仮面の力(13) 11 仮面と場所(トポス)

11 仮面と場所

 仮面を考えるとき、仮面は人間に〈場所(トポス)〉の重要性を想い起こさせる。中村雄二郎によると、仮面は人間を無限空間(均質空間)から有機的宇宙に解放するだけでなく、具体的な対応物として固有の舞台、つまり小宇宙としての場所(トポス)を要求するのだそうだ。(*45) 例えばそれはイタリアのコンメディア・デルラルテが、ヴェネツィアやナポリの町、街角を主たる舞台とし、バリ島のバロン劇などが寺院の前庭の広場で、聖なる山を象った割り門を背景にして演じられることである。最も関係が明瞭に示されているのが、能舞台であるという。能舞台は、本舞台、橋懸り、地謡座、後座の4つの部分から成り立っていて、本舞台は四隅の柱によって区切られ、はっきり方向付けられ意味付けられている。橋懸りとその奥、幕の向こうの鏡の間は、怨霊や異類のものが舞台(つまりこの世)に立ち現れる他界そのものと、他界の通路をあらわしているのである。
 〈場所(トポス)〉とは、日本語でいう場所と間(ま、あいだ)などの考え方によって、より理解できるという。トポスはニュートン物理学的な空間とは違うものである。例えば、濃密な意味と有意味的な方向性をもった場所のことで、世俗的な空間と区別された意味での聖なる空間、神話的な空間である。核となる場所が、山頂や森の中などから選びだされ、世俗的な空間から区別される。そして聖なる空間は全体性からおのずとその民族のとらえている宇宙論的性格を帯び、宇宙(コスモス)の似姿の形をとることが多い。都市や家屋がそのような自覚のもとにつくられ、また、濃密な意味をもった場所がかもし出す独特の雰囲気を、そこに棲む精霊として捉えなおした。仮面もここに登場する。




*45 中村雄二郎  「仮面」『述語集ー気になる言葉』 岩波新書 1984年

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