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人生を彩った神ゲー「FINALFANTASY TACTICS ADVANCE」

 中学生の頃、祖父宅の戸棚を何気なく見ていたとき。
湿布やら裁縫道具やら年齢を感じさせる数々の物品の中から、見慣れない形をしたプラスチック製の「なにか」を見つけた。
 それは泣く子も黙る「ゲームボーイアドバンス(GBA)」そのものであり、当時帰省した時の暇つぶしを心の底から渇望していたマッシブン子少年にとっては財宝を見つけたに等しい発見だった。なんとカートリッジにはちゃんとソフトが刺さっている。電池を新しく入れ直し、電源を入れるとバッチリ動く。
 画面に浮かんだソフトの名前は「FINALFANTASY TACTICS ADVANCE」
(以下FFTA)だった。
 信長の野望やファイアーエムブレムのような盤上で駒を動かすようにして戦うタクティクスRPG。1997年に初代プレステで発売されたFINALFANTASY TACTICSの後継作であり、まだエニックスと統合する前のスクウェアがGBAでリリースした数少ないソフトのうちの一つである。国内では約90万本、海外版は約210万本を売り上げている隠れた名作だ。

ストーリー


マーシュくんかわいいなぁぐへへ

このゲームの主人公は雪の降るSt.イヴァリースという街に引っ越してきた少年マーシュ。父母が離婚した際に、病気がちな弟の療養のため母の故郷へ一緒に越してきたという事情を持つ。物静かで女性的な見た目のため、クラスメイトからよくバカにされている。ある日、学校でいじめに遭っている少年ミュートから、古本屋で見つけた不思議な本を一緒に読まないかと誘いを受ける。さらに文武両道だが男勝りでキツい性格のせいで周りから敬遠されているリッツという少女も加わり、三人でその本を読むことに。マーシュ宅でミュートの持ってきた「グラン・グリモア」(作中ではこの名前は出てこない)を読んだその夜。雪に覆われているはずのSt.イヴァリースは一瞬にして荒涼とした大地に囲まれた、まるでゲーム「ファイナルファンタジー」のような世界、イヴァリースへと変化してしまう。変化した世界に迷い込んでしまったマーシュは元の世界へ帰るため、助け舟を出してくれたモンブランというモーグリとともに、さまざまなクエストを攻略していく……というのが大まかなあらすじである。
 この物語の中心人物となるマーシュ、ミュート、リッツ、そしてマーシュの弟であるドネッドは、いずれも現実世界で何かしらの悩みや問題を抱えている。マーシュは両親の離婚。ミュートは学校でのいじめや、いつも酒を飲んでふらふらになっている父親。リッツは生まれついての白髪をコンプレックスに感じておりピンク色に染めることで隠している。ドネッドは自らの病のせいで自分の足で歩くことができない。
 そして、世界を元に戻そうと奔走するマーシュとは異なり、ミュート達三人は、異世界で「自分が欲しかったもの」を手に入れてしまう。このゲームで描かれているのは「少年少女の葛藤と成長」だと個人的に思う。剣や魔法で戦うことができて、いじめられたり、ひどい扱いを受けることのないこの世界で生きることに、なんの不満があるのか?苦しい思いをすると分かっていても、元の世界に戻らなければならないのか?世界を元に戻したいマーシュと、欲しいものを手に入れた三人との間で、考え方の違いが生まれてしまうのだ。しかしマーシュは現実と向き合うことを選択する。そして、この異世界がミュートの望みから構成されていることを知ったマーシュは、王族となってワガママ放題のミュートを「叱ってあげる」という目標を得て、いじめや家族の問題に共に立ち向かってあげるという決意をする。

病気で満足に動けない自分と、健康で自由に動ける兄を比べ僻むドネッドに対し、マーシュが自分の思いを吐露する屈指の名シーン
マーシュも母に甘えたりわがままを言ったりしたかったが、それを全てドネッドに譲っていた

