J2-第30節 アビスパ福岡対愛媛FC 2019.08.31(土)感想

 今節対するのはアビスパ福岡。前回対戦時にはいなかった加藤大選手がスタメンを張る。愛媛FCファンとしてはうれしいような、戦々恐々とするような心境。ばっちこい、マサル!
 西田剛選手、山瀬功治選手が古巣対戦となったJ2第30節、アビスパ福岡対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 アビスパ福岡も3バックを採用している。ディフェンシブハーフをひとり下げた形でビルドアップしてくるぞ、とおもったらそんなことはなかった。3バックのままビルドアップ。なので愛媛FCは1トップ2シャドーの3人で積極的にプレッシングをかけにいっていた。
 3バックのままビルドアップするとなると、いたるところで1対1の状況が生まれるようになる。そうなったときボールを前進させるには、1対1で勝利して強引に守備にずれをつくりだすか、球ぎわをつくらせないパス回しでひたすらプレッシングを回避しつづけるかだ。福岡が選択したのは球ぎわをつくらせないパス回しだった。
 すくないタッチ数でハーフウェイライン付近までボールを運んだら、ロングパスで両ウイングバックやヤン・ドンヒョン選手の裏抜けを狙うことがおおかった。これによって愛媛は全体をおしさげられることになっていた。

 愛媛もたちあがりは3バックでビルドアップしていた。ただ、福岡が高い位置からプレッシングにはこず、ミドルゾーンで迎え撃つ姿勢をとってたことで、9分頃からは、ディフェンシブハーフがひとり下がったいつも通りの形に愛媛はしていた。ちなみにGK岡本昌弘選手がミドルゾーンあたりまであがって4バックになることもあった。
 15分頃を境に愛媛は高い位置からのプレッシングを控えるようになった。すると福岡にも変化が。加藤選手が最終ラインに下がり、鈴木淳選手がアンカーとして残るようになる。すると大外にひらく左右のセンターバックがフリーになる。15分には左センターバックの實藤友紀選手がロングパスを愛媛ディフェンスの裏へ供給。輪湖直樹選手が裏抜けからボールをキープする間に、福岡の選手たちは愛媛陣内へ進入してゴール前まで迫る。最後はヤン選手がシュートを放った。GK岡本選手がキャッチして事無きをえたが、すぐに愛媛は自陣からボールをつないでいこうとして数的同数をつくられてしまい、たちまちボールをロストしてしまう。なんとか防ぐものの、ここから自陣深くにおしこまれる時間がつづいた。ちなみに、ボールをロストしたときのプレーで芝生がおおきくめくれあがるのが目撃されている。先日の九州北部豪雨の影響によって芝が根づいていなかったらしい。長崎では大変な水害が起きて心配だったが、ここにも影響が。

 愛媛はなかなかハーフウェイラインを越えてボールを運べなかった。パスミスや球ぎわで先を越されたりしてボールを前進させられない。福岡の最終ラインが高く、ブロック全体がコンパクトなので2ライン間を突くパスがでず、それではと外でパスを循環させると、サイドのところで寄せがきつくなってボールを失ってしまう。
 同じシステムを採用して片や愛媛はボールの前進に苦戦し、方や福岡はなんども愛媛ゴールに迫ってシュートを打てていた。その違いはなんだったか。おそらく裏を狙って相手の最終ラインをおしさげていたかどうかにあったのだろう。ということで、前野貴徳選手がロングボールを供給するようになっていった。さすがはキャプテン。
 裏を狙うようになったことで愛媛は福岡の最終ラインをおしさげることに成功した。それまでトップの丹羽詩温選手がミドルゾーンを越えられていなかったのが、アタッキングゾーンまでおしあげられるようになっていった。そうするとグラウンドを深く使えるので、サイドの選手によゆうが生まれるようになった。ただ、おしさげることはできても裏抜け自体は成功しがたく、こぼれ球もひろえていなかったので、福岡陣内深くまで攻めることはできていなかった。
 そんななか29分、愛媛は福岡のビルドアップで肝となる鈴木選手にたいして複数人で寄せにいってボール奪取に成功。すぐさまカウンターへと移り、山瀬選手がシュートを放つ。近藤貴司選手にあたってしまうもボールは中央へ転がり、丹羽選手が詰める。しかし、まさかの、残念そこはGKセランテス選手。右手で触れたボールは高くバウンドしてゴールの枠を越えていった。にわかに信じがたいボールの跳ね返りかただった。

