J2-第32節 レノファ山口FC対愛媛FC 2019.9.14(土)感想

 オレンジダービーがひとつ、レノファ山口FC対愛媛FC。愛媛はなかなか山口との相性がよくない印象。シーズン前半戦ではホームで勝利したものの、試合をとおして攻められつづけたという苦しい記憶が真新しいからかもしれない。
 山口は楠本卓海選手が出場停止で、ツボさんこと坪井慶介選手は負傷離脱中。ドストン選手は代表帰りと最終ラインがどうなるか不透明だったが、菊池流帆選手と前貴之選手のコンビとなった。名まえを聞くとハットトリックが蘇る田中パウロ淳一選手はベンチだった。
 愛媛は野澤英之選手が出場停止から復帰。しかし山瀬功治選手の名まえがスタメンにもベンチにもなかった。ほか、右のウイングバックには小暮大器選手ではなくU-22代表帰りの長沼洋一選手がはいった。清川流石選手が初のベンチ入りを果たしている。
 J2第32節、レノファ山口FC対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 序盤愛媛はボールをもっても前進させることができずに困っていた。山口が人数をあわせてプレッシングにきたことと、ロングボールのこぼれ球を回収できなかったことが理由だろう。
 山口は愛媛がボールをもつと[4-4-2]に変化する。トップ下の三幸秀稔選手が1列あがって宮代大聖選手と2トップになっていた。愛媛の2ディフェンシブハーフには2トップのどちらかと、佐藤健太郎選手か高宇洋選手がつくことで中央へのパスコースもけす。左右のセンターバック(前野貴徳選手と茂木力也選手)にはウイングの選手をあててきっちり嵌めてきていた。愛媛のボールの前進は左右のセンターバックからはじまる。だが嵌められているのでパスの出し所がない。なのでロングボールを蹴るか、対面する相手を剥がさねばならなくなる。しかしどちらもあまりうまくいかなかった。ドリブルで抜いてもすぐに別の選手に寄せられてボールを失ったり、ロングボールを入れてもこぼれ球をひろえなかったりと、ボールを前進させるどころか自陣や中盤で山口にボールを奪われてしまっていた。

 山口のビルドアップに愛媛は1トップ2シャドーとウイングバックの選手で対応していた。 2センターバックがボールをもっているとき、藤本佳希選手はアンカーの佐藤選手へのパスコースをけす位置どりをしつつ、ドリブルで運ぼうとすればすぐさま寄せにいった。サイドバックにパスがでたら神谷優太選手と近藤貴司選手が、やはり佐藤選手へのパスコースをけす軌道で寄せていく。対面するセンターバックがドリブルで運ぼうとするときも距離が近ければ寄せていた。またスライドが間に合わないときは、ウイングバックの選手がサイドバックの選手へ寄せにいっていた。ただ山口のウイングの選手が大外高い位置に張っていると飛びだしていくことができなくなる。とくに2センターバックと同じ高さに控えることのおおい左サイドバックの石田崚真選手がフリーでボールを運ぶ場面が見られた。彼の代わりに右サイドバックの川井歩選手が高い位置をとっていた。というより、ボールサイドと逆のサイドバックは最終ラインに残る決まりになっていたのかもしれない。
 石田選手が高い位置をとったのは山口先制点の場面。右サイドから繰り返し崩そうとした山口が、何度めかでセンターバックの前選手に戻したときのこと。距離が近かったこともあってか神谷選手が1列あがって前選手に寄せ、一時的に愛媛の陣形は[5-3-2]ぎみになった。右サイドからの崩しと中盤が3人になったことで、愛媛から見て右サイドの中盤に空間が空いていた。すると石田選手がライン沿いをあがっていき、連動して左ウイングの山下敬大選手が空いている内側へ絞る。また佐藤選手が中央あたりに位置どることで近藤選手を引きつけ、最終ラインから石田選手へのパスコースを確保することにも成功する。高い位置で2ライン間を突かれてしまった愛媛は、すぐさま追いだすためにブロック全体が縮小。こぼれ球をひろった佐藤選手から右サイドの池上選手へサイドチェンジのパスがとおり、下川陽太選手との1対1に。池上選手の個人技と三幸選手のスーパーなシュートで山口が13分に先制する。

