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そうだ、仕事、辞めよ。

そうだ、仕事、辞めよ。
今朝、ひとりきりのベッドの上でそう思って、決めた。
今月入籍予定の私が、ひとりきりのベッドの上で決めたことだ。

現在25歳。私の仕事はアクセサリーの小売販売だ。
雇用形態はバイト。いつか契約社員に…と思っていたけれど、なんだかめんどうくさいなと思って「今のままでいいです」と言い続けていたら、3年近く経っていた。
手取りは毎月17万円程度。交通費は支給される。そこにちょっとしたボーナスが発生したりもする。
私はこれで満足していた。

私の前職は、大学を中退してからずっと水商売だった。
夜の世界でふんわり生きて、大好きなお酒を飲んで酔っ払っていたら勝手にお金が生まれていた。
一番稼いでいた時は月に80万円近くはもらっていたはずだ。その頃になると、手渡しで日払いをもらっていたりして、もう何もよく覚えていないのだけれど。
家出をしていたし、私を咎める人もいない。好きなことをして、好きなように生きていく。遊んでいたバーで好きな人もできた。
学はなくとも、お酒を飲んで遊んでいたらお金が発生する。私を愛してくれるオトコもいる。最高だ。

けれども私はお金の使い方を知らなかった。

増えていく一方のお金と逆に、精神が削られていった。
ギャンブル、お酒、毎晩のバカ騒ぎ。行き先の見えないお金は私の手元で、さみしさだけを生み出していた。
短期的な快楽は、長い目で見ると破滅を招く。
理解はしていた…はずだった。けれども現実の世界に向き合うのが面倒だった。
臭いものにフタをするように、現実にそっと、あまやかな、キラキラとした…布をかぶせているような生活だった気がする。

終焉はあっけないもので…実家の母が、倒れた。
突然、連絡が入って病院に駆けつけると、集中治療室で管まみれになっている母が横たわっていた。
パートの仕事中に突然「足がしびれて動かない」と言って、倒れたそうだ。
一緒に働いていた方が救急車を呼んでくれたそうで、一命は取り留めた。…が、脳梗塞が原因で倒れたらしく、もう完璧に元の生活には戻れないといわれた。
周りの人たち曰く、私が家出してからの母はだいぶ荒れていて、昼過ぎに起きてパートの準備をし、そのまま仕事へ行き、夜な夜な日本酒を片手に冷凍食品を貪っていたそうだ。

母の主治医は言った。

「あなた、夜の仕事をしているの?いつか近いうちに、こうなるよ」

母は集中治療室のベッドの上で、数年ぶりくらいに会う私を、認識できているのかそうでないのか…わからなかったけれども。
ただ、うわごとのように「おかねが、」「あの子たちにおかねが」「土地をうらないで…」と、半分マヒした口をホガホガしながらそう呟いていた。

母さん、私、お金が欲しかったわけじゃ、ないんだよ。

途端にそう理解して、この知らないうちに増えすぎた行き先のないお金の正体が『寂しさ』だったのだと気付いて、私はお昼のアルバイトを始めた。
アクセサリーの小売販売。手取りは17万円程度。
とても満足していた。なんだか「それでいい」気がしていたから。

しかしこのたび、夜の世界で出会った彼とめでたく入籍することとなりまして。
「奥さま」になるのです。
なんだかこう、変えてみっか!みたいな気持ちで、今朝、ひとりきりで目覚めたベッドで決めた次第。未来の旦那様、昨夜は社会人スポーツの応援へ駆けつけたようです。

新婚生活、「専業主婦」と名乗るには家事がまだまだ追いつかない、ノージョブ。
それでもなんだか、どうにかなりそうな気はしている。

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