接触恐怖症のサキュバスの恋

『花に生まれたかったな。___そしたらこんな気持ちにならなくてすんだのに。』

___ 接触障害のサキュバスの恋 ___

ものごころつく頃には既に違和感を感じていた。
恐ろしいほどの焦燥感。
それは不安なまでに渇きを伴い、いくら水を口にしても満たされず。次第にうなじから肩にかけて石が焼けるような熱さでくらくらした。
そういうときは限って花にとまっていたはずの虫が寄ってくるのだ。

うずくまるように膝を抱えてじっとして不安をやり過ごした。
するとやがて熱はひき、蝶たちも消えていた。

ふと足下に気配を感じて下を見ると、蝶の羽の片方だけ青白くうっすらと光っていたので拾いあげて母に聞こうと家路についた。
母曰く、昔からの言い伝えで光る蝶が舞う森がどこかにあり、その森への入り口が世界のどこかと繋がる瞬間があるらしく、光る蝶が飛ぶ様子を見ると幸せになれるという話だった。

その日の夜はワクワクと光る蝶や蝶たちの暮らす森や森への入り口はどこから現れてくるのだろうかと、あれこれ空想しながら天井のオレンジ色の間接照明のささやかな明かりに掌を重ねて両手で蝶の影を編みながらうとうとくらり。
気づいたら遮光カーテンの隙間から見える朝の光に昨夜のことがまさか夢であったかと不安になり光る羽をしまった机の引き出しを勢いよく開けると、青白い羽。そっと両手で包んで覗き込むとぼんやりとした光を帯びていた。

___ よかった。昨日のことは本当だったんだ ___

その日から私は入り口を探すようになった。
家の窓 ドア 公園のブランコ 藤棚 通学路の先の空き地 校門から校舎の裏のタイムカプセルを埋めた大きな木、思いつく限りの「入り口」を探した。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?