ニートが異世界転生したらニートだった件 #1

「その1、今からあなたはこの世界とは異なる世界へと移動します」



どこからか無機質な声が聞こえる。


普段なら空耳を疑うところだが、今、僕の腹部にはナイフが刺さっており、その姿を三人称視点で見ている。



状況から考えて、これは死ぬ前の人間に聞こえる神の声だろう。

異世界転生って本当にあるんだな。



「その2、世界は無限に存在し、あなたが眠りにつくたびに別の世界へと転移し続けます」



待ってくれ。そんなに速いペースで転移するのか?
それじゃあ、世界を救ったり、可愛い女の子と恋に落ちることもできないんじゃ……。



徐々にその目で見ている映像が不鮮明になってきた。



どうやら僕は異世界でも充実した人生を送ることはできないらしい。

これは神からの罰か何かか?



これまでの行いを振り返るが思い当たる節がない。

何も罪を犯していないのだ。



現世の罪を強いて挙げるとすれば……


僕がニートであることぐらいだ。


「ああ、働いておけばよかったな」

これが最期の言葉となった。





強い光を感じてまぶたを開いた。


空が見える。

ここは、どこだ?

むくりと起き上がり辺りを見渡す。



僕は今、公園にいるようだ。

すごい!本当に転生した!


僕は公衆トイレへと走り出した。

公衆トイレへと向かった理由は鏡で自分の姿を確認するためである。

一応、人間の体を持っていることは現時点で分かるが、自分の顔は鏡を見ないと分からない。

イケメンもいいけど、顔だけ狼になってたりするのも面白そうだ。もし鏡に写らなかったら僕は霊的な存在だということになるな。そうなったら女湯に行ってやろう。



そんなことを考えながら鏡を見た。



そこにはエロいことを考えてニヤニヤしている僕がいた。



それは紛れもなく僕である。

AVを見てるときに画面の反射で写るあの顔がまさにここにある。

てっきり別の姿で転生すると思い込んでいたので一瞬だけ「なんかキモい奴がいるな」と思ってしまったが、これは僕だ。

念の為、近くを通りがかった大学生っぽいの女の子に「僕の顔はどんな顔?」と聞いてみたが「キモい」と答えられたのでやっぱり僕だ。

他人からは僕の顔がイケメンに見えるということもないらしい。



しかし、まだ僕には希望がある。

異世界の僕はすごい奴なのかもしれないからだ。



そこで、その子に「僕は勇者か?」と聞いてみた。

「平日の昼間から何言ってんだ。働けよクソニート」と返された。

まだだ! まだ諦めない!異世界に転生したからには僕には何かしらの能力があるはずだ!



そこで今度は公園でタバコを吸っていた不良っぽい集団に声をかけてみた。

「おい!この看板に禁煙って書いてあるだろ!」

「は?なんだよ!」

不良たちが詰め寄ってくる。

このとき僕にはまったく「恐れ」という感情が無かった。とても不思議な感覚だ。

根拠のない自信が自分の中に湧き出ている。

それこそが、「強さ」の根拠かもしれない。

僕はニヤリと笑う。

「てめえ何笑ってるんだ!」

ついに不良の拳が振り上げられた。



決着がついたのはそれからたった5秒後だった。



僕は普通にボコボコにされた。



ニートが異世界に転生したらただのニートだった。

つづく


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ニートが異世界転生したらニートだった件

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