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田村シェフがmakuakeで1000万円を24時間で集めてしまった

数々の星付きレストランで修業し、ついにご自身がシェフになったと思ったら早々に才能を惜しまれつつ身を引き、「今後、料理は趣味にします」と断言して我々グルメ編集者をザワつかせた田村浩二シェフ。その後は、「まぁよくそんなにいろんなチャレンジができるもんだ」とさらに周りをザワつかせる多彩な事業展開が見事です。中でも2018年にスタートした、オンライン販売が主軸の「Mr.CHEESECAKE」の快進撃が止まりません。5月31日、事業を大きくするための施策としてクラウドファンディングを「makuake」で実施されましたが、目標の支援総額200万円を募集開始2時間後にクリアし、24時間後には1000万円を突破。この現象を側から見ていた私は心底驚いてしまい、忙しい田村シェフに質問メールを送らずにはいられませんでした。そして今、この間のやりとりを見返すと、まるでインタビュー記事のよう。シェフも自身のこの数日間を振り返って記事をあげるそうなので、いっそ同時多元配信してみるのもいいかもねということで、トライすることにしました。

山口 どうするんですか、こんなことになって。まだ1日しか経っていないのに目標の600%を達成しちゃいましたよ⁈

田村浩二さん(以下、田村) こっちだって驚いてますよ! とりあえずお礼のメッセージをmakuakeやSNS各所でアップし、追加リターン(元々決まっていた数以上の支援枠を追加すること)も発表しました。ありがたくて、大げさではなく涙が出ます。
しかし、支援者の皆様にリターンをすべてお届けした時点で初めてプロジェクト終了ですし、今はまだスタート時点。成功するかどうかはまったくわからないし、成果が出るのは当分先のことです。

山口 昨年、「Mr.CHEESECAKE」創業の設備投資に必要な出資金もクラウドファンディングで集めたってことでしたよね。その時の成果は?

田村 あの時はBASE内の「ショップコイン」という、あくまでもクラウドファンディング“的”なもので、キッチンの準備のためにと思って試みました。130万円のご支援をいただいたんですよね。

山口 では、創業1年で今度は本気のクラウドファンディングを思い立った理由って何だったんですか? 今回のこの結果、どうしますか? 支援応募の受付終了までまだあと50日以上もあるんですよ⁉︎

田村 質問がまっすぐすぎます……(苦笑)。まず、決意した理由は2つ。おかげさまでそこそこ売れるようになってきたチーズケーキなんですが、販売数が増えるに従いスタッフの労力の限界が見えました。猛暑が終わる頃もみんな笑顔でいるためには、商品の品質維持のための急速冷凍機と、スタッフの労力を軽減する業務用ミキサーの導入が急務だったんです。
また、クラウドファンディングには資金調達以外にも魅力的なメリットがあります。それは知名度アップ。「こんな活動をしているんだよ」と世に伝えるメディアとしても、非常にありがたい存在です。
ただ、その一方で思うんですが、「儲かるの?どんな感じ?」と誤解する人が多すぎます。山口さんもそう(はい、その通り)。クラウドファンディングは事業を始めるため、あるいは軌道にのせるために必要な資金を、不特定多数の方々にプレゼンすることによって理解してもらい、“支援”をいただくシステムであって、集まったお金は“儲け”ではないんです。支援者の方々には出資額に相当するリターンをお返ししますし、さらにmakuakeへの手数料が20%、材料費や人件費、送料なども含めると、手元に残る金額というのはみなさんの想像よりははるかに低いものです。逆に、そこで儲かるようだとクラウドファンディングの理念にもとるのではないのかな。

山口 確かにそうですよね……。ごめんなさい、数字のインパクトに目が眩んでしまいました。田村さん自身は、このプロジェクトを成功させるために事前に努力されたことってあったんですか?

田村 どんな方にも興味を持っていただけるよう、実はかなり多くのリターンメニューを用意したんですよ。最もカジュアルなのが、チーズケーキとオリジナルの黒豆ごぼう茶をセットにした5,000円のもので、他にも、今後作ろうと思っているフレーバーチーズケーキを送るとか僕の著書をセットにするとか、セミナーを行うとかパーティーで出張料理を担当しますとか。最高位が、企業やブランドのイメージに合わせたオリジナルのケーキを製作するというもので、それは提供数2名(社)限定で、1枠150万円です。メニュー数は全部で20弱はあるかと思います。
僕が聞いた話だと、懇意の支援者に事前にお願いして初速をあげるなどのテクニックもあるそうなんですが、残念なことにそういうあてがなかったので、とにかく幅広い層から「これなら参加できる」と思っていただけるように、リターンの幅を広げるという工夫をしてみました。
知人や友人には、お知らせの意味も兼ねて事前に「makuake、始めます!」というメッセージを送ったりもしましたが、せいぜい20名くらい。

山口 現段階(スタートから1日半経過)で680人の支援者が集まっています。この内訳って、どういう人たちでしょうね?

