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ソラを見上げて #34 久保史緒里

―○○のマンション・朝―

〇:ん、んん。ふぁぁぁ。

ソ:おはよ、よく寝てたね。

〇:もう朝か。

ソ:今日は研修もお店も休みでしょ? ゆっくりしたら?

〇:そうだね。たまにはゆっくりしよっかな。

ソ:そ。たまには気分転換も大切よ。


〇:じゃあ、気分転換に外にでも出てみようか。ソラ。

ソ:そと?

〇:うん。

ソ:いいよ。お散歩しよっか。

〇:ソラと一緒に行きたい場所があるんだ。

ソ:ほほぅ、どこかね?

〇:昨日マスターにお墓参りに誘われてさ。

ソ:お墓参り?

〇:うん。

ソ:誰の?

〇:それは……実際に行って確認した方がいいと思う。

ソ:どゆこと?

〇:昨日、ソラの名前の話をしたこと覚えてる?

ソ:んーまぁ、何となく。

〇:もしかしたら、ソラの名前……記憶に関係してるかもしれない事なんだ。だから、僕の口から伝えるより、ソラの目で確かめた方が良いと思う。

ソ:それって、私のお墓かもしれないってこと?

〇:そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。それでも、ソラが失くした記憶を取り戻すきっかけになるんじゃないかと思ってさ。

ソ:私の、記憶。

〇:記憶が戻れば、ソラが地縛霊になった理由が分かるかもしれない。そうすれば、ソラは成仏できるかもしれないだろ?

ソ:うん。そう……だね。

〇:行ってみない?

ソ:……

〇:やめとく?

ソ:いいよ、行こ。見てみたい。

(笑顔を見せ、応えるソラ)


〇:わかった。じゃあマスターに連絡するね。

【ピッピピ、ピピ……📱】

〇:あ、おはようございます。昨日はどうも。ええ、はい。せっかくなのでご一緒させてもらえたらと思って。はい、じゃあお昼過ぎに……

(電話をしている○○の背中を不安そうな表情で見つめているソラ)

ソ:記憶が戻ったら、地縛霊になった理由がわかってしまったら、私は○○と……



(3時間後……)

―マンション・駐車場―

(駐車場に大型の車が停まっている)

マ:おっす。待たせたな!

〇:よろしくお願いします、マスター。

マ:おう。乗ってくれ。

〇:後部座席でもいいですか?

マ:おいおい、俺の運転が信用できないってか?

〇:違いますよ。せっかくだから仙台の街をゆっくり眺めてみたくて。

マ:そういや勉強ばっかりであんまり外に出ないって言ってたもんな。よし、じゃあ少し遠回りするから存分に仙台の街を楽しめ。

〇:すいません、ワガママ言って。

(そう言って後部座席に座った○○は、ソラを自分の隣に座るよう手招きする)


マ:よし、じゃあ行くぞ。

〇:安全運転でお願いしまーす。

マ:あ、やっぱり信用してねーなコイツ!

〇:あっはっは!



―仙台市街・車内―

〇:……

ソ:……

(車が動き出しても車窓の景色を見ようとしない○○)


ソ:○○。

〇:ん?

ソ:おそと、見なくていいの? 見たかったんでしょ?

〇:ん? うん……まぁ嘘なんだけどね。

ソ:うそ? なんでそんな嘘ついたの?

〇:助手席に乗ったらソラが一人になっちゃうから。

ソ:え?

〇:それに、バッテリーは一緒にいるものだろ?

ソ:それ、どっちの意味?

〇:さぁね?

ソ:いじわる。

〇:不安になったり、怖くなったら絶対に無理はしないこと。

ソ:ありがと。

〇:大丈夫。僕がついてる。

ソ:うん。

(二人の手は触れる事はなくとも、重なっていた)



(一時間後……)

―XX墓苑・出入口―

マ:お元気そうでなによりです、住職。


住職:うむ、岡林殿も相変わらずハツラツとしとるのう。

マ:はい! おかげ様で。

〇:オカバヤシ?

マ:あれ? 言ってなかったか? 俺の本名だ。岡林シンゴ。

〇:知りませんでした。

マ:そういや面接の日から『マスターって呼んでくれ』って言ってたからな。

住職:隣の方はお知り合いかな?

マ:はい。紹介します、○○です。

住職:うん?

〇:お邪魔します。

(住職にお辞儀をする○○)


住職:岡林殿が連れてこられたということは……

マ:はい。もしかしたら、彼女に深い繋がりがあるんじゃないかと思って連れてきました。

住職:見たところ随分と若く見えるが、おいくつか?

