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人間の三大欲のうち、なぜ食だけは

性欲、睡眠欲、そして食欲。

かねがね不思議に思っているのですが、
なぜ私たちは、人間が生きるためのプリミティブな才として与えられた3つの欲望のうち、

食の話だけ

なんの抵抗も恥ずかしさもなく
爽やかな朝の光の中でも、
初対面の人とでも、
繰り広げることが出来るのでしょうか。

世界の共通言語としては現在、
英語、中国語、ヒンズー語が出来たら
地球上のかなり広い範囲でコミュニケーションに不自由しなくなると言われてますが、
私はそこに「食への健やかなる好奇心」というのも
あえて「準言語」として入れたらいいのではと考えています。
だって本当に、「ウマ〜い!」というのは世界各国、共通言語。

幸いにも、生まれつきそれほど好き嫌いがなく、
飲食店で「苦手なものは?」と聞かれたら
本気で

ノンアルコールとローカロリー

と答えてるくらいなんですが、
仕事の場で出会う初対面の方との話題は
(職業柄もありますが)もっぱらフードの話です。
食の趣味嗜好について聞いてしまえば、
例え相手の事前情報が極端に少ない場合でも
なんとなくその後の社交対策やプレゼンのヒントが得られるような気がしませんか?

最近目にしたテレビや映画でも

ほらほら、やっぱり食は言語!

……と思うようなことがありました。

NHKのドキュメント番組「サラメシ」で
ゲーム製作の会社社長が、
放っておけば食事も摂らないまま製作に没頭し、
食事を採れと言ってもコンビニごはんで済ませてしまうスタッフへの福利厚生として
個人ケータリングを社食として採用しているのを見ました。
社員はみなさん、ゲームオタク然とした青っぽい若い男子たちでしたが、
栄養バランスのいい美味しいごはんを作ってくれる美しい女性から
「ほら、野菜残さない!(怒)」とか言われながら
うれしそうにみんなで食事している様子は、
感動的でさえありました。

昨年、おおいに話題になった映画「クレイジー・リッチ!」はご覧になりました? 
映画の中で、最初に家族をつなげる小物として登場したのは餃子でした。
ゴッドマザー的存在の祖母、冷たい彼ママ、その他の家族たちに囲まれて餃子を包みつつ「私、この家でやっていけるかな」と期待に頬を紅潮させる主人公のレイチェルが、なんとも印象的。
同時に、大陸に生きる中国人と、米国に生まれ育ったチャイニーズアメリカンとの意識の差をくっきり浮き彫りにするきっかけが、
この餃子のあたりから始まったような気もしました。

人間ですから、付き合いや愛が深まれば、他の2つの欲望も他人と共有できたりもします。
結婚したりパートナー関係を結んだりすれば、三大欲のすべてを分かち合いつつ暮らすことになりますしね。
しかし、相手との関係が熟し果てれば、次第に食以外の欲は二人の間から遠ざかっていきます。
枯れて静まった睡眠欲や性欲は、やがて相手と共有する必要はなくなるかもしれません。

それでも食への欲は、残る。死ぬまできっと共有できます

食欲は言語
初対面の人と分かり合うためのツールだし、
心が離れた家族との関係を修復してくれる接着剤にもなり得ます。

だからやっぱり、私たちは食への欲望をなめちゃいけません。
自分が何を美味しいと思うのか、相手がどんな料理に萌えているか。
そんな関心を失わず、
時に厄介でありながら愛すべきこの欲望と
真面目に向き合っていくべきだなーと思っています。

#料理 #生き方 #欲望 #コミュニケーション



フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。