コイン落としの攻防

中学生になってからの雨の日、室内遊びでの流行は「コイン落とし」だった。

コイン落としと言っても、単に「机から落とせば勝ち」というルールではない。机の一面を壁に接するように配置。毎回手番では壁に反射させるのが義務、かつ壁反射させるまでは他のコインに当たってはダメと言うルールがあった。壁反射する前に他のコインに当てたり、壁反射ができなかったらその時点で負けである。コインは任意の指1本のみが触れてよい。普通は人差し指で弾いてコインを動かす。手番は一人ひとりが順々に行っていくルールだった。一対一ルールでもバトルロイヤルルールでも遊べた。

大きいコインは反射させてから相手を跳ね飛ばして落とすのが主な戦術。対して小さいコインは小回りを活かして大きいコインと壁の間に位置取りして、壁反射をふさぎ「窒息死」を狙う。1円玉で500円硬貨に勝つにはほぼこれしかなかった。

壁に近ければ反射させやすいという意味では有利だけど、相手のコインの壁反射直後での吹っ飛ばし攻撃に狙われやすい。反対に壁から遠ければ壁反射の吹っ飛ばし攻撃で狙われにくくなるかわりに、自分の手番での壁反射も難しくなるという具合。

机の淵で落ちそうな状況、しかも壁と自分の間に相手のコインに入り込まれルートを完全に遮断されていても、ビリヤードのマッセのようにコインを下から弾き、空中ルートで壁に当てればOKという神業みたいなルールも存在した。このときは人差し指ではなく、コイントスのように親指でコインを扱う者が多かった。

コイン落としの壁反射のやり過ぎで校舎の壁の机の高さに平行に傷ができていたように思う。教師が発見した時に何の傷かわからず訝しんでいた。生徒は皆にやにやしていた。

私は祖父にもらったオーストラリアの50セントコイン(500円玉よりも2回り位大きい)を持ち込んだこともあったが、円形ではなく十二角形だったので壁反射後のコースが制御できず、即座にお蔵入りした苦い思い出がある。

「でかけりゃいい」「高けりゃいい」と言う単純なルールよりも勝利条件が2つあってある要素で有利だとある要素で不利になるというのは個性や戦術、バランスが取れて楽しいと思う。誰が考え出したルールだったかは忘れたが良くできたルールだった。単純で理解しやすい割に奥深いバトルを楽しめるのは良いルールだ。今でもそこそこ楽しく遊べるんじゃないかなぁ。

CIA(内部監査人)や行政書士資格から「ルールについて」、将棋の趣味から「格上との戦い方」に特化して思考を掘り下げている人間です。