電車で彼女が泣いてるときに、目の前に元カノが座った話

デートから帰るとき、彼女は泣いていた。
なんで泣いているのか理由は聞かなかったが察しはついていた。

彼女はその日、あらゆる事がうまく行ってなかったのだ。
完璧主義な彼女はそんな自分自身に悔しさが込み上げていたんだと思う。


「うまくいかなかったのが悔しくて」とも説明できず、そして誰のせいにもできない彼女が可哀想だった。
いっそのこと僕が些細なことをやらかして泣かせていたら、まだ彼女もラクだったと思う。

そんな彼女にあえて僕は「今日楽しかったな〜次はどこに行こうか?」と、普通に会話することに徹した。
僕らはその感じのまま電車に乗り込んで、座席に座る。

すると、彼女は「優しいね」と言ってより激しく泣き出した。
これまでは涙目程度だったが、今度は肩を揺らして顔を抑えて泣いている。
僕の「普通に接する優しさ」を汲み取ってしまったのだ。

隣で泣いている彼女を見て僕は思った。

電車では泣かないでほしい、と。

この状況、周りの人から見れば僕は「彼女を泣かせるダサい彼氏」に見えてしまう。
とはいえ彼女に一切構わず他人を装うのは彼女が可哀想だ。

そこで、僕は「早く泣き止んでくれ」と思いながらも無言で彼女の背なかをさすることにした。

そんな僕に奇跡のような不幸が起こる。


次の停車駅で元カノが乗ってきたのだ。


こちらには気づいていないようだったが、それが災いした。
通路を挟んで僕の真正面に座ったのだ。

最悪な三角形ができてしまった。


元カノとは喧嘩別れしたわけではないので、「またどこかで会って友達として話せる日がくるといいな」とは思っていたが、あまりにもタイミングが悪すぎる。

「元カノに彼女を泣かせているところを見られる」というのは男としては最上級にダサくて恥ずかしい。
「こっちに気づくな」と祈っていたが、その強い祈りを感知したかのように元カノはふとこちらを向いた。

目があった。

元カノは「あっ…」という顔をした。
僕はこの状況で元カノに声をかけることもできないので、俯いた。

そのまま背中をさすり続けたが、僕の視界にはこちらをチラチラ見る元カノが映っていた。
「こんなカッコ悪い姿を見ないでほしい」そう思った僕は、「てめえ何こっち見てんだよ」と言いたげな目で元カノを睨む事にした。

元カノはハッとして下を向く。
僕は左手で隣の彼女の背中を優しくさすりながら、鬼のような形相で元カノを睨んでいた。我ながら器用だなと思った。

睨み続けて5分がたった。
元カノはただならぬ殺気に下を向いて固まっているが、僕だってこんなことはしたくない。

しかし、ここで動きがあった。
泣いていた彼女が泣き止みそうなのだ。
一瞬、安堵したが、すぐに次の危機を察知する。

その危機とは「彼女が顔を上げること」だ。

これまでは下を向いて顔を抑えて泣いていたが、泣き止むと顔を上げてしまう。
顔を上げると目の前には僕の元カノがいる。(彼女は元カノを認識してる)
彼女はパニックになるだろう。

つまり、彼女が泣き止むと余計にややこしいことになるのだ。
僕は「早く泣き止むな」と思った。

そこでとあるアイデアが浮かんだ。


「彼女を泣かせればいいのでは?」

そう。泣かぬなら泣かせてやろうという発想だ。
僕は泣き止みそうな彼女に優しい言葉をかける。
「今日、(彼女のせいで一本、帰りの電車を逃して帰りの時間が)遅くなったけど結果的に一緒にいれる時間増えてよかった。本当に今日楽しかった!」
こんな感じで彼女の失敗だらけだった一日を改めて認めてあげたのだ。

これによりもう一度彼女の鼻水をすするペースを上げることに成功した。

…かのように思われたが、あろうことが彼女は僕に「ありがとう」と言うために顔をあげようとしたのだった。

僕は、思わず優しくさすっていた左手にぐっと力を入れ、彼女の背中を押さえつけた。

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