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映えない旅に萌えるんです

友人の若きシェフ、大野尚斗さんが、
また旅に出ました。

彼のこと、私は勝手に「流しのシェフ」と呼んでますが(すみません)、
それというのも彼が世界中の至る場所で、あらゆるレストランの厨房にいつの間にかフラッと招かれ、
料理を通じて素敵な交流を続けているからなんです。

「料理界のハーバード大学」

と異名をとる、ニューヨーク郊外の調理師学校「CIA」を卒業された大野シェフ(某国諜報機関じゃないですよ)。
今回の旅はヨーロッパ各地を巡り、最終的にはスウェーデンのレストラン「ファビケン(faviken)」の厨房でフィニッシュとのこと。
「ファビケン」は世界中の食いしん坊から憧れの眼差しを集める店で、
“変わり者過ぎる”と評判のシェフが率いるガストロノミーです。
いつか行きたいなーと思ってたら、この年末でクローズするのだと発表されました。
そんな折に、この名シェフの人生ピリオドを、はるか日本から訪ねるシェフが、そばで見守ろうとは。
なんとナイスプランなの!と、聞いたときはビビっちゃいました。

大野さんの旅は、私には非日常過ぎて、

もったいないからnote書きなよ!

と言ったら、サクッとスタートされました
すごく面白いのでぜひご覧ください。

ところで、私も旅が好きです。
いえ、好きというよりは

旅は人生の必需品

とさえ思ったりします。
これまでは、旅といえば出張がメインでした。
家の人と大げんかして衝動的に出かけたシドニー1週間、とかのレアケースもありましたが、
基本的に、魂が赴くままに出かける土地というのは、最近あまりなかったような気がします。

しかし先週、出張で訪れた富良野で、なんというかこう、

旅の概念ひっくり返る

みたいな体験に出逢いました。

場所は北海道、富良野です。
「リゾナーレ トマム」という、国内外の新たな旅スタイルを提案する「星野リゾート」が運営するホテルを訪れたのですが、
プレスツアーの一環で、3年前に敷地内に誕生したファームを見せていただきました。
ファームは元はゴルフ場だった場所で、平成28年夏の台風10号により甚大な被害を受け、
「いっそもう、ゴルフ場として建て直すより別のベクトルを探らない?」という
星野リゾートらしい素敵なアイデアによってファームになりました。

富良野の牧場というからには、乳牛を育てよう。
搾ったミルクでトマムオリジナルの乳製品を作ろう、
……という意気込みの元、5頭の乳牛がファームにやってきました。3年後の今、乳牛は全部で11頭に。いい話です。
夕暮れの富良野の大地を眺めながら牛たちを牛舎に入れる「牛追い体験」というのに同行させていただいたんですが、
「山口さん、もしよかったら乳搾りしてみます?」とスタッフの方がおっしゃってくれて。
もちろんやりますとも

そこからの1時間は、ここ数年の中でも最も濃い、プリミティブな時間でした。
普段は放牧されている牛たちも、搾乳中は安全のためにゲージに入れられます。
柵の中ではしゅんとうなだれる牛たち。
ぱんぱんに張ったおっぱいが苦しいのかもしれません。
そっとおなかに触れると、びっくりするくらいホカホカしています。乳牛って、通常体温が38度くらいあるんですって。

濡れた瞳に影を落とす長い睫毛、
ゆっくりと垂れ落ちる透明なよだれ、
乾いてシワの寄った乳首の触感と弾力、
シュッとお乳の出る音、
青っぽい乳の匂い、
それに混じる土や草の香り、夕張りの匂い。

あぁ、こんなふうに書いてるとまるで官能小説のようです。

搾乳を通じて強烈に感じたのは、

私は生物の養分を頂戴して生きている

という事実でした。

これまで、どこに行ってもスマホでパチリして、
「映える映えない」の勝負になんとなく参戦してた私ですが、
今まで知らなかったことや、
知ってると思い込んでて知らなかったことを、
身をもって体験するために旅してるんだと
このとき、改めて気づきました。

今わたし、映えない旅に萌えています

何か、吹っ切れちゃった感じがして、
以降、とっても気分がいいんです。


#旅 #料理 #COMEMO

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。