J2-第31節 愛媛FC対徳島ヴォルティス 2019.09.08(日)感想

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“ダービーは結果がすべて”――なんて甘美なひびき! ということで、

 試合結果
 愛媛FC 0-1 徳島ヴォルティス @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛:
  徳島:野村直輝、74分

・終わりに

 前回対戦時には映画化されるなんておもいもしなかった『いなくなれ、群青』を観にいきたいけれど、原作が大好きなのでこわくていけない。『いなくなれ、群青』にはじまる「階段島」シリーズの作者河野裕氏は徳島県生まれ。
 愛媛FCは長沼洋一選手がU-22日本代表に選ばれて不在。野澤英之選手は累積警告で出場停止。代わりに小暮大器選手が右ウイングバックにはいり、ディフェンシブハーフには山瀬功治選手がおりる。神谷優太選手がインサイドハーフにはいった。
 徳島ヴォルティスは前節からひとり変更。清武功暉選手ではなく前節途中出場から得点を決めた杉本竜士選手が左ウイングバックにはいる。チームとしては3連勝中と好調だ。
 このダービーはどうしようもなく、愛媛と徳島にサッカーチームが誕生した時から始まる。J2第31節、愛媛FC対徳島ヴォルティスの試合をざっくりとふりかえっていく。

 キックオフから徳島はロングボールを蹴って愛媛陣内でこぼれ球を回収。まずはなによりも愛媛陣内でプレーするという意思表示をした。
[3-4-2-1]でスタートした両チーム。愛媛としては3試合つづけてのミラーゲームに。
 徳島は3バックのままビルドアップをおこなってきた。なので徳島陣内ではいたるところでマンツーマンの状況になった。とはいえボールをハーフウェイライン付近まで前進させられると愛媛はおとなしく撤退して[5-4-1]のブロックで迎え撃つ。
 ディフェンシブハーフにパスがはいると愛媛のプレッシングのスイッチがはいる。神谷選手と山瀬選手、もしくは近藤貴司選手と田中裕人選手のとなりあうコンビでパスの受け手に寄せていく。バックパスをだされたら、神谷選手ないし近藤選手が二度追いをかける。こうしてGK梶川裕嗣選手まで下げさせて追いこもうとしていた。ただ18分にはそのプレッシングをGK梶川選手の見事なロングパス1本で無効化されてむなしい場面も。河田篤秀選手が胸トラップで野村直輝選手に落としてみせたのも見事だった。

 徳島はボール非保持のときは[4-4-2]に変形していた。右ウイングバックの岸本武流選手は最終ラインに下がるけれど、左ウイングバックの杉本選手は2列めに残る。さらに野村選手が1列上がって河田選手と2トップを組む形。
 ブロックを敷いたらなるべく大外までは全体がスライドしないようにしていた。大外までスライドしないというのは、ブロックをボックスの幅で構えることで、左右にふられていないようにみえるということ。これによって愛媛にサイドチェンジをされても、すぐにサイドバックになった選手がボールの受け手に寄せられていた。小暮選手の突破が封じられてしまい愛媛は苦しかった。

 愛媛としては相手が2トップなら3バックのままビルドアップが可能だった。だがショートパスをつないでみんなでいっしょに攻めよう! というよりも最終ラインから徳島ディフェンスの裏へロングボールを蹴りこんで前線の選手や小暮大器選手を走らせていた。ボールを保持しつづけるよりも、徳島にボールをもたせてカウンターを狙いつつ、ボールをもてたときは裏狙いで一気に攻めこむ意図があったのかもしれない。

 22分あたりから徳島はヨルディ・バイス選手と石井秀典選手の2バックの形でビルドアップをおこなうようになる。そのさい小西雄大選手が右サイド大外へひらき、中央に岩尾憲選手が残る。愛媛の1トップ藤本佳希選手の両脇をついて2バックがドリブルで運ぶことができる。さらに中央付近でボールを運べば、対面する神谷選手や近藤選手も中央にとどめられるので、大外の岸本選手や杉本選手へのパスコースを確保することもできていた。

