J2-第11節 愛媛FC対ヴァンフォーレ甲府 2019.04.27 (土) 感想

 ゴールデンウィークなので旅行に出かける方もおおかろう。旅行雑誌を読んでいて、気になったページの隅をちょこっと折っておくのをドッグイヤーと呼ぶけれど、粉雪みたいにキュートなネーミングだ。
 ヴァンフォーレ甲府には元レミオロメンの藤巻亮太さんがつくったアンセムがあるという。うらやましいかぎりだ。レミオロメンの曲はわりと心に残っているものがおおい。
 ということで、気の向くままJ2第11節愛媛FC対ヴァンフォーレ甲府の試合をざっくりとふりかえっていく。

・ミスマッチ!

 愛媛FCって3-4-2-1じゃないんかーいというヴァンフォーレ甲府の悲鳴が聞こえてきそうなシステムを採用した川井健太監督。やーるー。ディフェンダーにけが人続出による必要からなのか、シーズン開幕前から取り組んでいた狙いなのかはわからないが、緒戦で4-4-2を試していたことで、選手によってシステムを使い分けることができる器用なチームになってきた愛媛。
 4バックの意図としてサイドで優位をつくるためだったと試合後に川井監督は述べている。3バックのチームのおおくはブロック形成時に5バックになる。5バックだと2ライン間でパスを受けようとする相手を飛びだしてつかまえにいける強みがあるものの、サイドの守備でウイングバック対サイドハーフ&サイドバックという1対2の状況になりやすい。そのうえセントラルハーフやトップの選手がかかわることでサイドでの優位性をよりつくりやすくなる。もっとも守るときは相手の1トップ2シャドー(インサイドハーフ)と両ウイングバックの5人を相手にしなければならないが。
 甲府のインサイドハーフはピーター・ウタカ選手とドゥドゥ選手。攻撃力には定評あるけれど果たして守備は? とイメージされやすい。偏見だ! とはいえ、ウタカ選手とドゥドゥ選手がブロックをつくるために下がってくると実際おどろいた。攻撃の選手なのに守備をおろそかにしない! ということではなく、彼らが下がることで守から攻へ切り替わったときの迫力が落ちることを気にしていないからだ。たとえば横浜FCはインサイドハーフの片方が前めに残ることでカウンターに備えていた。だが甲府はちゃんと2人ともさがってブロックをつくっている。
 つまり甲府はカウンターを打つには充分な選手がそろっているけれど、自陣からショートパスをつないでビルドアップすることもできるんだよという気配があり、実際に丁寧にビルドアップしていた。おかしい。去年は中盤でボールを奪ったら速さと技術のある前線3人で一気に攻め切っちゃうチームだったと記憶していたのだが。
 甲府がカウンターを打つにしても、ボールを保持しつづけて前進してくるにしても、愛媛にとっていちばんこわいのはウタカ選手とドゥドゥ選手がボールをもつこと。なので彼らのためにサイドハーフの神谷優太選手と近藤貴司選手ががんばることになる。
 ふたりの役割でいちばん大事なのは、甲府の最終ラインからインサイドハーフへのパスコースを消すこと。つまり神谷選手はウタカ選手へのパスコースを、近藤選手はドゥドゥ選手へのパスコースを消すことが重要。その次に対面するセンターバックの選手にボールがはいりそうなときにはすぐに寄せていくこと。それからフリーになりがちなウイングバックの選手をサイドバックと協力して抑えること。
 こわいのはウタカ選手とドゥドゥ選手が前向きの状態でボールをもつことだが、もちろん手前にいるディフェンシブハーフの選手たちにボールをもたれても困ってしまう。なので甲府のディフェンシブハーフには2トップと2セントラルハーフとでマークを受け渡すことにしていた。
 こうして中央を強固に固めた愛媛の守備は甲府のボール回しを外へと追いやることに成功する。

 だが10分に呆気ない形で甲府に先制を許す。
 甲府陣内深くまで攻めこんだ愛媛だったが、ウタカ選手の守備によってボールを奪われると、横谷繁選手から左ウイングバックの荒木翔選手へとすくないタッチ数でたちまちボールを前進させられてしまう。甲府の切り替えのはやさと展開力によって愛媛の選手たちのおおくが取り残されてしまうのをしりめに駆けあがってきたドゥドゥ選手はフリー。荒木選手からパスを受けて愛媛のボックスへ近づくと、中央で待つ佐藤洸一選手へグラウンダーのクロス。勢いのあるボールだったが、佐藤洸一選手はきちんとあわせてシュート。しかし西岡大輝選手がブロックし、ボールはふらふらと長沼洋一選手のもとへ飛んでいく。中継のカメラはここでシュートを放った佐藤洸一選手をいちど抜き、元のアングルにもどったときには甲府がPKを獲得していた。どうやら高くあがったボールの勢いを肩口で吸収して確実に蹴りだそうとした長沼選手だったが、猛然と後方からチャレンジしてきたドゥドゥ選手がさきにボールに触れたため、すでに振られている長沼選手の足はボールではなくドゥドゥ選手の足を蹴ってしまった、ということらしい。岡部拓人主審は目のまえで見ているし、愛媛も近藤選手が抗議するだけだったので、わりと選手たちからしてみればやっちまった感のあるプレーだったのかもしれない。それにしても呆気ない。懐かしき元愛媛の横谷選手がPKを決めて0-1になる。
 先制点を決めたタイミングで甲府の選手たちが話しあっていた。直後、甲府はビルドアップの方法に工夫を凝らすようになる。
 横谷選手が最終ラインに下りて、両ストッパーがサイドバックのようになってビルドアップをおこなう。小椋祥平選手は愛媛の1-2列めに残り、ウタカ選手とドゥドゥ選手は愛媛のブロックのなかから2トップの脇に下りてくるようになる。
 インサイドハーフの選手がおりてくるとなにがおこるか。愛媛2列めの選手たちの対応が面倒くさいものになる。象徴的だったのは12分の場面。最終ラインの横谷選手から右サイドバックの武岡選手にボールがわたると、神谷選手がすぐによせていく。だが武岡選手は余裕をもって右ウイングバックの橋爪祐樹選手にパスをだしている。神谷選手のプレスが無効化されてしまったのは、直前まで彼がウタカ選手のマークについていたため。
 2トップの脇にいたウタカ選手は、横谷選手から橋爪選手にパスがでると2ライン間へはいっていく動きをしている。神谷選手はとうぜんついていくため、武岡選手はフリーになっている。すぐに神谷選手は方向転換して武岡選手に寄せていきつつ、ウタカ選手へのパスコースを消す位置をとっている。なのでタッチライン沿いに平行な橋爪選手へのパスコースは残っている。なおかつ神谷選手のマークがなくなったことで、ウタカ選手は2ライン間でフリーになっている。橋爪選手はワンタッチでウタカ選手にパスをだす。西岡選手と山瀬功治選手に寄せられながらも、ボールを後方へ浮かす個人技でウタカ選手は2人を振り切って左サイドに展開した。痒いところに手がとどかない攻撃を受けてしまった愛媛だった。

