十月 咲

エッセイと小説と幻想を混ぜて、ほんのちょっとスパイスを入れて、きらきらの細かい星を散り…

十月 咲

エッセイと小説と幻想を混ぜて、ほんのちょっとスパイスを入れて、きらきらの細かい星を散りばめた文章を書きます。 真夜中にこっそり香りますように。

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  • 君のための文章の束

    私の好きな言葉だけでできてる、君に読んでほしい物語

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かわいいだけしか要らない。

3歳のときから会っていない本当のパパに感謝しているのは、私の容姿がどちらかというとパパ似だってこと。特に気に入ってるのは大きい目と肌の白さ。胸がやや大きめなのも、パパのお姉さんを見ればこっちの家系のおかげなのは分かる。芸術に造詣が深いのもパパの家系。私は造詣が深いとは言えないけれど、絵や言葉や音楽や映画が好きなのはパパのおかげ、だよね? もちろんママにも感謝してる。ママの家系は一族そろってスレンダーでスタイルがいい。ママのかわいい声も、多分受け継いでる。私はママの声も自分の

    • ただ名前を呼んでくれさえしたら。

      ばっちりメイクよりこのままが可愛いと君が言ったすっぴんの私が、鏡の前で不機嫌な顔をしている。その上寝起きで浮腫んでいる。とてもじゃないけど可愛くない。どうせ誰も見てないし、今日はどこにも行かないんだし、このまますっぴんでいいかともう一度鏡を見る。ううん、でも、私が見てる。そう思い直して棚の上のメイクボックスを取り出し、ごとりと置いた。誰も見てなくても、君がいくらすっぴんの方が好きだと言っても、私はそうは思えないしふと鏡や窓ガラスに映った自分を可愛いと思いたい。まつ毛をしっかり

      • 悪酔いで見た夢の中で、私は君にしがみつく

        「つかまって」 私は君の首にしがみついた。もっと深く繋がっていく。酔った頭でぼーっと考える。ああ、本当に一線越えちゃった。明日からどうしよう。どんな顔で、どんな風に会話するんだろう。でも今はもっと深くもっと奥まで私のことを知ってほしい。 こんなに悪酔いをしたのは久しぶりだった。本当に、数年ぶりに。その沖縄料理屋で「薄めで」と頼んださんぴんハイは私にはまだまだ濃かったようだ。暑くて混んでる店内、カウンターに詰め込まれた私と君。沖縄の民族衣装を着た店員さんに「あと10cmずつ詰

        • 抜け出せないこの季節を恋って呼んでいいですか。

          私には分かってる。それがいつ始まったか。事態が動き出したその一瞬を覚えてる。もう、ある意味での一線は超えている。身体の関係どころか手と手の触れ合いさえなかったとしても。日々さまざまに湧き起こっては移り変わるはずの感情の割合、脳のキャパ、休日に思い出してしまう数時間。さっき朝のカフェラテを淹れたはずなのに、君からのメッセージを眺めながら物思いに耽って、気づいたらもう日は暮れてる。そんな風に私の内側を徐々に君は侵食し、私の思考を作り変え始めてる。君も同じだったらいいのに。ずっと私

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        かわいいだけしか要らない。

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        • 君のための文章の束
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          もうドライブが終わる合図

          あ、助手席左になってる。久しぶりに会って最初に気づいたことが君のクルマについてで私は自分を誇らしく感じた。狭い空間に二人、十年以上の付き合いでも一年ぶりに会うと、いつも通りとなんだか変な感じの中間で、結局なんだか変だった。 君は何も変わっていなかった。私も何も変わっていなかった。いや、正確には少しずつ、趣味や住む場所、仕事、髪型、些細な違いはあるけれど。でも根本的には何も変わっていないはずで、相変わらず無言の時間が多い。車中にひたすら流れるTWICEのライブ音源。韓ドラにハ

