ep.347 宇治拾遺物語 by mazzo

前回の収録からだいぶ時間が経ってしまったけど、遅まきながらボツネタ集を。

FM合成方式によるシンセサイザーは音作りが難しい。FM音源は、スタンフォード大学のジョン・チャウニング教授が開発したサウンドシンセシスの方式で、比較的少ない処理能力で複雑な波形を作り出すことができる技術だ。YAMAHA DX7が世に出たことで、広く知られることになり、その後はパソコンの音源チップにも使われることになり、そのサウンドとともに普及していった。

ヤマハはチャウニング教授と独占契約を結び、次世代デジタルシンセサイザー競走でまずは1勝を勝ち取ったのである。当時ローランドの梯会長はチャウニング教授のところを訪れたが、それはヤマハとの契約が締結された後だったと述懐している。

だが、FM音源には致命的な欠陥があった。冒頭に書いた通り、音作りが難しいのだ。アナログシンセサイザーは、波形を選んで、周波数フィルターと強調する周波数の強さを決め、音の立ち上がりや減衰などの強弱をつけることで基本的には決まる。FMは波形を掛け合わせる、演算する必要があり、それゆえに高次倍音を含んだ複雑なサウンドを生み出せるのだが、その演算アルゴリズムが何種類もあって、直感的に音を作ることができない。

このため、DX7はいいサウンドを出せるのだけど、みんなプリセットサウンドを使ってばかりいた。それに飽きたらないプレイヤーたちは、カスタマイズされたサウンド設定が入ったカートリッジを購入して、スタジオにあるDX7に挿して使っていたのである。僕がそうだった。

僕は、生福という、生方則孝さんと福田裕彦さんという二人のミュージシャンが作ったサウンドプリセットを購入し、使っていた。今も持っている。

このカートリッジを、自動的に生成してくれるというのが紹介したサイトである。タイトルは長いけど、その意味の通り。「このDX7カートリッジは存在しない」。なぜなら、今生成したものだからだ。この機械学習プログラムでは155あるDX7のパラメータを8に集約。既存のDX7音色ライブラリを学習させて、適切な組み合わせを生成できるようにした。

TOTOのAfricaでは、FM音源によるマリンバサウンドが重要なリフを奏でているが、これはGS1という、DX7に先立つ、音作りができない超高価なFM音源シンセサイザーで作られた。このサウンドはヤマハのエンジニアが苦労して作ったのだという。そのくらいFM音源の音作りは難しいのだ。それを今はAIがやってくれる。

そんな話を書いていたら、ちょうどTOTOメンバーによるAfrica再演が、WfHで行われた。といっても、TOTOの正式メンバーだったのはスティーブ・ルカサーとジョゼフ・ウィリアムズの二人だけ。

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