空間

部屋で一人、ロンドンの住宅街。サイレンが平日も鳴り止まない街の静かな空間で呼吸をする。

もうすぐ大学を卒業する。友人の多くは未だこの静寂を知らない。サイレンが鳴り止まない静寂な空間とどう向き合えばいいのか、躊躇して、明るい明日の夢をみる。

私たちは静寂を恐れる。壮大な微音の合唱は、自分の小ささを際立たせる。社会は猛スピードで進むから、自分も走り続けないと餓死すると教えられている。頭の中の声が大きくなる。走れ、走れ、走れ。なぜ休む?空間は壮大で怖い。我々は空間を支配するために生きる。私たちは微音を恐れる。穏やかな街の合唱は、都市を貫通する自然の音だ。彼らを見下しながら、恐れる。

ものを知ると謙虚になる。自分の存在の小ささを見つめれば見つめるほど、惨めになる。私の人生に意味はあるのか、と小さい生き物が大きな問いを立てる。私たちは大きな壁ばかり見つめすぎて、足元のたんぽぽには目を向けない。小さい生き物のくせに、夢ばかり大きくて、自分より小さな植物に水をやろうとも考えない。

だから我々は静寂を嫌う。自分が息をする空間が、静かな空間が、生を持ってくることも、死を連れてくることも、我々は恐怖する。日が指して、たんぽぽにスポットライトが当たって初めて、幸せを思い出す。地面に根を張る小さな奇跡たち。私たちの奇跡。

私たちは矛盾に苦しむ。こんなにもちっぽけな存在なのに、大きな夢を見てしまうから。命に理由があると、何かが叫ぶから。でも私はこんなに小さいのに、なにができよう?空を見る。無限に広がっている空間を見る。その中で、生きる。

我々は成し得ることがあると信じている。前を向き続ければ、走り続ければ、いつかこの矛盾から解き放たれると教えられた。私たちは小さいが、無力ではない。蟻だって人間を噛む。行動にはいつも結果がある。言い換えれば、現在の行動は、確率的結果を産む。結果から行動を逆算することは難しいけれど、行動を通して私たちは世界と対話する。こんなに小さな私たちにも、空間は複雑に息をして、私が空間を混ぜれば、その反応を見せてくれる。そうして世界と対話をする。

空間に、住む。

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