〇:18です。

住職:ふむ。ここは故人のご家族や生前に親交があった方のみが訪れることを許された場所じゃ。くれぐれもこの場所を他言してはならぬ。よいな?

〇:はい。

住職:では、良き語らいを。

(住職はニッコリと笑うと事務所の方へ歩いていく)


マ:意外だな。

〇:何がですか?

マ:もっと厳しいことを言われると思ってたんだけどな。

〇:どうしてですか?

マ:さっき住職が言ったように、家族や関わりのある人じゃないと入苑した時に住職に厳しく注意されるんだ。

〇:へぇ。

マ:○○は言わば第三者。住職が〇〇の事で色々突っ込んでくると思ってたんだけどな。こんなにあっさりと通されると拍子抜けっつーか……

〇:マスターと一緒だったからじゃないですか?

マ:うーん。それにしたって——

〇:気にし過ぎですよ、行きましょう。

マ:あ、あぁ。



―XX墓苑・久保の墓―

マ:ここだ。

〇:凄い。こんなにお供え物が……

マ:みんなに愛される子だったからな。

ソ:くぼ……しおり?

(墓石に書かれた名前を興味深そうに見ているソラ)


〇:本当に楽天が好きだったんですね。

マ:あぁ、筋金入りの楽天ファンだったよ。

(東北楽天ゴールデンイーグルスのグッズが墓を囲むようにお供えされている)


〇:楽天か……

ソ:……

〇:お供え物にしては……なんか、色々ありますね。

マ:そうか?

〇:小型ラジオ、野球バット、舞台の台本。これは……あ、

マ:どうした?

〇:背番号5だ。

マ:あぁ、それは楽天の……

〇:茂木栄五郎。

マ:お、そうだ。栄五郎は久保ちゃんの推しだったからな。

ソ:え……

マ:栄五郎のこと、よく知ってたな。

〇:たまたまスポーツニュースで見たことがあって。

マ:そうか。

(平静を装いつつ、○○の脳裏には涙を流す梅澤美波の姿が浮かんでいた)


マ:ほら、○○の分だ。

〇:ありがとうございます。

(線香をお墓にあげ、手を合わせるマスターと○○)


マ:いつも俺と節子を見守ってくださり、ありがとうございます。

〇:……

マ:よし、じゃあ帰るか。

〇:はい。

マ:ん? あれ? あの人は……

(来た道を戻ろうとした二人の視線の先に人影が見える)


生:あら、誰かと思えば。

マ:生田さん!

ソ:いくたさん?

生:マスターも来てらしたんですね。

マ:はい。ご無沙汰してます。

生:このあいだ事務所に送っていただいた【だて正夢】美味しかったわぁ~。またお願いしますね。

マ:そう言っていただけて良かったです! 生田さんのお願いならいつでも。

〇:だて正夢……米? あぁ、どこかで見たことあると思ったら

マ:そう! この方は大女優の  

〇:食レポの方ですよね?

マ:なに!?

生:食レポ? ちょっと! 人違いじゃないの?

〇:人違いじゃないと思います。しゃもじをマイクにして歌う人なんてそうそう見たことないので。

生:あーあー、OKOK。それ以上何も言わないで、恥ずかしいから。

マ:生田さんを知らないのか?

〇:え? はい。あんまりテレビ見ないんで。最近は見たとしても楽天の試合ばっかりですし……

生:こんな事なら、楽天ガールズに立候補しておけば良かったかしら?

(不貞腐れた表情で墓石を眺める生田)


マ:すいません生田さん。ウチのバイトが失礼なこと言っちゃって。

生:バイト? マスターのお店の子なの?

マ:えぇ。名前は○○って言います。元気があって良い奴なんですけど、いかんせん洋服にしか興味がないもんで。

生:ふーん。で、そのバイト君がどうしてここにいるのかしら? どう見ても乃木坂の関係者には見えないけど?

マ:まぁ色々と事情がありまして、俺が誘ったんです。

生:そ。

マ:心配しないでください。この場所を誰かに喋ったり、ネットにあげたりするような奴じゃないんで。

〇:んな事してどーすんですか。

生:たしかに……単なるアイドル好きには見えないわね。かといって興味本位で来たって感じでも無いし。マスターがここに連れて来るって事は……ん?

(眉間にシワを寄せ、目をこする生田)


マ:どうしました?

生:ん? あ、いや……なんでもないわ。えーっと……ここには二人だけで来たの?