 さてビッグチャンスをひとつつくった愛媛。ここから勢いよく攻めこみたいところだが、やはり普段とは様子がおかしい。2ライン間にまったくパスがはいらない。はいったとおもっても落としのパスがつながらなかったり、こぼれ球を拾われたり、球ぎわへ寄せるのが1歩遅くてファウルになってしまったりする。
 愛媛はサイドチェンジすることがすくなかった。理由はわからない。なんにせよ、同サイドでの攻めがつづくことで福岡の2列めを左右にゆさぶることができず、縦パスを突き刺す空間をつくることができなかったのかもしれない。また、そもそも福岡の2ライン間がかなりコンパクトになっていたので、山瀬選手や近藤選手が下がってパスを受けようとする姿がおおくみられた。そうなるとそこからさらに前へパスをだそうにも選手がいないという状況に陥る。下川陽太選手が山瀬選手の下がる動きにあわせて2ライン間へ絞る工夫をみせていたけれど、パスがでてくる場面はみられなかった。
 うまくいかない愛媛。しかし、中継での中払大介さんのコメントや、試合後の川井健太監督のコメントにあったように、失点0で前半を終えられたのはよかった。よくない状況にありながらも、うまくいかないやりかたをむりにつづけて、そのけっか中盤でボールを失って失点する可能性も充分ありえたから。

 後半から福岡はふたたび3バックでのビルドアップにして、愛媛の1-2列めに加藤選手と鈴木選手がいるようにする。パサーとして卓抜な技能をもつふたりだから、中盤でボールを受けて2ライン間を攻略していくぞ! となるのかとおもったら、どうやら違う。ふたりの役割はこぼれ球の回収にあるようだった。
 福岡の攻め方は徹底されていて、最終ラインから一気に愛媛ディフェンスの裏へロングボール入れていくことにかわりなかった。とうぜん空中戦がおおくなる。つまりこぼれ球を争う機会もおおくなる。中盤にふたりがいれば愛媛の2ディフェンシブハーフとの数的同数、もっといえば対面する相手との1対1での奪いあいにもっていける。福岡はここでこぼれ球をひろって愛媛陣内へおしこみ、おおくのシュートチャンスをつくっていた。
 ところで愛媛も[3-2]でのビルドアップにしていた。前半にくらべて2ライン間へ縦パスを入れる機会もでてきたが、ライン間でパスを受けた選手は前をむくよりもワンタッチで味方へつなげようとしていた。ただパスミスによってボールを失う場面が目立った。なおかつ福岡のインサイドハーフの松田力選手や前川選手が、愛媛の2ライン間に空いたところに顔をだしてパスを呼びこみ、すぐにボールを前進させていっていった。
 55分に野澤英之選手に代わって藤本佳希選手が出場し、丹羽選手と山瀬選手がそれぞれ1列さがるようになる。福岡がそれほどつよくプレッシングにくるわけではなかったので、野澤選手がワンタッチですばやくパスを散らすよりも、前をむく技術に優れた山瀬選手に中盤で時間をつくってほしいという狙いだったか。
 するとさっそくの58分。山瀬選手が鈴木選手のマークをはずして1-2列めでフリーになる。パスを受けると、すぐさま丹羽選手がサイドで裏抜けを試み、そこにしっかりあわせる。裏抜け自体は成功しなかったが、愛媛は福岡陣内深くへ前進することができた。ただ、シュートまで至らなかったのが残念だった。
 シュートまでもっていけない愛媛。ほんのいちどおおきくなったトラップを前川選手にひろわれ、一気にカウンターへもっていかれてしまう。前川選手と加藤選手のワンタッチパスはどちらも素晴らしかった。いっぺんにひっくり返された愛媛。最終ラインで1対2の数的不利の状況になってしまい、最後の頼みはGK岡本選手。しかし前川選手はGK岡本選手の飛びだしを冷静に回避するシュートを放ち、59分、福岡が先制する。
 見事なカウンターだった。目のまえに突然転がってきたボールをワンタッチでパスする前川選手のしなやかさ。しっかりおさめてしまうヤン選手のたくましさ。加藤選手のワンタッチでのロングパスの華麗さたるや。
 GK岡本選手はなんどとなく的確な飛びだしでこうしたピンチを防いできてくれた。そのGK岡本選手でもとめられなかったということは、もはや決めきった前川選手を涙ながらに褒めちぎるしかない。

