J2-第25節 V・ファーレン長崎対愛媛FC 2019.07.31(水)感想

 Welcome back, Rikiya!
 茂木力也選手が今節からさっそく登場。ポジションは右のセンターバック。
 ばっちこい、亮太!
 V・ファーレン長崎は、前回対戦で怪我のため出場のなかった元愛媛FCの高杉亮太選手が先発する。
 長崎は平和祈念のユニフォーム。
 愛媛は西日本豪雨災害復興祈念ユニフォーム。
 地域の祈りを身にまとい両チームが戦った、J2-第25節、V・ファーレン長崎対愛媛FCの試合をざっくりとふり返っていく。

 愛媛はビルドアップをスムーズにおこなえていた。長崎が[4-4-2]でブロックをつくるとき、愛媛の2ディフェンシブハーフを特別マークするわけでもないため、単純に3バック対2トップになるほか、2ディフェンシブハーフも含めた5対2の状況でボールをまわせていたから。とくにボールサイドとは逆側のセンターバック(前野貴徳選手と茂木選手)が空きやすくなる。
 茂木選手は長崎ディフェンスの裏を狙ったロングフィードを何回もだしていた。それをみて、愛媛の調子がいいときは、決まって右センターバックからロングフィードがでていたことをおもいだした。林堂眞選手しかり、竹嶋裕二選手しかり。ベンチにまわってしまったが、山﨑浩介選手も積極的にロングフィードを蹴ってチャンスをつくっていた。ただここ最近の愛媛は、そうした裏を狙うボールが右サイドからなかなかでていなかった。
 13分に愛媛が先制する。西岡大輝選手が長崎のライン間をぶち抜く縦パスを供給。近藤貴司選手が胸トラップから反転してスルーパスをだすと、抜けだした丹羽詩温選手が角度もコースもないなかで見事に決めてみせた。西岡選手のライン間にパスコースを見つける視野と実際にとおしてしまう技術には感服する。強烈なパスを空中でおさめつつ反転してパスをだした近藤選手のプレーは離れ業だった。もちろん丹羽選手の特徴であるディフェンスとの駆け引きも活きていたので、選手たちの力量がフルで発揮された得点シーンだった。

 茂木選手からなんどもロングフィードが飛びだして長崎をおしこんだ愛媛。だが長崎もボールをもつと愛媛を苦しめた。
 愛媛はいつものとおり中央を塞ぎ、長崎のパス回しを外循環にさせる。だけど、なぜか気づくと自陣深くにおしこまれている。
 なぜこんなにも愛媛はずるずるとラインを下げさせられてしまうのか。おそらくその答えは高い位置をとるサイドバックにありそうだった。
 長崎はボール保持のときにサイドハーフが内側へ絞り、サイドバックがかなり高い位置まででていく。ただビルドアップの段階では片方、主に右の亀川諒史選手が高い位置へあがり、左の香川勇気選手は下がりめの形をとっていた。ということで長崎は左サイドでビルドアップすることがおおかった。
 ボール非保持のときには[5-4-1]になる愛媛。中央を固める分、中盤4人の脇には空間ができやすい。なので長崎が左サイドでビルドアップをおこなうと、逆サイドの神谷選手の左側が空くようになる。
 さてここから長崎にはふたつのパターンがある。ひとつは亀川選手が下川選手を最終ラインにおしこむパターン。もうひとつは右サイドハーフの大竹洋平選手が下川選手を最終ラインに留まらせるパターン。
 亀川選手が高い位置をとると、下川選手は最終ラインにおしこまれる。すると愛媛の左サイドにできる空間を下川選手が埋められなくなるので、その空いた場所に大竹選手が位置取りしてボールを呼びこんでいた。

 では亀川選手が高い位置まででないときはどんなことが起こるか。大竹選手が下川選手と神谷選手との中間あたりに位置取りし、下川選手の注意を自身にむけて、亀川選手まで寄せにいけないようにしていた。こうしてノープレッシャーで亀川選手はボールを受けられるようになる。
 さらにいえば最終ラインに下がってビルドアップにくわわる秋野央樹選手が、ひとつ飛ばしのパスを蹴ることができるので、時間をかけずにサイドチェンジできていた。さらに中央の選手たちがライン間を前後に出入りすることで、愛媛の選手たちを中央に留まらせてサイドへのアプローチを弱くさせていた。神谷選手が猛然とアプローチにいっても、ほかの選手たちは連動するどころじゃないみたいな。ゆえに愛媛は大竹選手や亀川選手に寄せにいくときにバランスを崩しやすくなっていた。

 以上のように、効果的なサイドチェンジを中央の混乱とともにおこなわれていたことで、愛媛はブロックを後退させられていたのだろう。たぶん。
 また長崎の2セントラルハーフがどちらもパスを散らせるだけでなくドリブルで運ぶこともできるので、彼らに前をむかせたときも愛媛は後退させられることになっていた。もっとも、愛媛はボールの奪いどころをそのふたりに設定していた節もあり、プレッシングがうまくいってカウンターへうつる場面も見られた。