マ:はい。俺とコイツだけで。

生:そう。ねぇキミ。

〇:はい。

生:幽霊、見たコトある?

〇:えっと……僕、霊感無いので。

マ:生田さん。ここでその質問は怖過ぎます。

生:ごめんごめん。食レポの方って言われたから意地悪したくなっちゃったの。気にしないで?

〇:は、はぁ。

マ:じゃあ俺達、これで失礼します。

生:機会があったら、またお店使わせて頂くわね。

(マスターに手を振る生田)


マ:あざす! お待ちしてます! ほら、○○もお礼言って!

〇:どうも……お待ちしてます。

生:じゃあね。また会いましょ、○○くん。

(墓の前から立ち去る○○とマスター)



―XX墓苑・久保の墓―

(○○とマスターが立ち去った後、その場に残り墓石を見つめるソラ)


ソ:くぼ、しおり。

生:……

ソ:ん?

生:……

ソ:私のこと見てる? まさかね、そんなわけないか。

(生田に背を向け、○○の方へ歩き出すソラ)


生:ねぇ。

ソ:さーて、帰ったら熱闘甲子園見よっと。

生:ねぇってば。

ソ:誰と話してるんだろ。電話にしては声が大きいけど……

生:悪かったわね、声が大きくて。

ソ:え? うわぁ! 近っ!

(振り向くと目の前に生田がいて驚くソラ)


生:ちょっと? 呼んでるんだから返事くらいしなさいよね。

ソ:ぃぃぃいや、なんで? 私の声聞こえるんですか?

生:なによ、聞こえちゃいけないの?

ソ:だって聞こえる方がおかしいでしょ?

生:だって聞こえるんだもん。顔も見えるし。あ、足もちゃんとあるのね。

(興味深そうにソラの全身を眺める生田)


ソ:こ、怖くないんですか?

生:まぁ不思議な体験ではあるけれど、怖くはないわね。

ソ:幽霊を目の前にしてそんな平気な顔されると反応に困るというか……

生:あ、やっぱり幽霊なんだ。

ソ:じゃあ何だと思ったんですか!?

生:なんだろう? 初めて見たけど、初対面って感じはしないし……

ソ:なんですかその感想は。

生:まぁ、そんな事はどうでもいいじゃない

ソ:それで……何か御用ですか?

生:別に無いわよ。無いと声をかけちゃいけないの?

ソ:いや、そういう訳じゃ無いですけど……

生:なによ、幽霊のクセに人見知りなの?

ソ:だって初対面ですよ!? ズカズカこっちの世界に踏み込まれても困ります!

生:ふふ。人見知りは死んでも治らないっていうのは案外本当なのかもね。

ソ:さっきからなんなんですか、楽しそうに幽霊からかって。一体どういう神経してるんですか?

(生田の態度に不機嫌なソラ)


生:あらあら、ごめんなさい。可愛い幽霊さんだからつい意地悪したくなっちゃたの。で、いつから?

ソ:へ?

生:いつから幽霊やってるの?

ソ:かれこれ三年ほど

生:野球は好き?

ソ:三度の飯より。

生:納豆餅は?

ソ:断然小粒派

生:ふふ……歌は?

ソ:楽天の応援歌以外歌ったこと無いんで……ってなんですかこの質問コ-ナーは!?

生:なら、歌ってごらんなさい。

ソ:歌えって言われて、いきなり歌えるか!

生:今じゃなくていい。でもいつか歌ってみて。あなたは綺麗な歌声してると思うから。

ソ:急にそんなこと言われても  

生:生田絵梨花のお墨付きよ?

(諭す様な眼差しでソラに語り掛ける生田)


ソ:は、はぁ。

生:ついでに、もう一つ聞いてもいい?

ソ:な、なんでしょう?

生:私とアナタって初対面?

ソ:うーん。しょたい……めん、じゃないんですか?

生:ま、それもそうか。

ソ:あ!

生:お! 何か思い出した?

ソ:土鍋のご飯をしゃもじで食べてた人!

生:……

(頭を抱えてうなだれる生田)


ソ:違い……ました?

生:……あたり。

ソ:やっぱり! 美味しそうに食べてた姿がとっても印象的で――

(芸能人に出会った喜びで目を輝かせるソラ)


生:OKOK、もう結構よ。急に呼び止めて悪かったわね。彼の所に戻っていいわ。

ソ:で、では失礼します。

(生田へお辞儀をしてその場を去るソラ)


生:憶えてないのはちょっぴり寂しいけど、元気そうで良かった。

(ソラの背中を見つめる生田)

生:それより、私ってそんなに食レポのイメージ強いのかな? しばらく舞台に専念しようかしら?



