猫と私と世界のみかた

猫のはなし

大きな出会いというのは画家の世界観にも影響を及ぼすもので、今日はそんな話を。

去年出会った猫との物語です。

出会い

2018年6月に結婚し、今の家に越してきました。

その、翌日。

調度品を揃えるために買い物に行こうと家を出て、車に乗り込む直前、夫が素っ頓狂な声を上げました。

「お前…どうした!?」

なんだろう。また洋服の目立つところに絵の具でもついているのだろうか。
仕方ないじゃないか。一応画家なんだ。しかも不器用なんだ。不器用な画家が絵描いたら服汚れるに決まってるだろうに。

と、振り向くと。

おそらく、今まで見た中で1番小さなサイズ感の、子猫がいました。

猫好きの私は、あらあらどうしたの~などと甲高い声を上げて子猫に近寄りました。

が、何か様子がおかしい。

声が、出ていない。

何か必死に鳴いているけれど、その声は、ぐぇっ、とか、ぎゃっ、とかで、顔を見ると目やにだらけ。
そして、何歳かはわからないけれど、一匹でうろつくには異常に小さい。

猫を飼ったことのない私にも、この子猫が健康な状態でないのはすぐにわかりました。

子猫は涙目でこちらを見て、必死に足や腕にすがりついてきます。

「病院に連れて行こう」

ということになり、ネットでその日開いていた病院を探して、急いで向かいました。

病院にて

病院でわかったのは、子猫はおそらく生後2ヶ月ほどの野良猫で、猫風邪を引いているということ。

そして、

「この子は助からないかもしれない」

ということでした。

猫風邪で体力が落ちており、極度の飢餓状態にあるのに食欲がなくてものが食べられない。ミルクも飲めない。

「飼えますか」

と、獣医さんは私たちに尋ねました。

「多分猫風邪で弱っているところを母猫に置いていかれたんだろうけど、こういう子を見つけたらね、もし飼えないなら放っておくしかないんだ…可哀想だけど。それが自然界の掟だからね。
それにもし面倒を見たとしても、このままミルクも飲めないままなら今晩が山だと思う。…どうしますか」

迷わず、飼おう、と思いました。

1日しか一緒に過ごせないかもしれないし、10年、20年と生きてくれるかもしれない。

はっきりしているのは、今私たちがこの子を助けなければならないということ。

そういうご縁なのだろうな、と思いました。

野良猫、新婚夫婦の家に来る

飼います、と告げると、獣医さんはとても嬉しそうな顔になり、色々と指導してくれました。

シリンジでミルクをあげるときは、誤飲してのどに詰まらせないように、すこしずつ、すこしずつあげるということ。そして、とにかくあたためることが大事ということ。
おすすめの粉ミルクまで教えてくれました。

帰りの車の中で、子猫の名前は「柘榴」に決まりました。

帰ってからすぐに看病が始まりました。
ダンボールにお湯を入れたペットボトルとふわふわのタオルを入れ、その中に子猫を寝かせます。
夜も夫と2時間おきに起きてミルクを少しずつ飲ませたのですが、やはりあまり飲んでくれない。
やはり助からないのでは、と不安になりました。

しかし柘榴は少しずつ元気を取り戻し、みるみるうちにやんちゃな子猫になっていったのでした。

生は無常、なれど

あれから9ヶ月が経ち、柘榴はすっかり家族の一員として定着しました。

先日去勢手術をした際に猫エイズや白血病の検査もしたのですが、いずれも異常はなく、いたって健康体とのことです。

本当に元気になって、実のところ、今も私の執筆の邪魔をしにきています。

柘榴と出会い、私の内面も少し変化しました。

ここ数年画家として取り組んでいるテーマのひとつに「生と死」があるのですが、私の場合はテーマの捉え方が、無常観というか、多少厭世的な目線に基づいていました。

それが、必死に生きようとする小さな生き物の姿を目の当たりにして、違った捉え方もできるようになったのです。

この世は無常ということに変わりはありません。
しかし、この小さな生き物が健気に生きようとする世界でもあるのだと、そんなことを思うようになりました。

それでは、柘榴が遊んで欲しそうにしているので、本日はこれにて。




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稲場麻佑

画家。北海道在住。美しいものとおそろしいものを愛する。恩師の元で現代美術と禅を研究中。 芸術のつれづれを語るWebマガジン「ヴィーナスのスープ」はじめました。 オフィシャルサイト http://mayuinaba.strikingly.com

ヴィーナスのスープ

芸術のあれこれを語るマガジン。 創作論、エッセイ、作品解説などを掲載します。 ゆったり読んでいただければ幸いです。
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