもそれはただ「見て」きただけ。


そう思った私はすぐさま長谷川さんをフォローして、半・分解展に行くと決め、トークショーのチケットも購入しました。


私と同じ思いの人もたくさんいますよね。

来場者数が既に1000人以上いらっしゃったようですしね!




トークショーへの参加は、
紳士服専門の方のお話だから、ドレス製作に直接プラスになることはないかもしれないけれど、同じアパレル業界だし、長谷川さんがどんな人なのか気になるしな〜くらいの気持ちで行ったのですが、

実際にお話を聞いたり、長谷川さんのモノづくりにおける明確なコンセプト

「100年前の“感動”を100年後に伝えたい」

という言葉を聞いて、
あぁ、紳士服とドレスは全く違うものといえど、モノづくりをする人の根本は同じだ、
どんな熱い想いを持って物を作るかという気持ちのベースは皆同じで、熱い想いがあって作られたものは、専門外でも、興味のないものですら、魅力を感じる。
だから私は今ここにいるのか、と一人で妙に納得してしまいました。


それにしても、ハッキリ言えるコンセプトがあるというのはかっこいいです。

私も、いつも初対面の人に長々と説明しているので、なにか一言で想いを伝えられるコンセプトを考えようと思いました。



そして、ゆくゆくはオーダーメイドでやっていきたいという長谷川さんの姿勢は、私がオートクチュールのドレスに拘る点と重なり、
似た志を持つ人と出会える時は本当に嬉しいので、勝手に仲間意識を感じました。


何気に、同世代ですしね。



半・分解展の方は、歴史服・古着がただ分解されて展示されているだけではなく、
それに触れ、臭いを嗅ぐことができ、写真も撮り放題、
分解したことによってその服のパターンが正確に起こされ、再現された服は試着可能、しかもサイズ展開されて多くの人が体感できるという、素晴らしい展示内容でした!



何よりも、その服と長谷川さんのエピソードと深い考察が、他の人が作った服の解体品をより長谷川さんの作品たらしめていたように感じました。



モノ作りにおいて、エピソードやストーリーはとても大切なものだと私も思っています。


実際にドレスをデザインする時も、なぜ、何のためにそのドレスを作るのか、それを着る人にはどんなバックグラウンドストーリーがあるのか、ということを一番に考えます。

例えば、ウェディングドレスなら、新郎新婦の馴れ初めや思い出話を聞いて、デザインの参考にしたりもします。


ストーリーによっては、扱う素材も変わってきますし、ストーリーがあるからこそ、そのドレスがオーダーメイドと呼ぶに相応しいものになると思っているからです。



解体された標本は、白地のキャンバス生地に綺麗に並べられ、解かれた糸は取り除かれることなく、その服の全てをできる限り維持するために細心の注意を払って分解されたのだろうと思わせるもので、
長谷川さんの古着に対する愛情と、それを作った人への尊敬の念を感じました。


そんな、大変な貴重な資料でしたが、存分に見て、触って、嗅いで、堪能させていただきました。


残念ながら、紳士服の知識がないので、完全には理解できなかったこともありましたが、
解説もわかりやすかったですし、分解することによって得る情報があんなにも多くあるのだということを目の当たりにして、
私もドレスを買ってきて、分解したい!という思いが芽生えました。笑



そして、実は元歴女の私は、趣味の範囲ですが、史料を見るのが大好きで。

特に歴史服はたまらなくて、パリ留学中も軍事博物館へ一人で行って、甲冑や軍服を3時間半かけて見てきたのですが(それでも足りなかったので絶対にリベンジしたいと思っているのですが)、

そこには驚くくらい大量の軍服が展示されているのに、ほとんどガラスケース越しでしか見ることができなくて、
もっと間近で見たいというもどかしさがありました。

特に、縫製に目がいく私は、ミシンが世の中に出る前の、手縫いの時代に、どのようにしてあれだけ頑丈な紳士服を、あんなにも美しく仕上げることができるのかということが気になり、ガラスケース越しに張り付いて、目を見開いて縫い目をまじまじと見てきました。


そんな私のモヤモヤを、半・分解展は解消してくれました。


まさか、フランス革命前のアビ・ア・ラ・フランセーズまでお目にかかれるとは思っていませんでした…!


トルソーまでアンティークで、粋ですね。


そして私の感動ポイントはこれ


ボタンホールのかがり。

やり方が同じなんですよ!今と!

すごいですよね。

こういうのを見ると、技術の伝承ってすごいなぁと思います。



今でもオーダーメイドのスーツのボタンホールは手縫いで作られています。

これがすごく難しいんですよ。
やり方もですが、縫い目を整えるのも、早く仕上げるのも、かなり高度な技術です。
テーラー入門者の第一関門だと聞いたこともあります。

ボタンホールを見ればそのスーツを作った人の技術がわかると言われているほどで、ボタンホールにはいつも、ついつい目がいってしまいます。


そして、学生の時に、素晴らしいボタンホールのスーツの標本を手にした先生が、「これは古いものだけど今でも状態がいい。縫製が美しければ、何年経ってもその服は歪むことなく美しいまま維持される」と言っていた言葉を思い出しました。


技術が優れている人が作ったものほど、後世に残る。


それは技術者にとって名誉なことです。

技術を伝えるということは、ただやり方を説明するだけではなくて、高度な技術を持ってモノを作り、残し、伝えていかなければ、本来の意味での、技術の伝承にはならないのだと改めて感じました。


私ももっと精進せねばです。





とにかく、半・分解展は、長谷川さんの紳士服への愛情が本当にひしひしと伝わってきました!!

そりゃ分解するくらいですからね。


その研究心には敬服いたします。




まぁ…私が縫ったものを100年後の人が分解するとなったら…
ちょっと嫌かなぁ…

それは分解されることが嫌なのではなくて、自分の縫製技術を見られるのが恥ずかしいから。笑
たま〜に失敗してごまかしちゃう時もあるし。笑

分解するなら最初から言って〜!もっと気合い入れて作るのに〜!っていうかんじです。笑


でも、私が作ったものの価値を知ってもらうために、裏までひっくり返して見てほしい!と思うことがあるように、服作りの美しさの真髄は裏に隠されているもので、
それを言わずとも、見ようとしてくれるのはすごく嬉しいかもしれない。


その恥ずかしさだけを除いて。



でもきっと長谷川さんみたいな人が100年後にいたら、そんな恥ずかしさまで見抜いて、愛おしいって思ってくれるんだろうなぁ。



2018.5.27 まや



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