田村 まだはっきりは分からないのですが、コメント欄を見ていると1割くらいは知り合いや友人かなという気がします。ですが、大多数は過去にチーズケーキを召し上がっていただいたことのあるリピーターの方ではないかと。

山口 ここまで予想を上回る期待が集まると、対応も大変なのでは? 正直いって、全員にリターンを送るだけでも疲れ果ててしまいそうです。

田村 アハハ、そんなことないですよ。ここ数年、「Mr.CHEESECAKE」だけでなく他にもいろんな事業に関わってきたおかげで、勘をつかみました。先に発注量がわかっているのでコントロールが可能なんです。レストランと違って、クラウドファンディングは予約のドタキャンとかありませんからね。その辺は心配していません。ただ、受注数をこなすことと、支援者の方々の期待に応えてもっとこのブランドを好きになってもらうことは別なので、そこは頑張らないといけませんよね。

山口 田村さんの近著『人生最高のチーズケーキ』には、このケーキのレシピが載ってますけど、それってどうなんですか? 誰にでも作れちゃうけど、クラウドファンディングで出資も募るってことですか?

田村 あの本のレシピ通りに作れば、“ほぼ同じもの”が作れますよ。それは僕、断言します。ただ結局、そうなってくると今度はどんな材料を使うかでディテールも変わるので、パーフェクトな相似形を作るとなるとおそらく、買う方が安くて早いと思います。
じゃあなぜ、あの本を出版したか。それは、チーズケーキを作ることで得られる感動を伝えたいなと思ったから。僕は子供の頃からチーズケーキが猛烈に好きで、誕生日にも「バースデーケーキはチーズケーキにして」と母におねだりするような奴でした。その情熱はプロの料理人になってからも冷めず、ついに思いが爆発したんです。レストランに勤めていた時ですが、深夜、営業が終わってから厨房で一人、完璧なチーズケーキを作るために何百回も試作を繰り返して。当時の睡眠は1日2時間くらいでしたが、それでもやめられないくらい幸せでした。その結果生まれたのがこのチーズケーキ。もっと具体的に言うならこのレシピなんですが、これはもうパーフェクトであると自信を持って言えます。スタッフにも伝えているし、書籍でも紹介したし、とにかくみんなに作って食べてもらいたい。一口食べると、うわぁ!ってなるような幸福感をチーズケーキはもたらしてくれると、うったえたいんです。

山口 そんな熱い話をされる様子だと今回のプロジェクトの初動は本当にうれしいことだと思うんですが、スタート翌日ですでに達成率600%を超えました。今後、どうなると思いますか?

田村 こうなったらもう、全力で走るしかないです。今回の目的のもう一つは「多くの方々にMr.CHEESECAKEを知ってもらう」ことなので、それはまだ達成されているといえませんしね。疾走します。もし2,000万円とか超えちゃったらちょっと怖いですが、そうなったらもう、スタッフのみんなと必死で対策を考えて乗り越えます!

山口 なるほど。クラウドファンディングって成功すれば素敵ですが、同時にちょっと怖いところもありますね。決死の覚悟が必要というか……。「想像を超えちゃったので、ミッションインポッシブルです、ごめんなさい」なんて言えませんもんね。そのあたり、私は完全に誤解していたなぁと思いました。最後に聞きたいのですが、またちょっと意地悪クエスチョンです。田村さん、こんな大成功を収めちゃったわけなんですが、資金集めに苦労しまくった挙句に残念な結末を迎える人もたくさんいるわけですよね、この世界って。反感を抱かれることもあるんじゃないですか?

田村 批判が怖くてビビってたら何もできませんよ! 今でも、批判やマイナスのご意見をいただくことはあるんですが、チーズケーキが好きすぎて、とにかくこれをなるべく多くの人々の口ん中に放り込みたい!……と真剣に思っているので、小さなことは気にしません。

山口 あ、でも、これまでのガストロノミーの世界といい、SNSの才能、執筆好き、セミナー上手など、“一人ダイバーシティー”みたいなところがある田村さんにとって、チーズケーキが有名になりすぎてその多様性が損なわれてしまうのって、怖くないですか?

田村 このチーズケーキが多少有名になったからって、僕の多様性が奪われるとは考えていないんです。スタートさせて本も出して、ってのは僕がやったことですが、今やもう、スタッフに製作の技術はすべて共有していますし、さらにクオリティーも上がりました。すでに僕個人のものではありません。チームとしての「Mr.CHEESECAKE」のスタートダッシュを、今回、makuakeが応援してくれたと感じています。なので責任重大。募集終了時にどんなことになっているかをドキドキ想像しながら、ますます頑張りたいと思います。

そんなやりとりをしている間にも支援者の数は増え続け、3日後の今朝の時点では737人。集まった金額は1,370万円を超えました。何度も言うようですが、募集期間はまだ50日以上あるのに、です。田村浩二さんは、間違いなくちょっと変わったシェフ、いや、元シェフだと思います。今はレストランの厨房に立つことはないものの、少し離れた場所から食の世界を俯瞰しつつ、今日はセミナー、今日は地方の生産者と産地巡り、今日は海外で現地のシェフとリサーチ……といった具合に、じっとしていられない日々を謳歌中。その合間には、膨大な量の思いや考えをTwitterやnoteで発信しているのも、なかなかできないことです。「料理人といえば日がな一日厨房にこもり、料理のことだけ考えて」という過去のイメージを鮮やかにくつがえし、作家にも講師にもタレントにも評論家にも、何者にでもなれると証明しています。そんな変幻自在っぷりがまた今どきのシェフだよなぁと、ご本人は「今後、シェフはやらない」と言ってるのに勝手に期待してしまうのですが。

田村浩二さんの視点から眺めた「この3日間」はこちらでどうぞ!

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フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。