          もうドライブが終わる合図

          早く冬が終わればいい。君を忘れられればいい。

          このユーザーは解約しました。 それは一昨年の七月に残された機械的なメッセージだった。メッセージといえるほど温度があるわけもなく、もちろん君が直接タイプしたものでもない。私たちに唯一残されていた(といっても、もう使い道のなくなった)電子世界の細くか弱い一筋の繋がりも、私の知らない間にふっと途絶えていたようだ。 あれから二年。いや、三年?時が経つのは早いし数年前の出来事は時系列がバラバラで、君と過ごした時間は終わったときには長く感じたけれど今振り返ってみればほんの一瞬だったよ

          早く冬が終わればいい。君を忘れられればいい。

          私の750万種の感情を、君に全部あげる。

          きっと毎日、感情を一個失くしては別の一個を手に入れている。喜怒哀楽の4つから派生した感情は、色と同じくらい無限の種類があると思う。 色の数を正確に数えるのは難しいが、いい条件であれば人は750万色を識別できるという。感情もきっと750万種類くらいあると思うし、一つ一つに名前をつけられたらいいのに。たとえば、買ったばかりのイヤリングを片方なくしたときの気持ち。きっと「残念」「がっかり」「悔しい」などの言葉が適当なのだろうけれど、あのときの気持ちはそんなんじゃ足りないんだ。

          私の750万種の感情を、君に全部あげる。

          君と過ごす最後の冬、明日するかもしれないキスに備える

          嫌なことが連続する。意地悪な人、しつこい人、距離感間違えてる人。終わらない仕事、荒れ続ける肌、乾燥した空気と工事中の排ガス。君とまたすれちがって噛み合わなくて、その他の些細な嫌なことが生活の中でより色濃く際立っていく。そうして浮き彫りになるのは自分でもよく分からない私の気持ちと私たちの関係性。私、普通の会社員なんだよね。君と違って、平日の昼間とか無理なんだよね。ていうか、昼間からやる気出ないんだよね。色気も何もないし、だって、私たちするためだけに会うんでしょ。空いてる時間で済

          君と過ごす最後の冬、明日するかもしれないキスに備える

          私はもう、君の隣を歩くのが似合わない。

          だんだん会ってくれなくなってきてるような気がして、だんだん脳のキャパを君が占め始める。一度気になったら止まらない。仕事忙しいのかな。またいつものあの趣味に没頭してるのかな。他に好きな人でもできたのかな。彼女でもできたのかな。私のこと、忘れちゃったのかな。 と心配が頂点に達した矢先に来た返信に、生理が始まったばかりの自分を呪う。ごはんよりドライブより、したいんだけど、これはただの欲じゃない。肌に直接体温を感じたいと思うのも愛。山手通りのニトリの横につけた黒い物騒なBMW、乗っ

          私はもう、君の隣を歩くのが似合わない。

          これはきっと君には届かない私からのプレゼント

          一日遅れで君に誕生日おめでとうとメッセージを送った。あたかも、うっかり忘れてたていで。本当は最初からずっと知っていたのに。去年の君の誕生日の翌日に出会った私たち。あれからちょうど一年経ったんだね。 君と心を通わせるのは無理だと早々に諦めた。身体だけでもいいから繋がっていたくて、私も君にあげようと思っていた心は捨てた。ただ都合のいいときに連絡して、あなたが無理なら他の人に頼むから大丈夫、と匂わせて。ちょっとは君にやきもきしてもらいたかった。毎回誘うときは指が震えるほど怯えてい

          これはきっと君には届かない私からのプレゼント

          私は彼氏を“知らない人”にしたい。

          身体の輪郭に触れて、なぞるように確認するのが好きだった。長過ぎる大学生の夏休みは、毎日バイトして時々レポートを書いて君の家に入り浸ってたらあっという間に終わってしまうのは分かってた。夏休みが終わったら、彼氏が短期留学から帰ってくる。だから君のアパートに当たり前に帰って来れるのも、一緒に狭いお風呂に入って髪を乾かしてもらうのも、真夜中の公園の散歩も、夏が終わるまで。 君の身体の全部が好きだった。顔はタイプだし、パーマがかかった髪、弱小バレー部で鍛えたんだって笑って話してた厚い