 山口の狙いはフリーになりやすいサイドバックの時間と空間を、こうやってウイングの選手までもっていくことにあったのかもしれない。山口の23分の追加点も、つまるところ山下選手が空中戦で長沼選手と勝負する場面をつくったところにある。ここでもアシストは池上選手だった。
 愛媛は1失点め以降、最終ラインでボールをもつ時間がふえていた。山口がフォアチェックを控えるようになっていたからだろう。山口の1-2列めで田中裕人選手や野澤選手がボールを受けられるようになってボールを前進させる場面もあったが、最終ラインでの横パスにあわせてはじまる山口のプレッシングに窮する場面も目立った。とくに山﨑浩介選手にボールが渡ると宮代選手が猛然とプレッシングをかけにいっていた。山﨑選手はそれを躱すこともあったが、ロングボールを蹴らされてしまうほうがおおかった。もしかしたら山口の狙いだったのかもしれない。

 そんなこんなでビルドアップもロングボール一発も奮わない愛媛だったが、30分頃からさりげなく変化をみせはじめる。神谷選手がはじめて最終ライン近くまで下がってきたかとおもうと、なにかジェスチャーをしてすぐに前線へ戻っていく。しかし持ち場である左のインサイドではなく右サイド。すると近藤選手がするすると左へ移動していく。中継では直後にリポーターから、川井健太監督が神谷選手と近藤選手の位置を逆にするよう指示していたと伝わる。しかし愛媛の変化はインサイドハーフの立ち位置の変化だけではなかった。どうやら神谷選手の位置は右のインサイドハーフではなく、むしろセカンドトップみたいな感じだった。
 愛媛はおそらくこの時点でシステムを[3-4-2-1]から[4-4-2]にかえた。神谷選手と藤本選手の2トップで、右サイドハーフに長沼選手、左サイドハーフに近藤選手がはいる。右のサイドバックが茂木選手で、下川選手が左サイドバック。
[4-4-2]になるとサイドハーフが内へ絞り、サイドバックが横幅をとるようになった。噛みあわせをみてみると、愛媛の2センターバックに対して2トップ、中盤は2セントラルハーフ同士となる。愛媛の2セントラルハーフが下がってビルドアップに加われば、山口の2セントラルハーフもついていく。すると彼らの後方に空間が空くようになる。最後方ではGK岡本昌弘選手が加わることで数的優位をつくれるので、ここにきて愛媛は山口攻略の糸口をつかんだようだった。

 山口がボールをもっているときに目をむければ、2バックに対して2トップなので数的同数になる。なので山口は佐藤選手が下がって3対2になるようにしていた。代わりに三幸選手か高選手が愛媛の1-2列めに下がってくるようになる。愛媛としてはそこでボールをもたせても大丈夫と判断しているようだった。ひとりずつ列を下げさせたことで、2ライン間にいる山口の選手を減らし、対応がはっきりするようになったからだろう。
 反撃の準備が整いつつあるなか、川井監督はさらに一手打つ。山﨑選手に代わって西岡大輝選手が出場。足もとの技術の高い西岡選手は、ディフェンダーのなかでも2ライン間でパスを受けようとする相手選手を迎え撃つ前向きの守備につよさがある。40分にはその迎撃守備でボールを奪取し神谷選手のカウンターを引きだす。菊池選手の逞しい守備によってカウンター完結ならずも、愛媛には勢いをもたらし、山口には一抹の不安をあたえた場面だっただろう。
 41分には愛媛がすばらしい攻撃をみせた。
 西岡選手から茂木選手へパスがでるのと同時に、長沼選手が山下選手と高選手のあいだを下がっていった。茂木選手からのパスを警戒して高選手が長沼選手へついていくことになる。山下選手は茂木選手へ寄せにいくので、彼らふたりの背後に空間が空くことになる。そこに神谷選手が位置どることで茂木選手からのパスをフリーで受ける。すると高選手が反転して神谷選手をみに戻ることになるので、長沼選手へのマークが外れる。ワンタッチで神谷選手は長沼選手へパスをだし、長沼選手は逆サイド大外に張る下川選手へロングサイドチェンジのパスをだす。下川選手のカットインからのシュートは枠をとらえられなかったが、ようやく愛媛が効果的な攻撃の形をみせた場面だった。ちなみに近藤選手も内側に絞っていたことで、下川選手がよりフリーな状況になっていたといえなくもない。

