J2-第23節 東京ヴェルディ対愛媛FC 2019.07.20(土)感想

[4-1-2-3]でスタートしたヴェルディはキックオフからボールを保持することを選択。ていねいにビルドアップして愛媛ゴールを目指すぜというスタンス。
 たいする愛媛は[3-4-2-1]なのでボール非保持ではウイングバックとインサイドハーフが1列ずつさがった[5-4-1]。もちろんバックパスやパスミスに反応して、インサイドハーフの選手たちが前へ飛びだしていくこともある。序盤によく見られた。そして愛媛のフォアチェックにヴェルディはすこし手間取っているようだった。なんどかフォアチェックからショートカウンターを打てそうな場面を愛媛はつくれていた。ということで、愛媛としてはフォアチェックでがんがんプレッシャーをかけていきたいところ。
 しかしそこは名門東京ヴェルディ。GK上福元直人選手もくわわったビルドアップで数的優位をつくってあっさり愛媛のプレッシングを回避しはじめる。そうなると愛媛としては地獄だった。ボールをハーフウェイライン付近まで運ばれてしまうと、ヴェルディの選手たちの個々のテクニックが高すぎて、ちょっとボールを奪えそうにない。困った。なのでブロックをつくるのだけれど、インサイドハーフの選手やレアンドロ選手が2ライン間をでたりはいったりして、愛媛の守備を困惑させる。普段であれば強固な中央封鎖によって相手のボール回しを外環へおしだせるのだけれど、どうにも今日は様子がおかしい。ばんばん縦パスが2ライン間にはいっていく。21分には川井健太監督も中央をもっと締めるようにという指示を飛ばしている。ただ、先述のとおりヴェルディはトップのレアンドロ選手がさがって受けにくることで、2ライン間を攻略したけれど中央にだれもおらん⁉ という状況になることもあった。
 さて愛媛をじわじわと苦しめるヴェルディ。しかしボール保持から非保持にかわるとちょっと怪しげな雰囲気になる。
 2ボランチではなくアンカーをひとりおくことの利点は、前線へのパスコースをおおくつくれることだとはヨハン・クライフの言。ただデメリットはアンカーの脇が空いてしまうこと。ひとりでフィールドの横幅60何メートルをカバーするのは労働基準法に違反する。なので先人たちはサイドバックの選手が内側へ絞ってその空間を埋めるという方法を生みだし、ペップ・グアルディオラがブンデスリーガでリバイバルさせた、とされている。巷間いわゆる“偽サイドバック”だ。
 はたしてヴェルディはいかに。彼らのサイドバックは左右で役割が違っていたようだった。左サイドバックの永田拓也選手は先人の教えのとおりに内側へ絞ってビルドアップの安定とカウンターの予防をおこなっていた。たいして右サイドバックの小池エーコ純輝選手はタッチライン際に張っていることがおおかった。右ウイングの河野広貴選手が内側へ絞るので、小池選手は空いた大外の空間をつかおうということだ。なので、おもいがけず右サイドでボールを失うと脇をさらすことになる。愛媛はそこをていねいにつっついていた。
 脇腹をつつかれてこしょばくない人もすくなかろう。ということでヴェルディも身もだえすることになる。特にこの試合では野澤英之選手の立ち位置がいつもより前がかっていたため、よけい愛媛のカウンターには迫力があった。
 ヴェルディはボール非保持のときに藤本寛也選手と渡辺皓太選手が1列ずつあがった[4-4-2]になっているようにみえた。ということで愛媛は最後方で3対2の数的優位をえられていた。なのでときにヴェルディは1トップと2ウイングの3人で数をあわせてくる([4-3-3]ぎみ)。そうすると愛媛はディフェンシブハーフがさがったり、GK岡本昌弘選手がボックスを飛びだして4バックになったりする。
 愛媛の先制点は相手を動かして空間をつくって前進して、という作業がきちんとできたことによる。31分。[4-3-3]ぎみになってヴェルディがフォアチェックにくるのを愛媛は上手に回避。このときディフェンシブハーフを経由してサイドチェンジすることで、ヴェルディの2列めの選手たちをひきずりだすことに成功している。左サイドで前野貴徳選手がボールを受けると、すぐさま近藤貴司選手が裏へ走りだし、ヴェルディのセンターバックをひとりつっている。これによってさらに2ライン間を手前だけでなく奥にも間延びさせる。前野選手は近藤選手ではなく大外の下川陽太選手へパス。すぐさま近藤選手がさがって間延びした2ライン間で下川選手からパスを受ける。この一連の過程で愛媛はヴェルディ陣内へ進入する。ここから逆サイドへ展開し、あとはスローインを繰り返していっそうヴェルディ陣内深くへ進入。最後はおしこんだところでフォアチェックをかけ、長沼洋一選手がすばらしい反射神経でパスミスをかっさらって絶妙なクロス。藤本佳希選手がどんぴしゃに飛びこんで得点。藤本佳希選手は復帰後さっそくの得点だった。大怪我でなくてよかった。39分にはセットプレーからユトリッチ選手が初ゴールとなる追加点を決め、前半のうちに0-2とリードした。やったぜ。
 愛媛はヴェルディの監督交代後の不慣れなところを突けていた――そんなふうに試合を最初に見たときにはおもっていた。ただ、これまで述べてきたように、見なおしてみるとなかなか危うかった。前半のうちに2ライン間を突かれてしまう問題を解決できず、それはけっきょくゲームセットの瞬間まで無回答のままだったのだから。