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 徳島は愛媛のライン間をうまくつけていたので、なんどとなくサイドからチャンスをつくっていた。しかし愛媛も最後のところで跳ね返すことができていた。
 藤本選手、神谷選手、近藤選手の3人は前に残っていることがおおく、ボールを奪ったらすぐに彼らに預けてカウンターを打つ場面が目立った。というよりも序盤をのぞいて徳島がボールをほとんど持ちつづけていたので、愛媛は3人のカウンターぐらいでしかボールを前進させられなかった。
 30分をすぎたあたりから愛媛もボールをもてる時間が増えていった。ただ徳島のブロックが中央をかたく閉じていたため、なかなか決定機をつくることはできなかった。下川陽太選手がサイドの1対1に勝てても、中央に徳島の選手がおおく、ボックス内へ進入するよりも高いクロスをあげるほかないみたいな。ただそのクロスを小暮選手がマイナスに落としてゴール前でシュートチャンス、という場面をつくったときもあった。
 同じく30分ごろ、徳島はふたたび3バックでのビルドアップに戻している。意図はわからないが、愛媛が岩尾選手の両脇の空間を使ったカウンターから徳島陣内深くまで攻めた場面があったので、2ディフェンシブハーフに戻してリスク管理をしたのかもしれない。
 前半終了間際にはバイス選手にフリーキックでゴールを脅かされるも、今節でJ2通算250試合出場のGK岡本昌弘選手が好セーブをみせる。いえい。

 後半のキックオフ、愛媛は小暮選手を狙ったロングボールで一気に前進する。ゴールキックを徳島がつなごうとするとフォアチェックをかけていった。ただ徳島は冷静にプレッシングをいなして安全な逆サイドまで逃れてみせた。
 後半も徳島は3バックでのビルドアップ。[3-2-5]の形で左サイドから攻める。徳島の左ウイングバックの杉本選手はしかけられる選手なので、対面する小暮選手は大変だっただろう。

 愛媛も前半終わりごろからの継続で、ボールを保持できるときはしっかり握って徳島を崩そうとしていた。[4-4-2]の徳島の1-2列めに山瀬選手が位置どってパスを受けることで2列めの選手たちを引きだし、2ライン間へのパスコースをつくっていた。また寄せてくる徳島サイドハーフの背後に空いた空間を使うこともできるようになっていた。48分にはその空いた場所で神谷選手が縦パスを受けている。ここから下川選手の裏抜けで徳島をおしこみ、2度つづくシュートチャンスをつくった。その流れでえたコーナーキックから放った神谷選手のシュートはおしかった。
 53分には徳島のフォアチェックをかいくぐってゴールキックを自陣からつないでみせた。GK岡本選手からボックス内でパスを受けた山﨑浩介選手がいちどボールを運ぶ動きをみせたことで、寄せていた徳島の2選手のうち、片方はパスコースをけす動きをしなければならなくなっていた。そのため1対2の状況を1対1にすることができた。なおかつパスを近くの茂木力也選手ではなく、高めに張っていた小暮選手へだしたのもすばらしかった。小暮選手も内田裕斗選手に寄せられながらもターンしてすてきだった。前線へのボールは相手にあたってしまったが、こぼれ球を徳島の選手たちの中間にいた近藤選手が回収。ふりむきざまにワンタッチで藤本選手へパスしたのにはおどろいた。キープした藤本選手が逆サイドの下川選手まで展開して、愛媛は自陣からの脱出に成功する。そのあと徳島陣形の中盤に空いた空間を的確についてはパスを呼びこみ、あやまたず2ライン間を突く縦パスまでだしてみせた茂木選手が尊い。
 ところで愛媛は後半から守備の仕方をすこしかえていた。前半は3バックにはもたせてもOK、だけどディフェンシブハーフに入れてきたら奪いにいくよ、というスタンスだった。後半からは近藤選手と神谷選手が左右のセンターバックへ積極的に寄せていくようになっていた。そのさいしっかりと中央へのパスコースをけすのを忘れない。なので徳島はロングボールを蹴らざるえない場面も。しかしビルドアップの位置をすこし下げることで寄せにくくさせたり、岩尾選手が最終ラインに落ちたりすることで、すぐさま徳島も対応していた。
 60分台には両チームとも決定機をつくりだしていたが決めきれず。試合が動いたのは74分だった。
 山﨑選手が縦パスをカットしてようやく愛媛は攻撃へでようとするが、すぐに前線のところでボールをロストしてしまう。マイボールになったとまるや近藤選手と神谷選手が前線へ飛びだしていたため、愛媛の中盤は手薄になっていた。そのため最終ラインの選手が飛びだして、徳島の2列めの選手をつかまえにいかなければならなくなっていた。野村選手にすぐさま寄せた前野貴徳選手の動きはすばらしかった。野村選手が中央ではなく外へしかけるのを余儀なくさせていた。ただ試合後のコメントで田中選手が、ブロックを敷けていたけれどボールホルダーに寄せにいけていなかった時間帯だったと述懐するよう、ブロックの外へ追いだせても、それからどうしよう? の状態だった。すると野村選手は冷静に2ライン間の河田選手へのパスコースを見つけだす。河田選手にボールがはいった瞬間、実質田中選手と山瀬選手のみになっていた2列めが最終ラインに吸収される。こうなっては河田選手のバックパスを受ける内田裕斗選手をケアできない。なおかつ内田裕斗選手がワンタッチで河田選手に戻したことで愛媛の選手たちはボールウォッチャーに。河田選手からの落としを受けた野村選手がひとつ持ちだしてからシュートを放って得点。徳島が先制する。
 勝利が義務付けられている四国ダービー。終盤に差しかかるところで失点してしまった愛媛はここから猛攻をしかける。徳島の1-2列めで田中選手や山瀬選手がボールを受けて前をむくことで、徳島の2列めの選手たちを引きだして2ライン間を間延びさせることができていた。ただチャンスはつくれども最後は中央に人数をかける徳島の堅守をまえに決定機はつくれず。
 78分に有田光希選手、82分に河原和寿選手が出場することで、愛媛はシステムを[4-4-2]に変化する。有田選手と河原選手で2トップ。中盤は左に神谷選手、右に近藤選手。4バックは左から下川選手、前野選手、山﨑選手、茂木選手。ボール保持のときには神谷選手が内へ絞り、空いた大外を下川選手が高い位置まであがっていった。
 86分には田中選手に代わって西田剛選手が出場。河原選手が右サイドハーフ、近藤選手が左サイドハーフ、そして神谷選手がセントラルハーフに移る。前節のように攻撃的な選手をそろえてなにがなんでも得点を狙う愛媛。しかし徳島も前がかかる愛媛を躱してボールを前進させてはシュートチャンスへもっていく。コーナーキックからは決定機もつくっていた。ただ愛媛は前節のように失点を重ねなかった。最終ラインで1対1の場面になっても山﨑選手が身体を張って防いでいた。
 ゴールを目指し邁進する愛媛と、それを全力で回避しようとする徳島のつばぜり合いは、その後得点動くことなく終了。0-1で愛媛は悔しすぎるダービーでの敗戦、そして辛く苦しい連敗となってしまった。

 さすがの徳島ヴォルティス。攻守に組織的で洗練されていた。とくに攻撃時、自分がどの位置へ動けば相手がどう動いてパスコースが生まれる、というサッカーの原理的な部分への理解度が高くて脅威だった。しかし愛媛FCも中央への進入をおおく防ぎ、最後のところでしっかり跳ね返すことができていた。四国ダービーだ! と両チームのファン・サポーターが燃えただけでなく、ひとつのサッカーの試合としても充分見応えのある試合だったのではなかろうか。
 これほど選手の質と戦術とを備えた徳島をライバルと呼べるのは幸運。今季は煮え湯を飲まされたけれど、来季は勝つよ!
 ダービーは終わったけどリーグ戦はつづいていく。傷ついてもなお声援はやまない。いえいとピースしつよがってみせるのさ。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。