 44分には西岡選手から大外高い位置に張る茂木選手へスピードのある斜めのパスがとおる。茂木選手がクロスを入れると、相手にあたりながらもゴール前へあがって藤本選手がヘディングでおしこむ。無論愛媛にとって気勢をあげるに充分な1点だった。ところで西岡選手は力のこもった縦パスも魅力だな、と感じる場面だった。以前2ライン間の近藤選手にシュートみたいなパスをだして得点に結びつけたことも、そういえばあった。
 ちなみに4バックに変化させたことで、山下選手にマッチアップするのが茂木選手になって空中戦での勝率が上がったほか、長沼選手が1列まえにいられるのでカウンターも強力になるという効果もあった。いえい。

 さて[4-4-2]で活路を見いだした愛媛。しかし後半から[3-4-2-1]に戻す。理由はわからない。戻してからも勢いがおとろえなかった理由もわからない。ただ、ドリブルで運ぶことができる西岡選手のところで山口の守備にズレをつくれていたのかもしれない。西岡選手がドリブルで前進してくれば、山口の中盤は迎え撃たなければならないから、前にでてくるか立ち止まるかとなって、2ライン間が間延びしやすくなるとか。56分のペナルティアーク付近で得たフリーキックの場面は西岡選手の運びから、2ライン間で近藤選手が前をむけたことによるものだった。
 西岡選手の鬼気迫るボール保持によるものなのか、しだいに山口の2トップは構えて待つようになっていた。すると1-2列めが空くようになっていく。野澤選手と田中選手が嬉々としてそこを使っていた。また解説の中島浩司さんが指摘していたように、近藤選手がセンターバックの菊池選手とサイドバックの石田選手のあいだを狙っていくことで、石田選手が内側へ絞られ、大外で長沼選手が空く、という形でチャンスをつくってもいた。

 71分頃から山口が守り方を変化させる。高選手が最終ライン近くへ落ち、三幸選手も2列めへ下がる。ということで1列めが宮代選手ひとりになる。とうぜん彼の両脇を西岡選手や前野選手が自由に使えるようになるのだけれど、それよりも2ライン間を締めるほうを優先したようだった。
 それをみて愛媛もビルドアップを変化させる。西岡選手と前野選手の2バックぎみにして、下川選手と茂木選手が横幅をとる。そして長沼選手が内側へ絞るようになった。前半活路を見いだした[4-4-2]に似た形だ。ただこの形にはっきりかえたというよりも、山口の守り方をみてこういう攻め方もできるよと応じる感じだった。長沼選手の位置どりは神出鬼没にみえて理屈がありそうなので、サッカーに詳しい人の知見を伺いたいものだ。偽サイドバックの親戚のような気もするのだけれど。
 79分にはコーナーキックの流れから神谷選手がバーをたたくシュートを放つ。ゴール前でチャンスをつくりつづける愛媛だが、ゴールを割れない。
 80分には山口の選手交代。負傷した石田選手に代わってドストン選手が出場する。急造だった3バックの右にはいり、高選手は左のウイングバックへ移った。高選手対長沼選手のU-22代表対決は見応えがあった。
 山口はなかなか攻勢にでられなかったが、愛媛に最後のところはやらせず苦しい時間帯をしのぎ切った。90分にはご褒美のカウンターを繰りだすが突き放す3点めとはならなかった。
 愛媛は終了間際に途中出場の禹相皓選手が強烈なシュートを放つもGK吉満大介選手がビッグセーブ。最後のコーナーキックにはGK岡本選手も参加したが実らず。試合は2-1のまま終了し山口が逃げ切った。山口はうれしい連敗脱出となる勝利。愛媛は苦しい連敗を抜けだせなかった。

 まるでシーズン前半戦の展開がそのままひっくり返ったような試合だった。
 まったく隙をみせず圧倒的だった山口。組織的なうえ選手一人ひとりの能力が高く、前半はまったく歯がたたなかった。池上選手と石田選手がとくに気になる選手だった。石田選手は負傷交代となって残念だった。
 それほど力のある山口相手に、前半のうちから対応して形勢をかえてみせた愛媛。戦況に応じて柔軟に対応できるところが、今季の最大の武器なのかもしれない。シーズン序盤、怪我人がおおくでた時期を試行錯誤して乗り越えてきた賜物だろう。そろそろ報われてもいいとおもう。その機会はあと10試合残っている。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

 試合結果
 レノファ山口FC 2-1 愛媛FC @維新みらいふスタジアム

 得点者
  山口:三幸秀稔、12分 山下敬大、23分
  愛媛:藤本佳希、44分