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秋田旅行記(2018.4)その1(カルマティックあげるよ ♯83)

2018年4月28日、午前10時半頃。

岩手県の北上駅と、秋田県の横手駅とが、互いに端となって結ばれるJR北上線。その線路の上を走る、2両編成の気動車のロングシートに僕は座っていた。向かいの車窓からは靄のかかった錦秋湖の風景が見え、列車の移動と共に右から左へと流れていった。GWシーズンの幕開けというタイミングだからか、非電化区間のローカル線とは思えないほど車内は多くの人で混み合っていた。

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午前11時過ぎ頃、気動車ならではのシューっと響く音と共に、列車は横手駅のホームに停まった。他の乗客がある程度降りたのを見計らって、たくさんの荷物を詰め込んだ50リットル容量の大きなダッフルバッグを背負い、列車から降りた。

改札を通り駅舎を出て、着替えや洗面用具など、夜までは使わないであろう荷物だけダッフルバッグと共に駅内のコインロッカーに預けた。大きなバッグは便利だが、このままの量の荷物だと街中を歩くには重すぎるし、見た目の面でも悪目立ちしてしまう。
そしてあらかじめその中に入れて持ってきた標準サイズのリュックを取り出し、カメラやモバイルバッテリー、ガイドブック、軽めのエチケット用品などを入れて背負い、歩き出した。この方法なら、ほんのお出かけ程度の荷物量で身軽に探索を楽しむことができる。

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横手で降りた理由の1つは、ご当地B級グルメとして有名な横手焼きそばを食べるためだった。
駅から歩いてわりとすぐの、老舗だと聞く焼きそば屋「ふじわら」にて、その味を堪能することにした。時刻はまだ12時前でお昼ご飯を食べるには少し早い時刻だったが、混み合う前に今のうちに入ってさっさといただいてしまおう、そう判断し玄関の引き戸をガラガラと開いて中に入った。

店内は70年代の邦画にでも出てきそうな、昭和時代の食堂の名残が色濃く見られる内装だった。フローラル模様が入った赤色の古めかしいテーブルのそばに、パイプ椅子が並べられている。奥の方には一般家庭の台所と比べてもスペック面では大差なさそうな厨房があって、妙齢の女性2人が忙しそうに切り盛りしていた。2〜4人掛けのテーブル席が5つほどと、テーブル1つを壁にくっつけて無理矢理作った感のあるカウンター席があった。
まだ午前中だというのに、店内は既に9割方客で埋まっていた。運良くカウンター席に若干余裕があったので、そこの端っこに座った。

店内を見渡す限り、客層は普段着姿の地元民が大半といった感じだった。賑やかな家族連れもいれば、新聞を広げ読みいっているお一人さまの中年男性もいた。艶のあるニットを羽織い美しく化粧をした、謎めいたお一人様の若い女性もいた。

厨房の前には白い紙にマジックペンで書かれたメニュー表が貼られていた。焼きそばは肉入りと肉玉子入りの2種類があって、その2種とも大・中・小の3種の盛り方があり、合計すると6種類のバリエーションがあった。恐らく定番かと思われる肉玉子入りを選び、量は中盛りでオーダーした。
混んでるせいか、焼きそば1皿なのに思いの外待たされた。その間はスマートフォンでこれから向かうスポットの調査をして時間をつぶした。時刻はいつの間にか正午を回っていた。

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注文から20分程経って、ようやく目玉焼きが乗ったあつあつの焼きそばが手元に運ばれてきた。
手元の割り箸を割り、こっそりといただきますのポーズをとって、箸をつける。

目玉焼きの黄身の部分を箸で刺すと、トロっとした半熟状態の黄身が溢れ出てきた。横手焼きそばは初めてだったが、恐らくこの黄身を麺と絡めて楽しむのがコツなんだろうと直感的に判断した。ある程度白身を救って食べた後、目玉焼きの中央から湧き出る黄身を麺にぐるぐると混ぜ合わせ、口に入れた。モチモチとした食感の太麺に、半熟玉子のとろみと旨味が絡み付いて、口の中で踊る。舌の上でどんどん美味しさが広がっていった。

麺はぶっとい上に平たくて、細く縮れた麺の焼きそばを食べ慣れた僕にとっては珍しく感じられた。焼きそばというよりきしめんに近い食感の麺だった。ソースはちょっと甘口だったが、辛くすると黄身の味と喧嘩してしまいそうだから、これくらいがちょうどいいのかもしれない。

実際食べてみると見た目以上のボリュームがあって、予想してた以上にお腹いっぱいになった。ご馳走さまですと言い、会計を済ませ、外に出た。

14時から少し南に位置する湯沢という土地で用事があるのだが、そこへの電車が出発するまでまだ時間があった。
それまでぶらっと横手の街を散歩することにした。

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4月末の横手はちょうど桜の季節だった。
通りがかった光明寺児童公園の桜並木が美しかったので、園内に入ってしばし花見を楽しんだ。

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更に先へ、横手川まで歩いてみた。
ここの川沿いも桜が満開だった。
涼しげな川の流れとあわさって、並木沿いを歩いててとても気持ちよかった。

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橋の上から川を見下ろすと、幅が10mくらいはありそうな、大きな岩が転がっていた。
立ち止まってしばらく見ていた。僕は巨岩を眺めるのが好きだ。地球の表面からボロっと剥がれ落ちた巨岩からは、自然界に宿る神秘と迫力をみしみしと感じ取ることができるからだ。

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湯沢へ向かう電車の発車時刻が徐々に近づいてきたので、頃合いを見て横手駅の方へと折り返した。途中、大正時代の建築の面影を残す出羽印刷株式会社のオフィスや、イルカが泳ぐ姿が描かれた謎めいた看板が印象的なビルの横を通り過ぎたりした。

13時11分発、新庄行きの奥羽本線の電車に、無事に間に合った。
乗客を乗せた電車は粛々と車輪を動かし、南へと走っていった。座ったロングシートの向かいの車窓の向こうでは、なだらかなシルエットを描く奥羽山脈の山々が、右から左へと流れていった。


つづく

文・写真:KOSSE

秋田旅行記(2018.4)その2

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