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「ドタキャン vs レストラン」の攻防

1年以上が経った今も、この記事を読んだ時の衝撃と悲しさは忘れません。
大阪の居酒屋さんで、年末の繁忙期に30人のドタキャン、というニュース。

ありえないでしょう! 
この日の売り上げがパーになるばかりか、
ゲストのために準備した食材も、おもてなしの気持ちも、すべておじゃん。
いったいどんな了見でそんなひどいことができるのか。
飲食業の人とお仕事することが多い身としては、
これはもう、犯罪レベルじゃないかと思ったものでした。

けれど、その後注意してSNSを眺めていると、
知り合いのシェフや飲食店オーナーの方々って、けっこう頻繁に
「今日の夜、6人のキャンセルが出ました。どなたかいかが?」というような投稿をされているようなんです。
ドタキャンって今や日常茶飯事なんですか?

そんな投稿が上がると、その後が気になって仕方ありません。
「おかげさまで無事に席は埋まりました」という追加投稿を見ると、
素敵な人が手を挙げたんだな、と、
コメント欄のやりとりまで読んだりして。

シェフのキャラクターによって、
このドタキャン後の対策や投稿にも、色々バラエティがあるようです。
中には、恨みつらみをジトジト書いていらっしゃる方もいますが(気持ちはわかる)、
さすがサービス業!と拍手したくなるような方もまた、多数。
「来て下った方には、僕のスペシャルな料理一品、サービスします」
などというのも素敵ですが、
東京・外苑前のフレンチレストラン「AIX:S(エックス)」の山下敦司シェフが、
何百人もの知り合いに向けて行った投稿は、ちょっとすごいと思いました。

「団体のお客様キャンセルによるイベント開催! 当店のおまかせディナーコース全10皿を、一夜限り3500円で提供させていただきます」

権威あるレストランガイドや料理コンペティションにも掲載されるガストロノミーレストランなんです、ここ。
ディナーコースは、通常ならば5800円。
しかし、思い切った値段の下げっぷりにも驚きましたが、
お客様のキャンセルというネガティブな話を堂々と公開し、イベントにし、
みんなで食材を無駄にすることなく楽しんでしまおう!
……というその姿勢は、さらに素晴らしいと思います。

ゲストのドタキャンに対して、レストランはここ数年、
様々な対策をとるようになりました。
予約時にフルネームを尋ねて電話番号を記録する(フルネームを聞くのは効果があるそうです)、厳格にキャンセル料をとる、予約日の前にゲストに確認の電話を入れる、予約時にデポジットをとる、など。
海外のレストランでは、予約と同時に金額振込という店もありました。
一度払いこんだら、確かにキャンセルなどしなくなることでしょう。
悪いことではないと思います。

しかし、「お客様は神様です」という謎の標語が横行する国、日本。
しかもサービス精神旺盛で心も優しいシェフたちにとっては、
例えキャンセル料を得て損は生じなかったとしても
きっと心は折れているはず。
「おもてなしの準備をしたのに、来てくれなかった……」というのは、
そりゃあもう、ハートにキツいでしょう。

当たり前のことですが、ドタキャンはダメです。
4人の予約が2人になってしまったら、
「1人で2人前、飲んで食べますので許してください!」と言うくらいの気構えがゲストには必要ではないでしょうか。
そのくらい、「お金を払って料理を食べる」という行為には
店側にも客側にも、深い意味があることだと思っています。

#レストラン #シェフ #ドタキャン #料理

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。