不安は多しバイト先

襟付き白シャツに緑のエプロンを羽織り、緑のキャップ帽を深々とかぶる。
胸には研修中の名札。

「いらっしゃいませ~」


晩は仕事帰りの会社員、学校帰りの学生、が値引きされた商品を求めたりして、店内は込み合っていた。
レジ前には行列。
商品の値段を読み取ったり、釣り銭を渡したり、おぼつかない指つきで、お客さんを幾度となくイライラさせてたことだろう。

そんな緊張だらけのバイト中。
ピッピッとバーコード読み取っていると言い知れぬ視線を感じた。
前方、出入り口付近からだった。
商品を読み上げながら、その方向に目線を向けてみる。

自動ドアの前に襟がヨレヨレの肌着を羽織った大柄なおじさんがいて、やはり私を凝視していた。
「みぃーつけた!」と言わんばかりのにこやかな表情。
同じアパートに住むおじさんだった。
そう、あのヤバいおじさんだ。
目が合うと、ぎこちなく買い物籠を手に取って不自然にも野菜コーナーへと消えていった。

次から次へとやってくるお客さんの対応をしながら、虫の知らせのような不安が襲う。
先日のおじさんの素行から、なにか不快になるようなことをされそうな危機感が漂っていた。

このままレジをしていれば動けない。
いつかエンカウントするのは時間の問題だ。
詰んだ…。

すると後ろから
「お疲れ様ぁ、交代でーす!休憩どうぞ」
と声をかける先輩あり。

もうそんな時間か?ラッキー!助かった!願いが通じた!

なにも知らないであろう先輩のナイスタイミングさに感謝して、おじさんに決してみつかることのないように警戒しながら慎重にバックヤードへと一直線に駆け抜けた。
素直に休もうとも思ったが、その前におじさんの動向が気になって仕方ないので、暗い鮮魚コーナー裏の小窓ごしから明るい店内の様子を覗いて伺ってみる。
店内を徘徊するおじさんの姿があった。
おじさんはこちらに気づくことはなかったが、歩き方が不自然でキョロキョロうろうろと同じところを行ったり来たりしている。
目当ての商品というより、やはり私のことを捜しているようだった。
こんな感じが続くようでは、こんな場所でおじさんを観察していることがいつかは目があってバレてしまいそうで不安になった。
そんなわけで、私はおじさんの動向を探るのをあきらめて、休憩室の椅子に腰掛けた。
お茶を飲みながら、ソワソワ落ち着かなかった。
これはもう時が過ぎるのをじっと待つしかない。
休憩の間に帰ってくれれば幸いだと願った。


そんな心理状況の中では休憩時間の30分なんてあっという間だった。
重い腰を上げて再びレジへと向かう。
レジに戻る前に一応念のため、店内を周ってみる。
しかし、そんな警戒心とは裏腹に、見渡す限りでは、あのおじさんの存在を確認することできなかった。
恐怖のエンカウントはなんとか回避できたようだ。

よかった。
意識し過ぎて損した。

平常心を取り戻した私はしなやかに先輩とバトンタッチ!
淡々とレジを勤めると、さっきとは違う感覚で残りの2時間なんてあっちゅー間!
そもそも、おじさんが自分を探していたかどうかだって被害妄想だったのかもしれないという気持ちにすらなった。
あのおじさんだって、そりゃスーパーで買い物くらいするさ!
つまり、ただの一お客様だったわけだ。


やがて店内には蛍の光が流れて、店外の照明も落とされた。
さて、一日で最後の業務だ。
店先に立てられたのぼりを回収しなければならない。
裏口より外へ出る。
街灯も乏しく、真っ暗にも等しい。

キュキュキュ…ブルルルルン!!!

突如エンジン音とともに、ひとつ目の眩しい光が前方から私を刺した。
暗闇の中からの突然のヘッドライトが強くて、一瞬何事かとよくわからなかった。
しかし、目を細めるとスーパーカブにまたがる男のシルエットがそこにはあった。

そして、なにをするわけでもなく車道へと移り、アパートの方へと疾走して行く。
茫然としながらその後ろ姿を追う。
街灯に照らされた後ろ姿はまさしくあのおじさんと断定できた。

意識し過ぎということはなかった。
被害妄想なんかではなかった。
おじさんが来店してから2時間半近く経つというのに、暇というか執念を感じた。
店内にはいなかったし、その間ずっと裏口で待ち伏せしていたか?
所詮は憶測だけど、それまでも窓越しに観察とかされていたかもしれないわけで、負の妄想は広がるばかりだ。
一体何が望みなのだろうか?
あまりにも不可解だった。
直接なにをされたわけではないのだけど、説明のしようがない気持ち悪い感覚が残る。
というかそんなことよりバイト先がばれてしまった方が問題な気がした。
これからずっとこういったことがバイト先でも続くのかと考えるだけで不快な気持ちになった。

のぼりを回収して、ゲンナリと閉店後の店内へと戻る。
店長と先輩スタッフたちがそんな私の気持ちも露知らずに談笑を繰り広げていた。

「お疲れ様です…」

「お疲れ様!そういえばさぁ、今日エツくんと知り合いというお客さん来たよ『エツくんと俺はマブダチなんだ。よろしく伝えておいて』って」

先輩からの伝言は、萎えた私の心身にさらなる追い打ちをかけた。
あのおじさんからの伝言であった。


文・挿絵:ETSU

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くだらない話・不思議な話・ホラーな話を集めたコミックエッセイ。みょうちきりんな話が多いのでたぶん閲覧注意!
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コメント2件

好かれやすいんだ
ほんとにそう思います
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