          私は彼氏を“知らない人”にしたい。

          全てが愛の錯覚でできている。

          愛はほとんど錯覚でできているのではないかと思う。 無論、愛とはとうてい言葉で証明できるものではない。 私は日頃から人の言葉ではなく行動を信じるよう心がけているが、むしろ行動によって愛を勘違いしてしまうことに気づいた。 いつまでも君に会いたいとかずっとこのままいられたらなんて夢想してしまうのは、いつもおよそ3ヶ月ぶりにセックスするからきつくて痛くて苦しい最初の部分、大丈夫?痛い?と甲斐甲斐しく私の前髪を掻き上げるように撫で付け、額や瞼、耳や首筋に、押し当てるだけのそれはそ

          全てが愛の錯覚でできている。

          君は欲しいものは何でも手に入れ、そして忘れてしまう

          こんな夢を見た。僕は水族館にいる。床も天井も、水槽の中の水も、魚も全てピンク色だ。僕以外には誰もいない。ここには君と一緒に来ているような気がする。でも君はどこにもいない。名前を呼ぼうとするがそこで、彼女の名前を知らないことに気づいた。代わりに大声で叫ぼうとするが声が出ない。それなら探し出すまでだと、走り出したいのに足が動かない。するといつも君がつけているバニラみたいな甘さがほのかに香った。ローラメルシエだっけ。ふと目の前の巨大な水槽をじっと見ると反対側に君はいて、二人はまるピ

          君は欲しいものは何でも手に入れ、そして忘れてしまう

          スターフィッシュを追いかける、真夜中の甲州街道で

          セックス中じゃないと本音を言えない私たちだった。 「好きって言って」 「ずっと会いたかった」 「さいご、名前呼んで」 「  」「愛してる」 その最後の瞬間は、静止画のように今でも目の奥に焼き付いてる。毎回これで終わりにしようと思ってたから、まだその画が鮮やかで安心した。しかしゆっくり思い返してみると、さほど会話は成立していない。くるくると場面が変わる、あまり思い出せない夢のよう。でも私たちは、セックスでもしなけりゃ本音も言えない可哀想な動物だったのだから仕方がない。

          スターフィッシュを追いかける、真夜中の甲州街道で

          今日は抱かれるんじゃなく、抱きしめられたい気分

          それは多分、今年一番綺麗な夜だった。 ここの夜景、なんか好きだなって言ったら「俺もここが一番好き」って、それ、前も全くおんなじ会話したよなって何故かうれしくなった。そして刹那感じる浮遊感。これ、大好きなの。言葉以外でそう伝えたくてシフトレバーを握る君の右手にそっと私の左手を重ねた。一緒に運転してる気分。この真夜中を乗りこなしてる気分。 スタバのラテを飲みきったころ、行く宛もなく、遠くに来すぎておしゃれな店もビルもなく、そこだけ煌々と、ぽつんと明るいマックに辿り着いた。仕方

          今日は抱かれるんじゃなく、抱きしめられたい気分

          足りない睡眠時間と、遥か彼方の星座

          ここ数週間、原因不明の睡眠不足と頭痛に悩まされている。といっても偏頭痛持ちで月の半分以上の日数を鎮痛剤を飲んでやり過ごし、早く寝ようと23時にベッドに入ったところで夜中に何度も目を覚ます人生が20年以上続いているから、数週間前に睡眠不足と頭痛が始まったわけではなく、ここ数週間痛みに敏感になっているだけなのだろう。 桜が散り始めると、君と過ごしたあの春が否応なしに脳裏に暗く光る。咲き始めは少しも思い出さないのに、不思議だね。ふっと湧き上がる、やっと咲いたと思ったら一瞬で散って

          足りない睡眠時間と、遥か彼方の星座