 前節の勝利の勢いを継続させたい愛媛。攻勢にでるもしかしチャンスをなかなかつくれない。ただ福岡も先制点を決めたことでさらにもう1点と勢いづいたのか、2列めがそれまでよりも前がかりになっていた。とうぜん2ライン間が間延びしはじめていた。
 65分。田中裕人選手に代わって神谷優太選手が出場する。山瀬選手とともに超攻撃的なボランチコンビを組むと、66分には福岡陣内深くへ攻めこむ。寄せてくる相手ふたりの間をとおすパスからワンツーを受けてシュートを打つ。さらに67分にはコーナーキックの流れからヘディングシュートを狙った。ちなみにワンタッチでそのクロスをあげた茂木力也選手の技術のたかさが尊かった。
 勢いづく愛媛。山瀬選手が最終ラインへ下がり、神谷選手が2ライン間へはいっていく。福岡の1-2列めを空っぽにしてでもの攻撃態勢になっていた。
 さて69分。福岡はヤン選手に代わって城後寿選手が出場する。すると73分。福岡の最終ラインから何気ないクリアボールがでる。これが愛媛ディフェンダーにとって処理のむずかしいものになった。高い軌道でバウンドが予測しがたく、なおかつ背走しながら対応しなければならない。さらにつらいのが、前がかっているためサポートにいける選手がいなかったこと。
 処理しきれずこぼれたボールを城後選手がひろい、ゴールキーパーの位置を見極めてループシュートを決める。さらっとむずかしいシュートを決めてしまう城後選手に脱帽する。

 2点差となりさらに前がかる愛媛。3失点めはもはや2列めの選手たちが戻ってこられないうちに最終ラインを崩されてのものだった。崩されたというか、無防備状態になっていたというか。
 とはいえ輪湖選手のあたりまえに正確なクロスも、スルーを選択した松田選手の判断力も、ワンタッチで正確にパスをだした城後選手のいずれもがすばらしかった。松田選手は前回対戦につづいてのゴールだった。
 終盤にはグラウンダーのパスをつないで打開しようとした愛媛だったが、芝に足をとられる場面が散見された。なかなかグラウンド状態にあわせられず苦しい。
 それでもいくつかチャンスをつくった。87分には途中出場の西田選手がボックス内でシュートを放つもGKセランテス選手が好セーブ。ほかにも間延びした福岡の2ライン間で藤本選手がパスを受けてしかけたり、西田選手がまえをむいてスルーパスをだしたりするもゴールは遠かった。試合は3-0のまま終了。愛媛は連勝ならず。福岡は第7節以来のホームでの勝利となった。

 勝たねば、となったときのむずかしさを痛感する試合だった。アウェイで相手に先制点を奪われる状況は、さほど慌てる展開ではない。まずは同点に追いつき、最低でも勝ち点1をもって帰ると割り切ることもできる。ただ愛媛FCとしては前節の勝利で得た勢いを継続させたかった。そのためには勝利したい。そうなると2点が必要になる。これはちょっと厳しい。勝たなければならない心理状態のむずかしさについては、漫画家・能田達規さんの『マネーフットボール』4巻に詳しい。大宮アルディージャ戦では愛媛がその心理をつけたものの、今節では逆に福岡に突かれてしまったという印象だった。
 前がかりとなって無防備となったところを咎められての追加点ふたつを、愛媛は教訓としたいところ。さいわい次節は勝たなければならない心理状態に陥りやすい徳島ヴォルティスとのダービー。先制点を奪って相手を心理的においこめるか、はたまた先制点をとられたとしても、この試合の教訓を活かしてプレーすることができるか。
 石津大介選手と吉田眞紀人選手の復帰を心待ちにしております。最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

 試合結果
 アビスパ福岡 3-0 愛媛FC @レベルファイブスタジアム

 得点者
  福岡:前川大河、59分 城後寿、73分 松田力、82分
  愛媛: