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  • 仮面の力

    近畿大学文芸学部演劇芸能専攻(現在は名称が変わっています)在学中に卒業論文として書きました。(2002年〜2003年) かくかくしかじか事情があり、当時卒業論文集に載せられなかったのと、学士論文の著作権は本人が所持し、いってみれば作文の域、とのことだったので、エッセイとして公表します。

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仮面の力(14) おわりに 仮面に対する恐怖、克服されず

  おわりに 仮面に対する恐怖、克服されず  卒業芝居公演に役者として参加し勉強したとき、自分のキャラクターをつくる過程で、実際に仮面をつけはしなかったが、仮面をつけるのと同じようなまるで変身といっていいような心理効果を感じた。  はじめは、普段は隠しておきたい自分の身体や心のコンプレックを強調し、娼婦のようにどぎついメイクと衣裳で扮装していった。肉体的にもいびつで、生産能力もない、資本主義社会においていかれ無視された、ゴミのような存在で、でもそれぞれが個性的なその人だけの

    • 仮面の力(13) 11 仮面と場所(トポス)

      11 仮面と場所  仮面を考えるとき、仮面は人間に〈場所(トポス)〉の重要性を想い起こさせる。中村雄二郎によると、仮面は人間を無限空間(均質空間)から有機的宇宙に解放するだけでなく、具体的な対応物として固有の舞台、つまり小宇宙としての場所(トポス)を要求するのだそうだ。(*45) 例えばそれはイタリアのコンメディア・デルラルテが、ヴェネツィアやナポリの町、街角を主たる舞台とし、バリ島のバロン劇などが寺院の前庭の広場で、聖なる山を象った割り門を背景にして演じられることである。

      • 仮面の力(12) 10 ギリシア演劇の仮面は発展していく

         10 ギリシア演劇の仮面は発展していく  このギリシア劇と仮面は、この後ギリシア時代の末裔たちが合理主義と自然科学的手法で、世界を席巻することとなる西洋人の、仮面として(仮面はキリスト教会には迫害されるが)変貌していく。  医師の表示を明確にすることが常に要求される西洋で、会話はコミュニケーションの手段として絶対不可欠のものであった。(*39) かの名高いギリシア哲学も、ソクラテスに代表されるように、対話によって議論を闘わせて、真理を発見してく方法をとっている。  よって

        • 仮面の力(11) 9 仮面とギリシア演劇

          9 仮面とギリシア演劇  仮面を使う演劇で有名なものの一つは、ギリシア演劇がある。現在、演劇を意味する言葉として知られているギリシア語のDorama(ドラーマ)という言葉は、もともと筋、出来事を意味している。大理石の敷き詰められた半円形の野外舞台−−アクロポリスの丘の南側斜面の、紀元前4世紀に完成されたディオニュソス劇場−−でディオニュソスの儀式が行われ、Doramaつまり演劇が誕生したといわれている。ここから西洋の現代へ続く演劇の基が始まった。この古代ギリシアのディオニュ

        仮面の力(14) おわりに 仮面に対する恐怖、克服されず

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        • 仮面の力
          14本

        記事

          仮面の力(10) 8 仮面と儀礼と芸能

          8 仮面と儀礼と芸能  今までみてきたように、本来仮面は儀礼と切り離せないものである。儀礼での仮面は、誕生→受苦→死→復活を包括し、宇宙の循環を象徴し、ダイナミックな形態をとる。儀礼では人生の節目、節目を再生の諸相を行い、重要な戦いの再演、大自然の猛威といったことが人間の神への畏怖となり、やがて習慣化し、通例化することで、古代の祭式を創出する。そして祭式から芸能が生まれ、いろいろなジャンルの芸術へそれぞれ発展していく。  折口信夫も『日本藝能史六講』のなかで、芸能の出来て来

          仮面の力(10) 8 仮面と儀礼と芸能

          仮面の力(9) 7 仮面・顔

          7 仮面・顔  吉田憲司はこう言っている。(*23) 世界の仮面のある大部分の社会で、仮面は「顔」をさすのと同じ意味でよばれている。「仮の顔」、架空の顔、ではない。祭や儀礼で、仮面をかぶって登場する踊り手を、死者や精霊としてもてなす。仮面の背後に、見知った特定の個人がいることに気付いてはいるが、しかしその個人の仮の姿として迎えるわけではない。だからこそ、人びとと踊り手との交歓は、死者や精霊をまつる場となり、死者や精霊のための儀礼となり得るのである。このとき、仮面はもはや踊り

          仮面の力(9) 7 仮面・顔

          仮面の力(8) 6 仮面と通過儀礼

            6 仮面と通過儀礼  仮面は、死者や先祖もあらわす。祖先が現れるのは、アフリカやメラネシア、アジア各国に見られる葬列儀式や、通過儀礼の場である。葬列儀礼は、墓地から死者の霊を体現した仮面が登場し、それと生者とが交歓することでその死者の霊を慰めて祖先の国へ送り届ける儀式である。(*18) 日本のお盆の行事には意味は似ているだろう。通過儀礼とは、すべての民族、文化が持っている伝統的な儀礼(これも日本でいうと、出生祝、七歳祝、成人式、結婚式、出産祝、家督の相続、厄年祝、葬送、

