J2-第21節 愛媛FC対モンテディオ山形 2019.07.07(日)感想

 因果によって数年前よりライバル関係になったモンテディオ山形。山形のほうでもライバル意識をもっているのかどうかは知らない。おそらくないだろう。せっかくなのでこちらでかってに燃えさせてもらおう。
 ということで、J2第21節、シーズン折り返しとなる愛媛FC対モンテディオ山形の試合をざっくりとふりかえっていく。

・山形のボール保持についてのあれこれ

 山形のフォーメーションは[3-4-2-1]。ボール非保持のときは、全体の高さによって[5-2-3]だったり[5-4-1]だったりする。[5-4-1]はブロックをつくっているとき。
 これまで失点はJ2最小の13しかしていない山形。堅守の秘訣は攻から守への切り替えのはやさにありそうだ。時に理不尽なほどすばやく帰陣しているところをみると、ボールを失ったときのことも考えた攻撃の配置をとっている気配がする。
 山形の攻撃をみていくと、2ライン間へ縦パスをとおせそうなときはとおすし、とおせないなら、前線の準備ができしだい最後方からロングボールを入れていく2パターンが主だっていた。
 山形の攻撃は最後方の選手2人ないし3人でのパス交換からはじまる。パス回しには栗山直樹選手が必ず参加する。ほかの参加者は左右のセンターバックだったり1列おりてきたディフェンシブハーフの選手だったり。
 ボールを回すとき、かならず愛媛のブロックを左右に揺さぶることを心がけていた。そして狙いのひとつは愛媛のインサイドハーフとディフェンシブハーフのあいだ。ボール回しのあいだにボールサイドとは逆のセンターバックやウイングバックが幅をとるため、たとえば山形左サイドから右サイドへボールが移っていくと、幅をとる熊本雄太選手をみるために神谷優太選手がよせていかなければならない。そうなるととなりにたつ山瀬功治選手とのあいだが空いてしまう。空いたコースへ顔をだすのは右インサイドハーフの坂元達裕選手だったり、内へ絞った右ウイングバックの三鬼海選手だったり。とくに坂元選手と三鬼選手のポジションチェンジは愛媛の選手たちを困惑させていた。
 たとえば27分。坂本選手が外へ流れながらおりていくことで、神谷選手は彼へパスがでないようによせていかなければならない。ということで山瀬選手とのあいだが空くのだけれど、そのままでは2ライン間でパスを受ける選手がいなくなる。そこにでてくるのが三鬼選手。それまでタッチライン際に張って幅をとっていたのに、一転内側へ絞って栗山選手からの縦パスを受けている。
 似たような形が39分。ここでは坂元選手がおりる代わりに熊本選手がすこし内側にいることで神谷選手の注意をひき、山瀬選手とのあいだを空けさせる。このときも三鬼選手が内へ絞ってボールを受ける。受けるというか、サイドに空いたスペースへワンタッチでパスをだそうとする。このとき下川陽太選手が三鬼選手についてきていたので、大外で熊本選手がフリーになっていた。三鬼選手のパスは足につかなかったが、すぐさま坂元選手がフォローしてしっかり熊本選手へパスをだしている。以下は上記ふたつの場面をごっちゃにしたもの。つまり山形の狙いの概略。嘘です。すみません。作成しながらごっちゃになりました。

 さて山形の攻撃で脅威なのは、以上の2ライン間攻略よりも、ロングボールで背後を狙うパターン2のほう。
 最後方でのパス回しで陣形を整えるのはパターン1と同じ。ただ、今度は前線の選手が裏を狙った動きをしたり、ウイングバックの選手が下がる動きをして愛媛2ライン間にギャップをつくったりしてから、ディフェンスラインの裏へロングボールを入れる。
 ミラーゲームという面もあるが、陣形が整えば基本的にどこもかしこも1対1の状況になっている。そこへ裏へのロングボールを入れていくとどうなるか。
 もしそのロングボールがパスとなって味方がおさめたり裏への抜けだしを成功させたりすれば申し分ない。しかし、そうならないことのほうがおおい。なので山形はそこにしかけを施している。しかけというか、つまり、数的同数だよねということ。愛媛はクリアをしてもこぼれ球をひろわれる可能性がたかい。ボールを保持できたとしても数的同数なのでパスのだし所がない。山形からすれば積極的にプレッシングをしかける状況になっている。愛媛がそれでもつないでくれば猛然とプレッシングをかけて奪いとろうとする。まえへださずにGK岡本昌弘選手へ戻しても、やはりフォアチェックへでていく。なので愛媛は苦し紛れのロングボールを蹴らされやすくなる。
 なんてこった。
 ただ、愛媛もここ数試合自陣でのビルドアップに安定感をとりもどしてきているので、GK岡本選手を含めた最後方での数的優位のもと冷静に山形のプレッシングをいなしていた。いえい。