 たがいにボールをもてばチャンスまでもっていけている展開のなか、愛媛が追加点を決める。
 40分。茂木選手から下川選手へのロングサイドチェンジ。この日の愛媛は両ウイングバックが高い位置をとって5トップにできていたので、4バックの長崎にたいして数的優位をつくれていた。なので下川選手はだれにも寄せられずにボックス近くまでドリブルで運ぶことができた。解説の中払大介さんがおっしゃるとおり、神谷選手が裏へ抜ける動きでイ・サンミン選手を引きつけることで、亀川選手が下川選手にチャレンジする機会をあたえない。下川選手はカットインからシュートを放ち、うれしいJ初ゴールを決めた。

 前半終了間際には長崎のプレッシングが嵌まりかけていたが、後半になるとふたたび愛媛が冷静にボールをもてるようになる。
 50分。長沼選手が長崎陣内深くへ切りこむドリブルでボックス内へ進入。中央では丹羽選手が2センターバックを引きつけてぽっかり中央を空けさせる。長沼選手はマイナスのクロスをいれ、飛びこんできたのは近藤選手。ボレーシュートをしっかりと決めて0-3と長崎を引きはなす。相手陣内深くへ切りこみ、ゴールライン際からマイナスにクロスを入れ、中央でワンタッチであわせる――愛媛が今季ずっと目指しつづけてきたであろう攻撃が結実した得点シーンだった。
 3失点めのあと長崎はシステムを変更する。どうやら愛媛がひくい位置でボールをもつときは[4-4-2]でプレッシングをかけるけれど、中盤まで運ばれてしまったらカイオ・セザール選手をアンカーにした[4-1-4-1]になるようだった。時間経過とともに秋野選手が最終ラインまで下がった[5-3-2]ににもなっていた。システム変更によるものなのかはわからないが、愛媛はビルドアップはかわらずできるけれど、中盤でボールを奪われて自陣から抜けだせない展開になっていった。この時間帯にいくつも長崎に決定機をつくられている。
 64分。長崎は吉岡雅和選手に代わって玉田圭司選手が、長谷川悠選手に代わってイバルボ選手が出場する。途中から元日本代表と元セリアAの選手がでてくるとはいかに? 長崎は攻勢を強め、愛媛はボールをもてない時間がさらにつづく。
 しかし72分に愛媛が4点めを決める。
 70分。ようやく愛媛のマイボールになると、ここからゴールまでほとんどパスがつながりつづけた。この試合で愛媛の選手たちは、ボールをもったらすこし運ぶことを心がけているようにみえた。ボールホルダーがドリブルで運べば、対面する相手も動かなければならない。すると味方が空いてパスコースが生まれるようになる。そうした細かいことができていたこの2分間のパス回しは圧巻だった。最近の愛媛のパス回しが窮屈そうにみえたのは、選手同士が近寄りすぎていたからだったのかなとおもえてくる。下川選手のJ初ゴールにつづく2得点めでスコアは0-4に。
 長崎は直後に1点奪う。
 リスタート直後、右サイドハーフにはいっている大竹選手がボランチの位置までおりてきてパス回しに参加すると、対面する相手をはずしてロブパスをディフェンスラインの裏へ供給する。玉田選手が裏へ抜けだし、胸コントロールからボレーシュートを叩きこんだ。25節のベストゴールに選ばれるに違いないゴラッソだった。
 長崎はシステムを変更しているようだった。[3-4-3]に近い。2センターバックに秋野選手が加わり、大竹選手とカイオ・セザール選手のドイスボランチ。2トップ+左サイドハーフの3トップ。
 78分に香川選手に代わって翁長聖選手が出場すると、翁長選手は右サイドにはいり、亀川選手が左サイドに移った。翁長選手の縦にしかける積極性とクロスによって愛媛はおしこまれ、何度となくピンチを迎えた。それでもシュートまではいかせなかったし、ボールを持てばもてたでしっかり保持しつづけられていた。
 試合は1-4のまま終了。2点差は危ないという迷信を吹っ飛ばすことに成功した愛媛は5試合ぶりの勝利だった。わっしょい。

 V・ファーレン長崎との前回対戦の感想で、長崎は相手陣内でのボール保持になるとかなりこわい攻撃をしてくる、みたいなことを書いた気がする。いまはまだロングボールでの陣地回復になっているけれど、ビルドアップがスムーズになってきたらどうなってしまうのか、みたいなことも。
 はたして長崎は狙いをもってボールを前進させられる容赦ないチームになっていた。あれよあれよと愛媛が自陣におしこまれてしまう光景は、なにが起こっているのかわからないという点でいえばホラーだった。
 その長崎にたいして、相手を動かすとボールの持ち方ができたこと、なかなか決められなかった決定機をものにできたこと、連敗を3でとめられたことは、選手たちだけでなく愛媛FCを応援する僕たちも自信をとりもどすきっかけになったとおもう。
 余談。茂木選手の影響で攻撃エリアの比率が左から右に逆転していたのはおもしろかったです。禹相皓選手があいかわらず前をむくのが上手で頼もしかったです。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 V・ファーレン長崎 1-4 愛媛FC @トランスコスモスタジアム長崎

 得点者
  長崎:玉田圭司、74分
  愛媛:丹羽詩温、13分 下川陽太、40分
     近藤貴司、50分 下川陽太、72分