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強面桜猫シロ ~ノラが愛を知った時~

はぁい、皆さんごきげんよう
あたし、シロって呼ばれている地域猫よ
まぁ、子供の頃からそうだったわけじゃないんだけど

元気な男の子としてこの世に生まれてきたけどさ
何だかいつも違和感があったわ
母さんはそんなあたしをあまり可愛がってくれなかった
気付いたらあたし、独りだった

縄張り争いはノラにとってはとても過酷な戦いよ
よくクロとやりあったものよ
お互い傷だらけ、血まみれでさ

ある日気づいたのよ、クロの耳がカットされていることに
人間に悪戯されたのかと思って、つい訊いてしまったの

「こりゃ目印なのさ、地域猫だっていう。俺たちはこの耳の形で桜猫とも呼ばれている」

クロはそういってちょっと照れたように笑ったわ

「人間に媚びて飼いならされて、ノラのプライドはないのか!とかおめぇなら思うかもしれねぇがよ。ちょっと違う、かな」
「何が違うのさ。あたしはごめんだよ、人間なんて!あたしたちの親を捨てたのは人間じゃないか!信じられるもんか」

吐き捨てるように言ったわ。だって本当でしょ?
どんな事情があったのか知らない
だけど、家族として一緒に暮らしていた生き物を勝手な都合で捨てるなんて
あたしは赦せない

「桜猫? へぇ、綺麗な響きじゃないか、え?、その呼び方。それで適当にノラに餌を恵んで罪滅ぼしってかい? チッ、反吐が出る」
「おめぇ、腹減ってるんだろ? いつから食ってねぇんだ?」
「…… 昨日の夜から…何も獲れなかったのよ」
「来いよ、上手い飯が食えるぞ」
「嫌よ!人間の施しは受けたくないわ!」

その時よ、遠くで人間の声がしたの
「クロ~、コチョ~、クロ~~、コチョ~~!」
それはとてもやさしい声だった。まるで自分の家族を呼ぶような…
小さいころ母さんが呼んでくれたような…

それでついあたし、クロについて行っちゃったのよ

「あら~シロちゃんね?いつも来てくれなかったのに。さぁ、おいで。どれがいいかなぁ?ほらこれをお食べ」
クロはムシャムシャ食べていた。コチョというクロの娘もやってきたわ。コチョの耳も桜の形だった


あたし、本当にお腹が空いていたのよ。だからそのご馳走をぺろりと食べた
それがどれほど美味しかったか!どんな言葉でも言い表せないわ

あたしがあまり出会った事のないその優しい人間は、私をじーっと見たわ
あたし少し警戒した。何かされるんじゃないかって

「あんた人相悪いねぇ~。そうかそうか、お腹が空いていたからいつもクロと喧嘩していたの?これから毎日おいで。喧嘩しないでここの子におなり」

ここの子?ってどういう意味か分からなかった
クロがそれが地域猫になるということだと教えてくれたわ
食べ物だけじゃない。病気になったら治療してくれる
でも去勢されるよ、って
流石の私も血の気が引いたわ
だってそうでしょ?

でも暫くして、気づいたら私は桜猫になってたの
近所のマンションの優しい人たちに毎日可愛がって貰えるようになって
私の気持ちも段々穏やかになっていったわ

「シロ、優しい顔になったね。よしよし可愛いね」

そう言って私を撫ぜてくれるのよ、
こんなあたしを

可愛がってもらう、愛されるってことがどういうことか、
クロもコチョも幸せになるために地域猫、桜猫になったんだって
あたしもね、それでようやく分かったの

何ていうのかしらね?温かい?とかいうのかしら?
もうクロと喧嘩することはないし、食べ物の心配もいらない
時間が来ると美味しいご飯を持ってきて、あたしを可愛がってくれる人が来る
私を写真に撮ってくれたり、他にも色んな人があたしたちを可愛がってくれたわ

そうね、もう少し早くここへ来ていたら…
あたしの猫生も違っていたかしらね?

