J2-第24節 愛媛FC対ツエーゲン金沢 2019.07.27(土)感想

   ツエーゲン金沢は[4-4-2]。愛媛FCはいつものとおり[3-4-2-1]。なので愛媛がボールをもつと、3バック対2トップで愛媛が優位。ということで金沢はサイドハーフの選手があがってきて3対3にする。
 愛媛のビルドアップは基本的に最終ラインと横並び2ディフェンシブハーフの[3-2]でおこなう。金沢は愛媛の[2]には2セントラルハーフがそれぞれマークについていた。なので愛媛としては手近なところにパスコースがなくなってしまう。しかしセントラルハーフが前がかる分2ライン間が間延びするので、愛媛はその隙を突いて前線へ縦パスを入れていた。
 となると金沢は対応をかえなければならない。
 8分には前プレをやめて2ディフェンシブハーフを2トップがみる形にする。といってもはっきりとマークにつくわけではなく、愛媛がバックパスをしたときなんかには、ディフェンシブハーフを捨てて、パスの逃げ場になるセンターバックへ寄せていく。愛媛はそのマークがはずれた瞬間に野澤英之選手へパスをだしてボールを前にすすめた。金沢のセントラルハーフも、マークの対象を1列さげてインサイドハーフに切り替えていたので、野澤選手は悠々とボールを運べる。
 ただ、野澤選手がドリブルするものの、前線の選手が裏を狙って金沢ディフェンスをさげさせて深さをつくるわけではなかった。裏よりも足もとの意識があったのだろう。なのですぐに野澤選手は行き詰ってしまう。全体は金沢陣内まで進入できたけれど、ボックス近くまでおしこめたわけではないみたいな。
 15分に愛媛があまりみせない形からチャンスをつくった。
 左サイドでのスローインの流れから、前野選手が中盤に残る形に。代わりに野澤選手が最終ラインへ下がり、ユトリッチ選手が左のセンターバックへ移動している。ボールがユトリッチ選手へわたると、彼の目のまえには空間がひらけていた。なのでユトリッチ選手はがんがんドリブルでボールを運んでいった。なかなかの壮観だった。
 ユトリッチ選手のもちあがりによって金沢の中盤が同サイドに引き寄せられ、逆サイドの山﨑選手がフリーとなる。しっかりと展開して、ボックス近くまでおしこみ、最後は神谷優太選手がシュートを放つ。しかしこれをGK白井選手が好セーブ。以降この試合なんどとなくGK白井選手の好セーブが飛びだすことになる。
 ユトリッチ選手の凄さにそろそろJ1とかJ2上位のチームが気づきはじめてしまうのではないかと恐々としている。がたいがよくてギリギリのところで身体も張れて、にもかかわらずテクニックがあってパスも自在であるばかりか、ドリブルで運べてしまう度胸まで備わっているって、現代型センターバックそのものじゃないですか。茂木力也選手の加入って、そういった前振りじゃないですよね?
 閑話休題。なかなか攻撃時に深さがつくれないで困った愛媛FC。だが、とある形から攻めるときは必ずといっていいほど金沢陣内深くまで攻めこんで、チャンスをつくることができていた。そしてそれは前回の対戦でも効果的だった攻め方でもあった。
 33分。金沢の2トップのアプローチが緩くなったところで、野澤選手が高い位置より下がってきて前野選手からパスを受けた。野澤選手の動きに大橋尚志選手もついてきたので、大橋選手の背後が空くことになる。またこのとき下川選手はタッチライン際の上がりすぎず下がりすぎずという位置にいた。
 野澤選手はワンタッチで前野選手に戻す。前野選手は次に山瀬選手へパスをだした。するとどうだろうか。野澤選手の動きによって大橋選手が前がかっている。そして中途半端な位置にいる下川選手をみるために長谷川選手もすこし前がかっている。ということで、大橋選手と長谷川選手の背後がぽっかりと空いており、パスを受けた山瀬選手からは、その空いた場所に位置する神谷選手まで、障害ひとつなくひらけたパスコースが見いだされることになる。山瀬選手がそのパスコースを逃すはずもない。パスを受けた神谷選手はボックス近くまでドリブルし、カットインしてからシュートを放つ。しかしGK白井選手が好セーブ。ふぅ。
 というように、愛媛は金沢の右サイドの裏をついた攻撃のとき、もっともゴールに近づく場面をつくれていた。この形は、有田光希選手や吉田選手がその空間へ走りこんでロングパスを呼びこんで前進するというパターンとしてもみられ、それは途中出場した西田剛選手もおこなっていた。しかし得点には至らず。
 チャンスをつくりつつも、なんどか金沢のショートカウンターの脅威にさらされながら、0-0のまま前半を終える。