          仮面の力(8) 6 仮面と通過儀礼

          仮面の力(7) 5 仮面の形態

          5 仮面の形態  南江二郎が世界的視野で仮面の種類をあげているので、引用する。(*17)  1 狩猟仮面   狩りのために獲物の動物に仮装するための仮面。  2 トーテム仮面 自分の集団と特殊な関係を持つ動物の顔の仮面。  3 妖魔仮面   悪霊を退散させるための奇妙な顔の仮面。  4 医療仮面   呪術を専門とする方術師、医術、妖伏師が病魔を払う          ためにつける仮面。  5 追悼仮面   死者の追悼の祭りに使う死者の顔の仮面。死者の精霊         

          仮面の力(7) 5 仮面の形態

          仮面の力(6) 4 仮面をもたない人びと

          4 仮面を持たない人びと  ところで、仮面を必要としなかった人びとも存在していた。  先史時代、エジプトのピラミッドやイギリスのストーンヘンジより古い幾つかの巨石遺跡を持った、地中海に浮かぶマルタ島に住んでいたマルタ人だ。(*15) 石塚正英によると、マルタ人は、大地としての母、女を崇拝していたという。彼らの作った土偶の母神像は、ムチムチとした豊かな女性の肉体を表現している。頭の部分を別に作り、細い棒をとりつけて、像の首の部分に開いた穴にさし、完成させていた。つまり、顔は身

          仮面の力(6) 4 仮面をもたない人びと

          仮面の力(5) 3 仮面誕生

          3 仮面誕生    まずは、人類がどういう生産活動をしていくことによって生活を変えてきたかである。生活様式の変化は、周囲の物事に対する考え方も変化させる。  人類は、今から六百万年前頃、地球上に登場して、食糧採集をはじめる。堅実(ナッツ)・果物・漿果・葉・芽・茎・根などの食べることのできる植物、動物の卵、昆虫、貝などを集める暮らしを生きた。そして猛獣食べ残した肉をあさることで肉のおいしさを知り、魚を捕る、動物を狩猟する、というような方法で生活を支えていた。常に安定して食糧を確

          仮面の力(5) 3 仮面誕生

          仮面の力(4) 2 仮面の意味

          2 仮面の意味  仮面の言葉の語源から導き出される、偽る、隠す、変容という意味と、死者、霊に対する思想が、どうやら仮面を考える一つのかぎになりそうだ。  また、一説によれば、ギリシア語のバスコーという言葉も仮面の語源に関連していて、呪いを浴びせる、他人からの邪視を防ぐ、という意味も含んでいるという。(*3) 仮面が呪術に関わっているらしいことも想像できる。  仮面について『演劇百科大辞典』には次のように記されている。     人間の生まれながらの顔だちと異なる表現を求める

          仮面の力(4) 2 仮面の意味

          仮面の力(3) 1 仮面の起源

           1 仮面の起源  日本語の仮面、面を意味する英語はMaskにあたる。「浮かれ騒ぐ」「冗談」を意味し、同時に仮面を着けた人や仮面自体も指し示す。しかし、語源ははっきりしない。佐原真の解説によると、エジプトの中王朝では皮革・第二の皮膚のことをmskと呼び、これがアラビア語のmsrとなり、エジプト化していること、古代エジプト人のようなお面をつける意味になった。(*1) そしてこれから、アラビア語の「嘲り笑い」とか道化師を意味するmaskhara(マスクハラ)が生まれ、「偽る」、

          仮面の力(3) 1 仮面の起源

          仮面の力(2) はじめに

          はじめに 私は仮面が恐い。  むかし家に、レプリカの能面の、女面と般若を飾ってある部屋があった。祖母が町内会の旅行か何かで買ったか、もらったかしたものである。私はどうしても気味が悪くて、昼もその部屋に入ることが嫌だった。面が、肉体を持って動きだしそうだったからだ。般若よりも、女面の方がリアルで怖かった。『肉面』という恐い話を聞いたせいだったかもしれない。    昔、無類の面好きの殿様がいた。殿様は美しい面を欲しがり、町で見   かけた美しい女の顔の生皮を剥いで、それを面に

          仮面の力(2) はじめに

          仮面の力(1) もくじ

             もくじ はじめに   仮面に惹かれた理由  1     仮面の起源  2     仮面の意味  3     仮面誕生  4     仮面を持たない人びと  5     仮面の形態  6     仮面そして通過儀礼  7     仮面・顔  8     仮面と儀礼と芸能  9     ギリシア演劇と仮面  10     ギリシア演劇の仮面は発展していく  11     仮面と場所(トポス) おわりに   仮面に対する恐怖、克服されず

          仮面の力(1) もくじ