で、ね…気付いてたの
何だかね、少し調子が悪いかな、あたしって

この間カメラを持った人に話しかけられて
いつもならスリスリってしにいけるのに、動けなかった
あたし、日向で丸くなって…ウトウトってしていて
その人に何か言いたかったけど、もうそれもしんどくてね

12月の寒い日
カラスがあたしを見ていることに気付いたわ
狙われていると分かったけど、動けなかった

つつかれて
でも彼らも必死なのよ、その気持ちは分かっちゃうのよね

つつかれて
あちこちつつかれて

痛い、痛い
お母さん、お母さん
痛い助けて

バカよね
聞こえる筈ないのにね
あたし優しいあの人を呼んでいたのよ

あぁ、そうなんだ…あたし、そうなのか…
終わるんだなって 
カラスに啄まれながら、痛みに耐えながら思った
優しい人たちとも、クロやコチョともお別れなんだって

お母さん

毎日ご飯をくれて、撫ぜてくれて
可愛いねと言ってくれた
あの優しいお母さん

最後にもう一度
もう一度逢いたい

でもあたしも猫よ
惨めな姿を晒すわけにはいかないのよ

ごめんね、お母さん

私はヨロヨロと逃げた
毛が抜かれて、その辺は白くなっていたわ
逃げても逃げてもカラスは追ってきて、2羽、3羽と増えて…


ここからは俺が話すよ

シロは襲われていた
だけどもう俺達にはどうすることもできなかった
俺はシロはもう随分歳で、病気だったと思う
シロは俺にも何も言わず、猫らしくどこかへ消えた
あちこちに白い毛が落ちていてな…

俺たちを世話してくれているAさんは、ずっとシロが帰ってくるのを待っていた
毎日シロ、シロって呼んで探して
そしてシロの毛がたくさん落ちているのに気づいて
カラスかもれない、と分かったようだった

最後にシロを見てからもうすぐ一月くらいかな
Aさんはシロの遺体を捜し歩いていたが、さすがはシロ、見つからねぇ
Aさんは今もシロの皿に食事を入れてくれるんだ
シロの魂がきっとここに来ているって信じている、
と言っていた

コチョは暫く黙っていた

「父さん。シロさんは…逝ってしまったの?父さんもいつか…」
「そうさな、俺もいつかは虹の橋とやらを渡るんだろうな」
「私も?」
「この世に生まれたものはな、どんな生き物もいつか皆虹の橋に行かないといけないんだよ、人間も猫もみんな同じなんだ」

最後はあたしが自分で〆るわ!

あたしの猫生も悪かぁなかったわよ
ノラとしての自由さと、人に助けて貰いながら可愛がって貰いながら生きるってさ、
フフッ
このあたしが人間にスリスリするなんてさぁ、笑っちゃうけどね

だけど、ホント…

あたし最後の3年間、とても幸せで楽しかった
こんな猫生があるなんて思ってもみなかった
去勢はちょっと屈辱的だったけど
ノラを増やさないための人間なりの答えなんだってことも理解できたわ
だから、思い残すことないの

Aさん、お母さん
ありがとう
もう泣かないでお願いよ、探さないで
これはあたしのプライドなのよ
ごめんなさい、お母さん

でも嬉しい
ありがとう、としか言えないのが悔しい

あたしを可愛がってくれたマンションの皆さん、
そして写真を撮ってくれた踊る猫さん

ありがとう
本当にありがとう!
いつかまた逢えるわね?虹の橋で待ってるけど、
慌てないでゆっくり来なさいよ
Bye💕ウフッ


昨年のクリスマス前、シロを見ました
ウトウトしてるようにみえましたが、何となく元気がないようにも感じました
お正月に、Aさんからシロがいなくなったこと、白い毛が何カ所かで見つかったことを聞きました
そしてシロは帰ってきませんでした

Bye、シロ
ゆっくりおやすみ





 




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