 ということで神谷選手や近藤選手はこれまで通りウタカ選手やドゥドゥ選手を注意しつつも、フリーになりがちのストッパーの選手を遠くまでつかまえにいく必要も生じてくる。2人がストッパーにいくことで空いてしまうウタカ選手とドゥドゥ選手は、センターバックかセントラルハーフの選手がつかまえにいかなければならない。
 13分にはウタカ選手がアンカーの位置に下りてくる。どうやらだれかが愛媛の1-2列めのあいだにいましょうというのを甲府の選手たちは話し合いで取り決めたようだ。ウタカ選手がアンカーに下りているとき、代わりに小椋選手がウタカ選手の位置についていた。ちなみにこの流れのあと、甲府のパスミスで愛媛のスローインになったのだが、自陣からのビルドアップにうっかりミスがあったため大ピンチになった。危なかった。
 余談だが今季の愛媛は自陣深い位置でのビルドアップミスから失点する場面が意外とない。あったっけ? Jリーグ七不思議のひとつに加えていいのではなかろうか。
 さて甲府の巧妙なビルドアップに翻弄されている愛媛だったが、攻撃の場面になると翻弄し返している。
 甲府同様に相手の1-2列めのあいだに田中裕人選手か山瀬選手が位置をとることで最終ラインからのパスを引きだす。特に山瀬選手が1-2列間でパスを受けると攻撃のスイッチが入っていた。甲府の2列めの選手たちは前をむかせないために寄せにいくが、山瀬選手は後ろ向きでボールを受けてからあっさり前をむけてしまう。山瀬選手は愛媛がボールを保持するうえで欠かすことのできない選手になってきている。彼が前をむいたときに河原和寿選手が下がってきてボールを受け、コンビネーションでボールを前進させる場面があった。
 またサイドの数的優位を利用する場面もあった。一方のサイドからトップの選手、サイドハーフ、サイドバックで前進し、相手陣内にはいってからひらけた逆サイドへ展開していた。
 22分に横谷選手が1列あがるようになった。彼が下がらなくてもビルドアップが可能になってきたという判断なのかもしれない。ただ愛媛は2トップにサイドハーフを加えた3人で数合わせのプレッシングをおこなって甲府のビルドアップを妨げたので振り出しに戻る感はあった。ところが26分に愛媛は隙を突かれて小出悠太選手に縦パスを2トップ間に通されてしまう。横谷選手がワンタッチでつなぎ、ウタカ選手がキープ力を発揮し、橋爪選手のサイド突破からのクロスを佐藤洸一選手がダイビングヘッドで大チャンスもポストにあたる。
 とりにいけば間延びしたライン間を攻略されてしまうのがはっきりとしたので、愛媛の2トップが同時に甲府の最終ラインへ寄せていく場面は見られなくなる。いくとすれば片方だけで、もう片方は甲府の2列めの選手に縦パスがはいらないよう注意していた。
 愛媛がでてこないので甲府はロングボールを入れるか、狭いのを承知でライン間を突いていく。そうなると愛媛は中盤でボールを奪うことがふえ、甲府陣内でボールを保持する時間もふえていった。愛媛のビルドアップも巧みなので、甲府も無理して奪いにこなかった。前がかりに奪いにいけば、今度は自分たちのブロックが間延びしてしまうことになり、愛媛は疑似カウンターが大得意だ。
 甲府は自陣での時間がふえたことで、40分をすぎたあたりからウタカ選手をトップに据えてカウンターの起点にする場面もあった。
 45+1分にコーナーキックから愛媛は大チャンスを迎えるが、ユトリッチ選手、近藤選手と立て続けに放ったシュートはGK河田晃平選手と橋爪選手に防がれてしまう。