・愛媛のボール保持についてのあれこれ

 2ライン間を攻略することも、ディフェンスラインの裏を狙ってくることもできてしまう山形。だからといって愛媛もやられっぱなしというわけにはいかない。
 愛媛もおおむねふたつのパターンでビルドアップをおこなっていた。
 まずひとつめ。おもに序盤にみえた形で、2ディフェンシブハーフが横関係のまま左右へスライドする。見ようによってはディフェンシブハーフのサイドバック化にみえるかもしれない。これは昨季川井健太監督が就任したあとからみせるようになったビルドアップの形でもある。いわゆるセンターバック間に中盤の選手がおりていく通称サリーともちょっと違う。ちなみにサリーとは「私サリーさん。いまあなたのうしろにいるの」というように、気づけばおもいもしない場所に選手がいることからそう呼ばれている。
 サリーとはサリーダ・ラボルピアーナの略である。ポルトガル語っぽいが、いったいぜんたい語の意味がわからない。サリーダは出口だろうけれど、ではラボルピアーナってなに? 夏休みに自由に研究してかまわない題材だとおもいます。
 愛媛の動き方もサリーダ・ラボルピアーナの一種なのかもしれないが、おりる場所はサイドバックの位置。なので、正確にはこれもサリーダなんちゃらといっていいのかどうかは知らない。また別の言い方があるのかもしれないが存じあげない。
 さて、ディフェンシブハーフがサイドへ流れるとどういうことが起こるか。まず、山形のインサイドハーフの選手の注意をひくことができる。タッチライン際へ広がっていけば、相手も寄ってくるかもしれない。相手が寄ってきたのなら、2ライン間への縦パスをとおす隙間が生まれるかもしれない。山形は愛媛陣内では[5-2-3]ぎみとインサイドハーフの選手が高い位置にでるので、インサイドハーフの背後でありディフェンシブハーフの脇でもある空間が空きやすくなる。
 また、山形の前5人は近い距離をたもとうとするため、ボールサイドとは逆側が空きやすくなっている。なので右サイドにひきつけてから逆サイドへ展開し、前野選手がドリブルで運んでいく、なんていう場面も見受けられた。

 しかし2ライン間へパスをとおせても、なかなか前をむけないこともおおかった。なぜかといえば、山形3バックの選手たちが2ライン間で受けようとする愛媛の選手にすぐさまよせていっていたからだ。
 ということで、愛媛は時間が経つにつれて第2の解決法を見出すようになる。センターバックがでてくるのなら、その背後をつかえばいいじゃない。
 神谷選手には熊本選手がマンマークといっていいほどについていた。神谷選手がさがってボールをもらおうとするのにもついていっていたのでよほどだ。
 ということで熊本選手の背後が空くことになる。神谷選手が下がる場合だけでなく、サイドへ流れるときにもついていっていたので、栗山選手と熊本選手とのあいだが間延びする場面はよくみかけられた。
 愛媛の選手たちはしだいにその仕組みを把握し、積極的に熊本選手の空けた空間を突こうとしていた。空いた空間を吉田眞紀人選手が斜めに走りこんだり、下川選手が裏抜けを狙ったりという形で、愛媛は山形陣内へ前進していった。
 この形は山形が自陣で[5-4-1]のブロックをつくったときにも応用されていた。たとえば前野選手がボールをもって運びはじめると、対面する坂元選手はよせにいく必要がでてくる。そうなると彼の背後が空く。なので神谷選手がフリーでそこへ移動してパスを待つことができる。なんどか背後を突かれはじめていたため熊本選手もすぐにはよせにいけず、わずかな間ではあるが神谷選手がフリーでいられるようになる。

