見出し画像

第1回 航空機内医療 ~はじめに~

【はじめに】

みなさんは飛行機の中で急病の患者さんの発生に出くわしたことがありますか?ドラマのような「この中にお医者さんはいらっしゃいますか!」を聴いたことがありますか?

私は医学生(6年生)の時に経験しました。それはちょうど、エジプト(カイロ)からの、なんちゃって臨床留学の帰り@エディハド航空でした。前日に飲み食いしすぎておなかを壊していた私は頻回にトイレに駆け込んでいました(笑)
すると、トイレの前でなにやらザワザワしています。
「意識を失いかけている、誰か対応できる方はいませんか?」
ちょうど次のトイレの順番がまわってくるタイミングで、もれそうな気持ちを抑えて聞き取れた内容ですので多少の間違いはあったかも。
なんちゃって留学の後で勢いづいていた私は積極的に診にいくも、英語の通じない方で、というかそもそもレベルが低下していましたので、医学生、フリーズしました(-_-;) すると近くにいた医師らしきダンディなおじさんがササッと対応し、まぁおそらく迷走神経反射だったのでしょう、すぐに軽快して奥の方へ連れていかれてました(点滴でも落としたんだろうか?)
何はともあれ、安堵したわけですが、そのすぐに救助に向かう姿を見て素直にかっこいいと思いました。これぞ自分の思い描いていた医師の姿(あくまで理想形)、そう思いました。

帰国後、鼻息を荒げて病院実習の打ち上げ宴会でその話をしました。すると若手の看護師さんや研修医の先生は盛り上がってくれたのですが、一部のベテラン先生達からは何とも言えない視線を浴び、苦笑いされました。
「やべ…調子乗りすぎたか?」と思い、それとなく謝ると、ある問題が浮上しました。それは「善きサマリア人の法」問題でした。

【善きサマリア人の法とは?】

善きサマリア人の法(よきサマリアびとのほう、英:good Samaritan law)
「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法
で、(可能な限り正当な対応であれば)訴えられたり、処罰を受ける恐れをなくして、その場に居合わせた人による傷病者の救護を促進しよう、というもの。
そ、そんなのあたりまえじゃん!!と思うかもしれませんが、日本の医師はそういうワケにも行かない事情があるのです。(下記)

同様の法律はアメリカやカナダでは導入されているものの、日本には存在せず、実はJAL/ANAで医師登録制度が始まり、なんとなく守ってくれる風な記載はあるものの、法的根拠は何もない状況です。(JAL Doctors制度の闇については後日まとめます)

【日本では民放と医師法などでいろんな解釈がある】

〇民放第698条 緊急事務管理に関する規定
簡単にいうと、通りすがりの人が急病人を救助した場合のように、何ら義務がないのにお節介を焼いて他人のための行動(事務)をした場合を事務管理として規定し、管理者(お節介した人)と本人(助けられる人)の間の法律関係を定めたもので、機内医療の場合は患者さんの身体に対する危害を免れるために事務管理(お助け)をした場合、悪意または重過失がない限り、結果として救助が失敗しても不法行為責任が免除される、というものです。

〇医師法19条 応召義務(=医師は診察治療の求めがあった場合には正当な事由がなければこれを拒んではならない、というもの)

この2つの法的解釈は機内医療において極めて難しいのです。なぜならば、
☑機内で事前登録(意志を持って搭乗)した医師が、目の前の急病者or周囲から診療を求められたら断ることは許されないのか?という疑問
☑そもそも医師法19条は明治時代に制定されたもので、現代は駅前のビル診療(休日はclosed)などに代表されるようにcase by caseが許容されている時代背景もあるため、もはや時代に即していないという考え
→合理的に捉えれば、日本版サマリアとして民放698条で代替できる可能性はあるんでしょうか?
参考:
https://plaza.umin.ac.jp/GHDNet/04/samaritan/
http://kaaaz1980.com/post-406/
https://lmedia.jp/2015/07/07/65772/
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/361760/ (ログイン不要)

【なんとなく思うこと】

私はとにかく、善意で機内発症の患者さんを助けようとした医療者が報われないのは医師として悔しいし、けどそれにビビって寝たふりをしているのに我慢できないのです。もちろん、騒音環境で機材も限られているので出来ることはかなり限定的ですが、診に行かない理由にはならないと思うのです。

もし何らかのシステムが確立し、それが知れ渡れば、助けられる命は必ず増えます。今まで持病で海外旅行を諦めていたひとに勇気と安心を与えられるかもしれません。また、同乗する方たちに対してもより安心してもらうことができます。多くの客室乗務員の方々は、そういったことでモヤモヤした経験があるとおっしゃっていました。

医師とて全員がやる気マンマンではないし、旅行中くらい酒も飲みたいし、休みたいでしょう。しかしながら、だからこその事前登録制で良いのです。助けたい、そんな思いを強く抱いている医師の勇敢な行動を誰が止める必要があるでしょうか?

【次回以降(予定)】

・JAL/ANA制度の不安点、JAL Doctorsの闇
・機長、客室乗務員のリアルな声
・実際、必要なのか?件数をふまえた統計学的アプローチ
・航空機内で出来る医療とは?
・海外の航空会社での事例
・医師たちの思い

宜しくお願い致します!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?