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死ぬかと思った

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。

廊下から聞こえる激しい息遣いにふと目を移す。
実習室の扉にぬ~っと現れるトシオの影あり。
トシとはさっきサヨナラしたばかりでそれから10分も経っていない。

「あれ?さっき帰ったばかりじゃん。忘れ物でもした?」

と問うと

「…いや、死ぬところだった…死にかけた…死ぬかと思った」

そんな重い言葉を発しながら実習室に入ってくる。

「エツ…これ見てよ…」

そう言って両手に抱えるは、真っ二つになった自転車。
サドルを中心(シートチューブを境)に前後、真っ二つになったロードバイク。

トシ御自慢の純白の愛車が真っ二つになっていた。

「いったいなにがあった?なんでそんなところで綺麗に割れてんの?」

「それが、わからないのです。これに乗って坂道を全速力で下っていると、信じられないことに、いきなりポッキリいって、ドンガラガッシャンと派手に転けた。最初何が起こったかわからなかった。そのあとトラックが通り過ぎて、死ぬかと思った」

「…なにそれあぶなっ!そんなことあるんだ…ぶつかったり、転んで壊れたわけじゃないんだ…怪我は?」

「そう、自然に真っ二つに…少し擦りむいたくらい」

「いろいろありえないよ。けど、なにはともあれトシがトラックに轢かれなくてよかったよ。死ななくてよかったよ」

「そうだよね。走行中、普通こんなところで割れるなんて想像できないもんね…あぁ、死ぬかと思った」

トシの無事を喜びながらも、私の頭の中では『また、つまらぬ物を斬ってしまった』というセリフが響いた。
いや、無事だったからこそこんなことを考えれるのか。
まるでルパン三世の五右衛門の斬鉄剣で切られたような。
それほどまでに綺麗な切断面だった。
これを走行中の自転車にできるのもやはり五右衛門しか想像つかない。


「それ溶接でくっつけるの?」

「いや、修理無理そうだから買い替えないといけないかもしれない…また出費が~~~」




文・挿絵:ETSU

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