・カウンターの応酬になった後半

 後半さきに相手のブロックを崩したのは甲府。佐藤洸一選手のポストプレーから右サイドに展開すると、タッチライン際で橋爪選手はドゥドゥ選手にパスしてゴー。ドゥドゥ選手もワンタッチで橋爪選手へ返す。抜けだしてクロスをあげる橋爪選手。こぼれ球をドゥドゥ選手が拾ってボックス内深く切りこむと、冷静に中央でフリーになっているウタカ選手へ折り返す。ウタカ選手がワンタッチシュートを打つがユトリッチ選手が防ぐ。さらに跳ね返ってきたボールをつづけてウタカ選手がボレーシュートも山瀬選手が防ぐ。
 甲府の長い攻撃を防ぎきって反攻にでる愛媛。54分には甲府の裏狙いのボールを西岡選手が回収するとGK岡本昌弘選手へパス。ユトリッチ選手が佐藤洸一選手を引き連れて近づいてくるなか、GK岡本選手はワンタッチでひとつ前の田中選手へ。田中選手からフリーの山瀬選手にわたり、山瀬選手は裏抜けを狙う河原選手へロングパスをだした。残念ながら河原選手のところでおさめることはできなかったが、攻守の切り替えをはやくして甲府の守備の陣形が整うまえにゴール前まで攻めこんだ。
 両チームとも攻めるときは相手陣内まで前進できて運動量がおおくなっていったせいか、わりと後半はやいうちから互いに攻から守への切り替えが遅くなりはじめていた。
 愛媛の同点弾は得意の疑似カウンターによるものだった。
 55分、甲府大チャンスもウタカ選手のシュートは枠の上という場面の直後、愛媛はゴールキックを自陣からつなぐことを選択。愛媛のリスタートがはやかったためか、疲れがではじめて自陣に引かなかったのかわからないが、甲府の選手たちが愛媛ボックス近くに残っていた。愛媛がつなごうとするのでボールホルダーへのプレッシングを開始するが、山瀬選手が甲府の選手たちのあいだにポジションをとってパスを引きだすと、あたりまえに反転して神谷選手へパス。ボールをもてば前をむく山瀬選手の存在が日常になっている。
 神谷選手は横谷選手と1対1の状況になったが、むりはせずに味方のあがりを待ちつつボールを運ぶ。前半までであれば猛然と甲府の選手たちが戻ってきていたが、あがってくる愛媛の選手たちのほうがおおい。ゆっくりと吉田眞紀人選手までボールがわたると吉田選手はドリブルで運ぶ。甲府の選手たちをひきつけてから右サイドの長沼選手にだし、長沼選手はワンタッチでクロス。パス&ゴーでボックス内に進入しつつ、甲府ディフェンダーの背後を突いた吉田選手がヘディングシュートを決めた。吉田選手は2試合連続ゴール。やったぜ。
 同点に追いついたことで勢いが増す愛媛。甲府は自陣深くにおしこまれ、ボールを奪っても前線へのロングボールという展開になっていく。こうなるとウタカ選手とドゥドゥ選手もおしこまれてしまうので、甲府にとってはおもしろくない状況。そのうえ苦し紛れのクリアになってしまうと、それまで1トップで巧みにボールをおさめていた佐藤洸一選手もなかなか苦しくなってくる。なので62分ごろから1トップの位置にウタカ選手がはいるようになった。ウタカ選手が前線でボールをおさめられることで、66分にはウタカ選手のキープからドゥドゥ選手のドリブル、最後はボックス内でウタカ選手シュートというチャンスをつくり、ここからふたたび甲府がボールを保持する時間になる。ウタカ選手が前にでただけなのに。
 73分。ドゥドゥ選手に代わって松山っ子の曽根田穣選手が出場する。やっほい。曽根田選手がはいったことで、はっきりとウタカ選手がトップにはいる。曽根田選手と佐藤洸一選手はインサイドハーフ。
 78分にはウタカ選手に代わって新井涼平選手が出場する。佐藤洸一選手がふたたびトップにはいり、横谷選手が1列あがって曽根田選手とならぶ。新井選手はディフェンシブハーフに。前半からなんどもフィールドの端から端まで走り続けていたウタカ選手とドゥドゥ選手。愛媛同点の場面のように守備で戻ってこられない場面がでてきたための交代だろうか。
 80分には荒木選手に代わって内田健太選手が出場。内田選手、愛媛にみたび帰ってきたっていいんだぜ?
 最終盤、カウンター合戦となるなか、甲府はボックス内へ進入する曽根田選手をはじめとしてシュートチャンスをつくりだす。愛媛はカウンターでゴール前に迫るもなかなかシュートを打てないという展開に。両チームとも歯痒さを感じながらも1-1のまま試合は終了。プロビンチャの雄甲府を相手に追いついた愛媛は連敗を阻止した。

・終わり

 前線にターゲットマンをおくというスタイルはハーフナー・マイク選手や高崎寛之選手がいたころからかわらなそうに見えながら、志向しているサッカーは変化してきた印象を受けるヴァンフォーレ甲府。かわったのは元柏レイソル監督の吉田達磨さんが就任したときからだろうか。
 勝てそうで勝てない愛媛FC。甲府からしてみればポストに嫌われなければ勝てたのに! かもしれないが、愛媛としてもあんなに圧倒したのになぜ! という印象を受ける不思議でおもしろい試合だった。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 愛媛FC 1-1 ヴァンフォーレ甲府 @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛FC        :吉田眞紀人、56分
  ヴァンフォーレ甲府:横谷繁、10分