やめて鳥

やめて鳥という鳥がいました。

この鳥は世にも珍しい鳴き声で鳴く鳥なのです。

その鳴き声というのが、

「やめてー」

と、はっきり聞こえるというものなのです。

やめて鳥は鳴き声を使い分けることは無く、この1種類のみの鳴き声で通しています。

つまり、いついかなる時にも、

「やめてー」

と、言ってくるのです。

例えば近所の子ども達に石を投げられてからかわれた時も、

「やめてー」

と、必死で鳴き出します。

「やめてーやめてー」

その声が子ども達の無垢で残酷な嗜虐心をそそり、なおも石を投げ続けられます。

「やめてーやめてー」

その子ども達を見かねて、 大人が止めるように注意をします。

やめて鳥は助かりました。 やめて鳥は感謝を伝えようとします。

「やめてー」

感謝は伝わらず、まるで子ども達に石を投げられようとしているようです。

やめて鳥は警戒心が薄く、 本来人なつっこい鳥なのです。

人に触られるのも嫌がりません。

しかし、人に触られて喜びを伝えるときも、

「やめてーやめてやめてー」

と、このような調子のため、人は触るのを嫌がっているのだと止めてしまいます。

本当はとても嬉しいのに。 どうしてみんな止めてしまうのだろう。

やめて鳥は不思議に思っても、答えにたどり着くまでの知恵は持っていません。

今日もやめて鳥は、

「やめてー」

と、鳴き続けるのです。 やめて鳥の本心が伝わることもなく。

そんなある時、事件は起こりました。

やめて鳥の目の前で、おばあさんが引ったくりに遭ってしまったのです。

「引ったくりよ! 誰かー!」

おばあさんはそう叫びます。

しかし人々は誰も無反応。 厄介ごとには関わりたくないのです。

その一部始終を見ていたのは、やめて鳥だけでした。

やめて鳥には何が起こっているかをハッキリと理解出来る知能は備わっていません。

当然、人間の“鳴き声” の意味も理解出来ません。

しかし、やめて鳥はおばあさんの悲しそうな顔を見ました。

おばあさんが悲しんでいる、 それだけは理解出来ました。

そう理解すると、やめて鳥は引ったくり犯に飛びかかります。

「やめてーやめてー」

「うわっ!?なんだこいつは!?」

引ったくり犯は、やめて鳥の鉤爪に引っかかれるなり、すっかり怯んでしまいました。

「やめろ! やめてくれ!」

「やめてーやめてー」

やめてやめろの応酬は最早どちらがどちらか区別が付きません。

しかし、やめて鳥は引ったくり犯への攻撃を止めません。

「いいわ! そのまま懲らしめてちょうだい!」

おばあさんは嬉しそうに応援しているのです。

その顔を見ると、やめて鳥は勇気が湧いてくるのです。

これには引ったくり犯もたまらず。

「わかった、 降参だ、盗んだものも返すから」

と、おばあさんのバッグを手放します。

「わかったわ、もう良いでしょう」

おばあさんの安堵の表情から、やめて鳥は心情を察し、 攻撃を止めました。

そして、騒ぎを聞きつけた警察が間もなくやってきて、引ったくり犯はお縄に尽きました。

「しかし、鳥が人助けとは...... これは表彰ものだぞ」

やってきた警察官はおばあさんから事情を聞き付け、やめて鳥を表彰することにしました。

表彰式に呼ばれたやめて鳥は、なぜこんなことになったのか理解出来ません。

ただ、遠ざかって行くばかりの人々に、 今日は大勢囲まれて幸せな気分でした。

しかし、そんな時でも鳴き声は、

「やめてーやめてー」

でした。

しかし、 人々は察します。

「おお、鳴き声はああだが、 きっと喜んでいるに違いない」

人々は惜しみない拍手と歓声をやめて鳥に贈ります。

やめて鳥は何だか通じ合えた気がして、一層喜びました。

「やめてーやめてー」

表彰の時に贈られたメダルを、 やめて鳥はいつまでも大切に持ち歩いていたと言います。

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