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絵に描いたような「青春」がある人、そしてない人

人づてに聞いた話だと、最近周りでは、出会ったり別れたりといった事案が頻発しているらしい。「夏だからかな」と誰かが言っていた。そうか。「夏だから」なのか、と思った。

夏だから。
あまりの暑さに、いつもなら笑って流せる相手のちょっとしたことが、許せなくなってしまったのだろうか?

夏だから。
あまりの暑さに、普段は気にも留めない相手の一言が、なんだかステキに心に響いてしまったのだろうか?

それって、いったいどんな感じなんだろう。その感じを知っている人と、知らない人がいるのは、少し不思議な気がする。


「知っている側」「知らない側」の視点で話をすると、世の中の多くの人は通った道かもしれないけれど、わたしは通らなかった道というのが、たくさんある。特に”青春”って感じのものは、あらかたそうだ。そんな中で、ときどき思い出す風景がある。

短大に通っていたときのことだ。季節は秋だったと思う。
うちの大学では任意参加の体育祭があるのだが、いわゆるカースト上位にいるような華やかな人々は参加するが、わたしのようなジメッとした人間は参加しない。4年制大学・短期大学の学生問わず、お祭りを盛り上げたい生徒たちがみんな参加した。学部・学科対抗となるため、体育祭参加者は仲間たちと一緒にチームの看板を作ったりして、当日はその看板を掲げた場所に集まり、仲間たちを応援することになる。

わたしは短大1年生のとき、体育祭には参加しないものの、興味本位でグラウンドを覗きに行った。が、あまりのアウェイ感に、ものの数分で所属するバンドサークルの部室へと逃げ込んでしまった。

だから短大2年生のときは、最初から体育祭の様子を見に行かなかったし、もちろん競技にも参加しなかった。体育祭が開催されている間は、サークルの部室でバンド練習をしていた。体育祭当日は、わたしにとっていつもと変わらない日常だったのである。


そんな”日常”を終えた短大2年生のわたし。夕方頃にサークルの部室を出ると、体育祭は終わっており、生徒たちが片付けをしたり、一休みをしていた。ふーん、体育祭終わったんだ、と思いながらフェンス越しにグラウンドを見ながら歩いていると、前方に1組の男女が立っていることに気付く。

2人はジャージ姿で、黙ってグラウンドを眺めていた。清潔感があり、さわやかな大学生といった出で立ちの2人。彼らはオレンジ色の夕日に照らされており、言葉は交わさない。ただじっとグラウンドを見ているだけ。しかし、2人の口元には少しだけ”笑み”がたたえられていた。

あ、この人たち付き合っているんだろうな、と思った。2人は体育祭に参加したのかもしれない。ただ応援に来ただけかもしれない。自分たちのチームが勝ったのかもしれないし、負けてしまったのかもしれない。先輩・後輩の関係なのかもしれない。そして、彼らは大学生活の中で、また大学の外で、2人の時間を過ごしたに違いない。

うわぁ、なんだこれは。眩しすぎて、心がざわざわした。羨ましかったのかもしれない。生きている次元が違いすぎて、怖かったのかもしれない。そして、思った。

きっとこれは、わたしには永遠に生成されない「青春」なんだろうな、と。

わたしは大学で音楽を聴き、バンド活動に興じ、仲間たちと同じ時間を過ごした。大学内に彼氏はいなかったけれど、きっとこのバンド生活がわたしの青春だ。でも、なんというか、隣の芝生が青いだけなのかもしれないが、わたしには「ジャージを着て2人肩を並べてグラウンドを眺める青春」があまりにも強烈で、ほとんど胸が痛くなるほどだったのだ。
そうして、わたしはズシリと重さを増したベースを肩に下げながら、その2人の脇を通り、大学を後にした。


「夏だから」出会いと別れを繰り返す彼らは、いま青春の真っ只中なのだろう。そして、その”青春”を、やはりわたしは知らない。

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