プレイしていた当時はこうしたストーリー面を深く見ることはなかったが、数年たってから改めて見返してみると、素晴らしいストーリーが展開されているのがわかる。

 システム

 FFTAにおいて最大の特徴と言えるのは「ロウ」と呼ばれるシステムだ。これは戦闘の時の禁止事項を表したもので、例を挙げると、「黒魔法禁止」や「◯◯愛護(◯◯に該当する種族のユニットを攻撃するとペナルティ)」といったものがある。戦闘の度に何が禁止されるかは異なり、ロウに対応するためパーティをバランスよく育成するか、アンチロウと呼ばれるロウを無効化するアイテムを上手く活用するか、プレイヤーのスタイルが現れる部分……になるはずだったのだが。
 実際のところは縛られるばかりでキツいことに加え「愛護」系のような強力な制限を持ったロウが来るとどうしようもなくなることが多かったため、リメイク的な立ち位置になる海外版では、一部強力なロウの削除に加え、特定の行動をとることで強力なコマンドの発動に必要なJP(ジャッジポイント)を獲得できる「奨励ロウ」システムが追加された。
 ちなみにこのロウは、エンゲージの審判的な立ち位置であるジャッジと呼ばれる者たちによって管理されている。そしてこのロウはエンゲージにおいて致命傷を受けてもあくまで戦闘不能にとどめ、実際の死亡につながらないようにするという役割を持っている。
 ここで面白いポイントが「エンゲージの時にジャッジが現れない場所がある」ということだ。「ヤクト」と呼ばれるそれらの場所では、エンゲージ中一切ロウに縛られないというメリットがあるのと引き換えに、そのエンゲージで死亡したユニットは復活もせず永遠に失われるという恐ろしいデメリットも有している(なんとこれを利用すればストーリーに関わる重要人物モンブランを永久退場させることができる。なんて非道な!!ニッコリ)。ロウを恐れてヤクトで戦うか、ユニット永久消滅を恐れて通常のフィールドで戦うか、プレイヤーの選択次第なのだ。
 このゲームの育成システムに関して。このゲームには五つの種族(人間、モーグリ、バンガ、ン・モゥ、ヴィエラ)が存在し、それぞれに習得できるジョブが決まっている。一人のキャラクターにつきジョブアビリティを二つまで設定でき、白魔法と黒魔法を同時に使える魔法特化のユニットや、アビリティの射程が武器の射程に依存するジョブと弓使いや銃使いといった遠距離攻撃を得意とするジョブを組み合わせるなど、個性豊かなユニットを育成することができる。お気に入りだったのは赤魔道士と精霊使いの組み合わせ。赤魔道士は指定した二つの魔法を一ターンの間に使用できる「連続魔法」というアビリティを覚えることができる。しかし赤魔道士が覚える魔法自体は「サンダー」「ファイア」のような基本的な魔法(悪く言えばショボい魔法)が多く、赤魔道士だけでは連続魔法のポテンシャルを引き出すことはできない。ここで登場するのが精霊使いだ。精霊使いはそこそこの火力+何かしらのデバフを与える魔法を覚えるジョブで、連続魔法でそれらの魔法を連続使用することができる。攻撃を封じる「ドンアク(Don't Actionの略)」の魔法と移動を封じる「ドンムブ(Don't moveの略)」の魔法を一ターンで付与して、相手の行動を完全に封じると言った使い方ができるのだ。ユニット育成の幅が広いのでそれだけ多くの戦略を楽しむことができる。 
 このゲームを総括すると、ファイナルファンタジーの要素をふんだんに落とし込みつつ、独自の面白さを追求しようとした作品だと言えるだろう。主人公達の生い立ちが魔法やモンスターの存在しない現実世界出身であることや、そんな彼らが異世界とどう向き合うかを現実世界での苦悩と対比しているのも、ストーリー構成における良い点だと個人的に思う。FF好きにもタクティカルRPG好きにもおすすめできる作品だ。


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