カラフル紫陽花

ワンクリック詐欺の被害に|ネット時代の性教育と人権

1-4.ケータイでアダルトサイトを見始めて

マサユキが高校に上がった2000年代初頭は、パソコンが一家に一台あることが珍しくなくなった時代だ。インターネットの登場は、青少年の性的メディア環境に激震を走らせたと言えよう。何しろ18歳未満でも、年齢を詐称すればアダルト動画は見放題。しかも無料。エロ本やAVの入手に、わざわざ知恵を絞る必要もなくなったのだ。ただ、自分専用のパソコンを持つ高校生男子は、約2割しかいなかった(2005年、日本性教育協会調べ)。

マサユキの家庭でも、両親がパソコンを購入した。やはり家族共有のもので、リビングに置かれている。マサユキは親がいないときを見計らい、パソコンでアダルトサイトを見るようになった。

「『綺麗なお姉さん』ものが好きだったんです。でも、突然画面に変な広告が出て、消えなかったりしたんですよね。『怖い怖い』と思って止めました。履歴も残るし。基本的に僕チキン(臆病)なんで。意図しなくても、性的なサイトに誘導されることもありました。アイドルの名前で検索してもAV女優関連のサイトにヒットして、そこからアダルトサイトへつながるとか」

高校入学を機に携帯電話を買ってもらっていたマサユキは、アダルトサイトには携帯からアクセスすることにした。携帯ならば、自分の部屋で見られるので便利でもある。2年生のある日、いつものように携帯からアダルトサイトを見ていたマサユキは、よりディープなサイトに入るためのリンクをクリックした。その瞬間、「登録されました。5万円払って下さい」と表示が出た。

「IPアドレスも出たので、自分の個人情報がバレたと思いました。ものすごく悩みましたよ。結局、母親に相談しました。アダルトサイトを見ていたことも正直に話して。母は冷静に『払わなくていいでしょ』と。当時大学の法学部に通っていた姉にも相談したら『絶対払わなくて大丈夫』と言われ、シカトし続けたら結局何の請求も来ませんでしたけど。クラスには、同じような被害にあった男子が結構いましたね。それ以来ネットを警戒するようになって、あまり色んなアダルトサイトを見ようという気も起きないです」

ネットとAVを使い分ける理由

とはいえ、無料というネットの魅力にはやはり抗いがたい。大学に入って1人暮らしをする現在、マサユキは性的なものは主にネットで見ている。

「ネットだと、無修正の裏モノによりアクセスしやすいじゃないですか。一回見てしまうと、さらにそれを求めるようになる。モザイクがかかっていると物足りなくなるんです。でも有料でのダウンロードはしませんね。無料のサンプル動画をひたすら探します。ネット上のコンテンツに金払いたくないんで。ストーリー性にも執着しないです。数分のサンプルで、一番いい場面が見られればいい。親も僕の家にしょっちゅう来るから、郵便受けにアダルトサイトからの請求書が入っているとヤバいし」

 だが、ネットオンリーというわけではなく、たまにレンタルビデオ店でAVも借りる。

「ネットには選択肢が多すぎるんですよ。検索で自分の趣向に合ったものを探そうとするんですけど、1つのキーワードに無数のサイトがヒットする。そこから選り分けていくのは時間がかかる。ビデオ屋に置かれているAVならパッケージで判断できるので、選び易い。そのへんで使い分けてますね。いまはネットが7割、AVが3割ぐらいです。最近の好みは『制服』ものかな」

私はレンタルビデオ店へ行くと、試しにAVコーナーの入り口近くに立ってみることがある。すると男性たちは、なかなか入って来ようとしない。他の棚を見るフリをしながら、コーナーの周りを不自然にウロウロしているのだ。次第にこちらも良心が咎めてくるので入り口から離れると、待ってましたとばかりに突入していく。性意識が開放的になったとされる現代だが、AVを借りる行為への恥じらいは残っているようだ。マサユキにも若干のためらいがあるという。

「AVコーナーの入り口近くにいる人の年齢、性別はチラッと確認しますよ。最近はアニメコーナーの裏にあったりするし。入り口のそばに親子連れがいたら一応迂回します。あと、コーナーの中に入ってあんまり小汚いおじさんとかがいるとイヤになりますね。『同じレベルか』って」

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【アンケート】頻繁に接する性的メディア媒体(男子)

2009年の段階で、性的媒体のうち、パソコンのインターネットからアクセスするアダルトサイトを愛用する男子学生は、実に92%を占めた。AVの倍となっており、時代の変化を感じさせる。理由として、次のような声が寄せられた。

「お金を出してまで買いに行く必要がない」
「手軽だから」
「利用しやすく便利だから」
「簡単に入手でき、かつ映像の方が興奮するため」

まさに、ネットさまさまである。大学生にもなると大半の男子が、専用のパソコンを保有することも大きいだろう。

携帯電話からアダルトサイトにアクセスする、というケースも17%に上った。

「手軽で便利。身近にあるために利用しやすいから」
「定額制が出来てから、更に利用しやすい環境が整った」

定額制の登場で、大容量の動画がダウンロードし放題になったことは、アダルトサイトを若者により身近な存在にしたようだ。携帯ポルノなら、外を歩いていても学校の授業中でも、ムラッときたらチラッと見ることが出来る。移動中の電車内での暇つぶしにも持って来いだろう。

かつて通勤電車では、朝っぱらからスポーツ新聞の風俗面に顔を突っ込んでいる仕事の出来なさそうなオジサンをよく見かけたものだが、今後彼らは携帯ポルノで済ませるようになるかもしれない。「チラ見防止フィルター」を画面に貼れば、横の人にバレる心配もない。

もっとも、スポーツ新聞のエロページをわざと若い女性の前で広げ反応を楽しむオジサンがいるように、携帯のポルノ画像を女性に見せ付けたがる輩が出てくるかもしれない。実際、私が先日電車で隣に乗り合わせた中年男性は、携帯で女性のエロ画像コレクションを堂々と見ていた。覗き込むと、「へえ~、このオッサンは太ももフェチなのね」などと、見も知らぬ相手の性癖を知った気になる。

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