 後半たちあがりも前半と同じく愛媛がボールを保持することができていた。先述の金沢の右サイドの裏つきから有田選手のドンピシャヘッドもあったが、残念そこはGK白井選手。
 しかし56分頃から愛媛のパスがつながらず、中盤で奪われてショートカウンターをくり返し打たれるようになってしまう。発端となった56分の金沢の攻撃は、深さをつくるとはどういうことかをまざまざとみせつけられるものだった。
 愛媛のパスミスから自陣でボールをえた金沢は、すぐさま前線の垣田選手へパスをだす。垣田選手はワンタッチで加藤選手へ落として走りだす。加藤選手がボールをおさめて顔をあげるあいだに垣田選手はオフサイドラインを越えてしまうが、彼の後方から山根選手も斜めに走りだしている。もし垣田選手のみの飛びだしであれば、愛媛ディフェンスはラインの高さをたもち、ボールを運んでくる加藤選手と対峙することができたはずだ。だが山根選手が時間差で飛びだしてくることで、愛媛ディフェンス陣はひきつづきラインを下げなければならない状況になった。
 加藤選手からのスルーパスを受けた山根選手はボックス内へ進入し、折り返してからシュートを放った。ユトリッチ選手の寄せによってシュートコースはきえていたので枠には飛ばなかったが、愛媛はあっという間におしこまれてしまった。
 ここから愛媛はボールをなかなか前進させられなくなる。その原因のひとつは、おそらく金沢のブロックのコンパクトさにあったのだろう。
 金沢は後半から愛媛の3バックに対して2トップのみが対峙するようになる。
 では愛媛のディフェンシブハーフをどうするのか。なんと金沢はサイドハーフが両方とも内側に絞って対応することにした。そしてセントラルハーフはインサイドハーフをみている。なので[4-2-2-2]という形。
 となれば、とうぜんウイングバックはより空きやすくなるのだけれど、金沢の陣形がコンパクトになった分、サイドバックがすぐに寄せられるようになっていた。
 こうして愛媛は中盤で前をむきづらくなり、金沢がすばやい寄せからボール奪取してショートカウンターを打つ展開になっていった。
 こういうときに打開策を打ちだすのが前野キャプテン。しだいに金沢ディフェンスの裏へロングボールを蹴りこむようになっていった。もちろん金沢右サイドの裏へ。ここから愛媛は金沢陣内深くまで攻めてクロスをあげる場面がつづいた。
 安定感をとりもどしはじめたかにみえたやさきの69分、ハーフウェイライン付近でボールを奪われると、守備の準備が整う前にクロスを入れられてしまう。処理の難しいボールであり位置であった。背走する山﨑選手は胸トラップしてからバックパスをしようとしたのだけれど、自身から逃げていく形となったボールを、飛びだしてきた垣田選手にかっさらわれてしまう。GK岡本選手も前にでてシュートコースをけしていたが、垣田選手が冷静に股抜きをみせて0-1に。
 75分には金沢のコーナーキックからPKをあたえてしまう。GK岡本選手がすばらしい読みで防いだものの、こぼれ球をPKキッカーの山根選手がしっかりとおしこみ0-2に。
 79分。愛媛は吉田選手に代えて西田選手が出場。すると前野選手が右のセントラルハーフにはいった[4-4-2]へシステムをかえる。
 前節の東京ヴェルディ戦で“偽サイドバック”にふれたが、あの話を敷衍すると、現代のサイドバックはボランチの役割を担う必要がでてきたともいえる。そして3バックを採用する浦和レッズのストッパーの役割を偽サイドバックに近いと看破したのはライターの河治良幸氏だったか。
 となれば、前野選手がボランチに起用されることはふしぎではない。彼が左ではなく右で起用されたのも、前節のヴェルディ戦で山本理仁選手にみせつけられた後方の選手における逆足の効用をおもいだせば合点がいく。
 愛媛の4バックでは、おおくの4バックのチームがそうであるように、サイドハーフの選手は外に張るのではなく内へ絞る。そうしてサイドバックにあがっていく空間をもたらす。なおかつ2トップになっているので、金沢の2ライン間に4人を送りこもうという意図もみえる。なので、前節書いたヴェルディの選手が2ライン間に4人もいるなんて尋常じゃないというのは、冷静に考えればわりとよくあることだよね? というものだった。反省。
 金沢をおしこみつづけた愛媛だったが、クロスがなかなかあわず、シュートを打つ機会がそれほどなかった。それでもおしこんでいる分こぼれ球の回収確率が高く、連続して金沢ゴールに迫っていった。しかし最後にはしっかり金沢にボールを保持されてしまい、そのままタイムアップ。悔しい悔しい3連敗となってしまった。

 今夏はJ1チームからJ2が選手を獲得する移籍がふえているみたいだ。J2の逆襲なのか、はたまたべつの意味があるのか。
 愛媛はユトリッチ選手を獲得してもいるので、東欧あたりとおもわぬつながりがあるやもしれぬと妄想してみたけれど、残念ながら元レッズのズラタン選手は引退してしまったらしい。
 冗談はさておき、ボックス内からシュートをなかなか打てないのは気になるけれど、愛媛のアタッカー陣も錚々たるメンバーがそろっているとおもっているので、あとは意識しだいなのではないかな、とも感じる。後半戦から大爆発した阪野豊史選手もいたことだし。もちろん新しい仲間がふえるのはうれしいけれどね!
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 愛媛FC 0-2 ツエーゲン金沢 @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛:
  金沢:垣田裕暉、69分 山根永遠、75分