 後半から河野選手に代わって山本理仁選手を永井秀樹新監督は送りこむ。この山本少年、とんでもない刺客だった。
 ウイングをひとり削ったヴェルディ。システムを[3-4-2-1]に変更する。
 前めのサイドのポジションに利き足とは逆の選手を配置するのは効果的だとされる。ということは、後方の選手はなるべくサイドと同じ側が利き足の選手であるほうが望ましいということになる。だって逆足だと大外へパスをだすときに角度をつけられないじゃないか、ということ。
 さて山本選手は左利き。だが起用されたのは右のセンターバック。なかなか見ない起用法だった。ところがかなり効果的だった。
 愛媛は試合をとおして中央を封鎖することができていなかった。後半になるとヴェルディのシステム変更によっていっそう対応に汲々としていた。ゴールキーパーのビルドアップ参加にくわえて、システムが噛みあうことによっていたるところでマンマークぎみの守り方になった結果、愛媛の選手たちがヴェルディの選手たちの動きに引きずられることになったからだ。ただでさえ中央を封鎖できていないのに、ヴェルディのディフェンシブハーフがすこし間隔を広げただけで中央のパスコースが空いてしまう、なんてこともあり、山本選手はそこへばしばし縦パスをとおしていた。左利きである山本選手は、右サイドから中央へパスをだすとき、いってしまえば右利きの選手よりも1歩分対面する相手から距離をとることができ、それがより安定した縦パスの供給につながっていた。

 またレアンドロ選手のさがってくる動きは前線中央を空っぽにしてしまう要因になっていたが、後半からは2インサイドハーフにくわえて、ディフェンシブハーフの選手もひとり2ライン間へあがっていくことで、中央にだれもいないという状況をつくらないようになっていた。おどろきだ。ヴェルディはときに[4-0-6]みたいな形にまでなっていた。ミシャの中盤空洞化どころじゃない。大外のウイングバックを除いても、2ライン間に4人もいるなんてことも。
 50分。2ライン間を突かれつづけてあたえたコーナーキックから、小池選手におしこまれてヴェルディに1点を返される。ここから愛媛はフォアチェックにいけなくなり、ヴェルディがよりいっそう好きなようにボールを保持できるようになっていった。
 62分の同点弾もセットプレーの流れから。興味深かったのは、ヴェルディがコーナーキックのとき後方に3人も残していたこと。これによって愛媛はクロスをクリアできてもこぼれ球をひろわれてしまう。また愛媛の最終ラインが重くなって全体をあげられなくなっていたため、ヴェルディの選手たちがいたるところでフリーになっていた。そのうちのひとり平智広選手から抜群のクロスをあげられてしまい、なおかつ純粋なセンターバックふたりがつりだされてしまっていた愛媛は、レアンドロ選手の絶妙な間合いへの飛びこみへ対応することができず、華麗なヘディング弾を決められてしまった。
 ヴェルディの逆転弾はサイドでのワンタッチパスにゆさぶられて2ライン間にぽっかり空間ができ、そこを渡辺選手につかわれてしまうことで生じた。渡辺選手のシュートはGK岡本選手が見事にセーブしみせるが、大外から飛びこんできた永田選手がこぼれ球にうまくあわせておしこまれてしまった。
 川井監督も丹羽詩温選手、山瀬功治選手、神谷優太選手と攻撃的な選手を次々と送りだすが、なかなか愛媛は自陣から抜けだせない時間帯がつづいた。それでもラスト10分ぐらいは捨て身のフォアチェックを再開してボックス内へ進入する機会がふえていった。だが決定機といえる場面まではつくれず、3-2の逆転負けを喫してしまった。残念無念。

 強い東京ヴェルディなるものを見せつけられてしまった感がある。ちょっとボールを奪えそうになかった。それくらい個々の選手たちのテクニックが高かった。愛媛FCはたま際をつくろうにも、ワンタッチではたかれて奪えないことがおおくつらかった。
「ワンタッチでボールをまわせばボールを奪われることはない。だって相手が寄せてきてもそのときにはもう僕はボールをもっていないんだ。相手はどうやって僕からボールを奪うっていうんだい?」
 そういったのはシャビ選手だったかイニエスタ選手だったか?
 さて、内容がわるくても勝てる試合とならずに切ない愛媛FC。しかし朗報がある。そう、かつて木山隆之監督のもと愛媛で大活躍した茂木力也選手が帰ってくる。いえい。さらに来シーズンにはユース出身の忽那喬司選手が大学経由で加入することも決まった。いえいいえい。
 気づけば第24節ツエーゲン金沢戦当日になっていた。愛媛のブレイクスルーを祈っている。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 東京ヴェルディ 3-2 愛媛FC @味の素スタジアム

 得点者
  ヴェルディ:小池純輝、50分 レアンドロ、63分 永田拓也、68分
  愛媛FC  :藤本佳希、32分 ユトリッチ、39分