にじいろハンバーガー

私はハンバーガーショップを探していた。
空腹に悶える腹を抱えながらも、私は夜の街を彷徨っていた。
他にも外食店の看板は見受けられたが、私はハンバーガーを探していた。
今日はハンバーガーの口なのだ。どうしてもハンバーガーを食べたかった。
どこかにハンバーガーショップは無いものか、私は一心不乱になって探していた。
すると、とある看板が目に入ってきた。
“にじいろハンバーガー”?
聞いたことの無い名前のハンバーガーショップだ。
ここは入って大丈夫なのだろうか?
しかし、他にはハンバーガーショップは無さそうだった。
私は腹を決めて、こちらのハンバーガーショップに入ることにした。
自動ドアの開く音がした。
「いらっしゃいませ!にじいろハンバーガーへようこそお越しくださいまして!」
店員の元気な声が私を出迎えた。
いかにも元気に溢れていそうな店員だ。
元気なのは良いことだ。私はカウンターへ向かった。
「いらっしゃいませ!にじいろハンバーガーへようこそお越しくださいまして!」
先ほどと一字一句違わない挨拶を店員が発した。
いや、それはもうさっき聞いた。
まあ、いい。手っ取り早く注文を済ませてしまおう。
「ご一緒にホタテはいかがですか?」
早い早い。まだこちらは注文をしていないではないか。
それに聞き間違いでなければ、ホタテだと?
そんなポテトを頼む感覚でホタテを頼むものなのか、この店は?
私はメニュー表を見た。
あったホタテが。
しかもメニュー表の1番目立つ位置に、それは堂々と掲げられていた。
私はハンバーガーを食べたいのだ。ホタテを食べに来たのでは無いが。
「ご一緒にホタテはいかがですか?」
一々繰り返して来るな、ここの店員は。
私は無視を決め込み、メニュー表を見た。
にじいろハンバーガー?店名と同じハンバーガーだ。
看板メニューという奴だろうか。
私はそれを頼むことにした。
「ご一緒にホタテはいかがですか?」
まただ。またホタテを勧めてくる。そんなにもホタテを頼んで欲しいのだろうか。
私は店員の熱意に負けて、一緒に注文することにした。
「はい!ホタテ入ります!」
店員が厨房に呼び掛ける。ここではそれほどまでにホタテを売りたいのだろうか。
「ここでお召し上がりでしょうか」
わざわざ持ち帰るのも面倒だ。私は頷いた。
「それではお会計は5800円になります!」
ちょっと待て、私はハンバーガーとホタテしか頼んでいない。
にもかかわらず、これはどういう事だ。
随分、金額が高いと感じるのは気のせいではあるまい。
私はメニュー表をよく見た。
するとなんと、ホタテが5000円もするではないか。
北海道産ホタテを使用?それにしたって高級料亭じゃあるまい。ファストフード店でそんなものを売りつけるのか。
ハンバーガーが800円はもはや置いておこう。今日日それだけ取る店も珍しくないのだから。
しかし、ホタテが5000円!?流石におかしいだろう。
ホタテはキャンセルだ。私はその旨を店員に伝えようとした。
「お待たせいたしました!にじいろハンバーガーとホタテのセットになります!」
早っ!もう出来上がってしまったのか?まだ注文は完了していないのではないのか?
「お客様?いかがなさいましたか?」
内心焦っている私を尻目に、店員は注文を完了させようとしている。
しかし、こう見ると美味そうなホタテだ。
生だ。しかも山盛りだ。余計な味付けは無用ということだろうか。
ええい、ままよ。私は腹をくくり6000円を会計に出した。
「はい!200円のお返しになります!」
してやられた。こうやってこちらの考える隙を与えずにホタテを食わせようとするのが、この店のやり口だったのだ。
しかし、一度出来上がってしまったのは仕方ない。私はホタテを食うのだ。
ホタテは想像以上に美味しかった。
まさに5000円払ってでも買う価値のあるホタテだった。
しかしそのせいで、ハンバーガーの味はそれに霞んでよくわからなかった。
これがあの日の不思議な体験だった。
全てがホタテに支配された夜。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?