 23分には、神谷選手がサイドに流れることで熊本選手を引っ張りだし、栗山選手との距離をとらせる。このとき同サイドは4対4の状況になっていた。そのタイミングで後方から飛びだしてきたのは田中裕人選手。彼がむかったのはもちろん間延びした熊本選手と栗山選手とのあいだ。そこへ前野選手が縦パスをとおし、田中選手はワンタッチで落とす。2ライン間でフリーになっていた神谷選手が前むきにボールを受けてゴールへむかうチャンスとなった。
 というように、山形にせよ愛媛にせよ、相手陣内まで攻めこむことはできていた。だが2ライン間でのミスだったり、センターバックの迎え撃つ守備だったりによって、ボックス内へ進入することはほとんどなかった。とくに両チームともセンターバック中央の選手(愛媛は怪我から復帰のユトリッチ選手、山形は大黒柱の栗山選手)が相手の1トップを起点にさせない逞しさをみせていた。

・カウンター合戦となった後半

 後半から愛媛の1トップと2インサイドハーフが前に残り気味になった。守備をしなくなったというより、山形の攻撃を[5-2](もしくはインサイドハーフ1人が戻った[5-3])で防げるという自信があったのかもしれない。といっても、もちろん中盤でボールを奪えればという条件付きで、自陣まで攻めこまれたときはちゃんと全員もどってきてブロックをつくっていた。とはいえ、山形は後半序盤に愛媛の2ライン間を攻略してなんども決定機をつくっていた。この時間帯に失点しなかったのは愛媛にとって幸運だった。
 両チームとも、前半から2ライン間までは攻略できるけれど、ボックス内へ至るまえにミスでボールを失う場面がおおかった。それは後半もかわりなかった。となれば、愛媛の1トップ2インサイドハーフが前めに残るためカウンターを打つ機会もふえていったことと、山形ももともとボール奪取から縦へむかう勢いがあったことにより、ボールが両陣地を行ったり来たりするせわしない展開になっていた。
 ラスト10分ではさすがに山形も落ち着き、愛媛陣内でボールを保持する時間がふえていく。対して愛媛はカウンターや、自陣ボール保持からの疑似カウンターで山形ゴールへ迫っていった。
 どちらが先制点をあげてもおかしくなく、つまりどちらも得点を決めきれないやもしれない展開がつづくなか、90分、途中出場していた藤本佳希選手がシュートを打った場面で足を負傷してしまう。みずから立つことができず、タンカで運ばれていったので、とても心配。
 白熱した試合は0-0のまま終了。連勝は逃したものの、首位山形相手に伍する試合を愛媛は見せてくれた。

・終わり

 木山監督とともにモンテディオ山形に移っていた選手たちも、気がつけば阪野選手だけになっていた。GK児玉剛選手はFC東京へステップアップしていったし、茂木力也選手は浦和レッズへ帰還した。瀬沼優司選手も横浜FCで生きる伝説の選手たちとともにすごしている
  とおもっていたら、今季は岡崎健哉選手が加入し、今夏には秋山大地選手もやってくるという。「大地はあと半年ここ(愛媛)にいたらもっと伸びる」という木山監督の言葉は山形の地で結実することになるのか! はたして愛媛ファン・サポーターとしては懐かしい顔がふたたび山形に集結しつつあるようだ。
 前節栃木SC戦につづいて自分たちのよさをだせていた愛媛FC。この試合では2ライン間へ縦パスがでたあとの展開でまごついている場面がおおかったが、そこからさきを整理していければシーズン後半戦、充分上位へくいこんでいけるのではないか。
 最後までお読みいただきありがとうございました。  

 試合結果
 愛媛FC 0-0 モンテディオ山形 @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛FC       :
  モンテディオ山形: