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誰かの冒険心がフードトレンドを作ってる

フルーツを料理に使うのがアリか否か

という問題については、
ちょっと極端ですが
それで友達になれるかどうか、
恋人として付き合えるかどうかを測る価値観さえ含まれているような気がします。

あなたは、どうですか?
パイナップル入りの酢豚は、最初からOKでしたか? ぶどう入りのサラダ、好きですか?

何年か前に、古くからの友人と2人、
ふと入ったワインバーで
「グリルした厚切りじゃがいもに炙りしめ鯖といちじくをのせて。バルサミコをふって」というつまみを見つけたのですが、
その美味しかったこと。
それ以上にうれしかったのは、

なにこれ、美味しい!

と、その味わいを共感し、
互いの友情を再確認できたことでした。

たかがそんなことで。
と自分でも思うのですが、いえ、なかなかの大問題です、これ。
というのも、

こんな味の組み合わせ、アリじゃない?

という“実験”を楽しめることは
その他のいろんなシーンで、喜びを共有できる確率が高まるから。

思えば、昨今の食のトレンドってまるでファッションのようです。
世界のどこかで
食のチャレンジャーが試みた小さな実験が、
誰かの共感を生み、真似され、広がって
新たなトレンドになっているのではないでしょうか。

例えば前述のいちじくは、
過去には「おばあちゃんの家の庭にある懐かしい果樹」といったイメージを持つ人が多かったと思うのですが、
少しワイルドな甘みや土っぽい香りは料理に使うと相性抜群で、
今や、夏から秋にかけて、いちじくはハイエンドダイニングのコース料理に欠かせない存在です。
そのほかにも、菊芋、ビーツ、パクチー、からし菜、カリフラワーといった食材たちが、
まるでグランメゾンの「it bag」のような勢いで
シェフの冒険心に満ちたアレンジを施され、
私たちの目の前に、美しい一皿となって現れては消えていく昨今。

レストランでこれらの「it food」に出合う時、彼らは私たちの馴染みの顔はしていません。
菊芋はフムスやソースになって、
ビーツは塩釜調理でしゃれた木槌と共に、
パクチーは根っこがカリッとフリットになって魚介の肝と合わさって、
……という斬新な味と姿で登場したりします。

私はこれら、“いきなりライジングスター”的なトレンドフードを見るたびに、
ちょっと昔の話ですが、「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープが下っ端編集者役のアン・ハサウェイを叱咤した際の言葉を思い出します。

そのセルリアン(カラー)は、ある年幾人かのデザイナーのコレクションに登場してからブームになり、そのトレンドはその後さまざま伝播し、あなたが今バーゲンで手にしている。その色は巨大市場と無数の労働の象徴なの。

メリル・ストリープがこの言葉を誇らしく言い放ったか、若干の揶揄を込めて言ったのかは観る人によって印象が変わるかもしれません。
ですが今、食の業界でも同様のことが起こっている。
しかも、SNSの台頭によって、伝搬スピードは「プラダを着た」の時代とは比べものになりません。

美味しいものは今、普遍的なものとそうでないものに分かれます。
しかし、食と楽しく生涯向き合い、パートナーとも食卓を通じて仲良くやっていきたいなら、
後者の美味を味わうワクワク感もシェアできる方がきっと楽しい。
世界のどこかで、
数ヶ月前に食の冒険者が発見した

わー、この組み合わせアリ!

という新しい“味のマリアージュ”に対して
心から賞賛できる方がやっぱり、
味わいの濃い人生を送れるんではないかなぁと思います。

#料理 #フード #レストラン

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。