―XX墓苑・出入口―

(訪問者帳簿に記帳するマスターと○○)

マ:では、失礼します。

住職:うむ。気を付けてな。

〇:お邪魔しました。

(お辞儀をして墓苑を出ていくマスターと○○)



―XX墓苑敷地外・歩道―

マ:急に連れ出して悪かったな

〇:いえ、来て良かったです。

マ:そうか。それから、さっき会った方は生田絵梨花さんっていうんだ。乃木坂46に所属していたアイドルでな。グループを卒業してからはテレビ、映画、舞台、ミュージカル、歌……なんでも出来るスーパースターだ。

〇:本当に凄い人だったんですね。

マ:たまにロケだったり、対談番組の収録に店を使ってくれるんだ。今度会ったらちゃんと挨拶するんだぞ?

〇:はい。生田さんの事、家に帰ったらネットで検索してみます。

マ:あぁ、経歴見たらびっくりするぞ。

?:あの、すみません

〇:ん?

(○○とマスターに声をかける特徴的な訛りの女性)


?:XX墓苑に行くのって、この道を真っ直ぐで合ってますか?

〇:えぇ、さっきまでそこにいたので。ここを真っすぐ行って、突き当りを左に曲がればありますよ。

?:ありがとうございます。

(お辞儀をして○○達が来た道を登っていく女性)


マ:すげぇ綺麗な子だったな。

〇:おかみさんに言いつけますよ?

マ:だっはっは! 勘弁勘弁。

〇:……大阪弁かな? どこから来たんだろう?



(5分後……)

―XX墓苑・敷地内―

(敷地の中央付近で住職と女性が話をしている)

?:ここだって聞いたんですけど……

住職:そのような名前は聞いた事ありませんな。

?:え? だって……

住職:お嬢さん、場所を間違われたのではないか? 墓苑など沢山あるからのぅ。

?:ほ、ほんとに知りませんか? 知り合いにここだって聞いたんです。

住職:知りませぬ。そもそも近親者や親交が深い方でなければ知り得ぬ事を人伝いに知ること自体、どうかと思いますがな。

?:……すみません。

(住職の言葉に肩を落とす女性。そこに墓参りを終えた生田が通りかかる)


生:住職。私はこれで失礼しますね。

住職:お気をつけて

生:……あら?

(住職の側にいる女性を見て立ち止まる生田)


生:……

?:……

住職:ゴホン……今、少し込み入った状況でして  

生:史緒里に会いに来たんでしょ?

?:え? あ……

(突然の言葉に驚き、顔を上げる女性)


住職:生田殿!

生:いいじゃないの

住職:よくありません!

生:この子は大丈夫。

住職:何を根拠にその様な事を……

生:この子は私達の妹みたいなもんなの

住職:な……ならば、このお嬢さんも乃木坂とやらか?

生:いいえ、日向坂です

住職:ひなたぁ?

生:この子の名前は小坂菜緒。生前、史緒里と凄く仲が良かったんですよ?


菜:でも、もう一般人ですから

住職:ややこしいのぅ

生:いいですよね? 住職。

住職:ぬぅ……

菜:私、お葬式の時にちゃんとお別れできなくて。だから……  

住職:おん? お嬢さん、葬儀に来ておったのか。

生:ほら、お焼香の時に……ね?

住職:おぉ、思い出した。焼香の時に暴れたお嬢さんじゃったか。

生:暴れただなんて、そんな言い方しなくても……

菜:……///

住職:じゃったら最初からそう言えば  

生:言える訳ないでしょ。

住職:そういう事ならば、通さぬわけにはいきませんな。

生:行きましょ。私が案内してあげる。

菜:あ、ありがとうございます!



―XX墓苑・久保の墓―

(墓参を終えた小坂は、じっと墓石を見つめている)

菜:……

生:ここに来るの、今日が初めてだったのね。

菜:はい

生:ちゃんとご挨拶できた?

菜:分かりません。ここに史緒里ちゃんが眠っているって感覚がなくて。

生:そっか。

菜:いつかここに来なきゃ、そう思ってました。でも……いつまで経っても史緒里ちゃんが亡くなった事が信じられなくて、ここに来ても何をしていいのか分からなくて。


生:じゃあ、どうしてここに?

菜:夢に、出てきてくれたんです。

生:あら、良かったじゃない。お話できた?

菜:……

(首を振る小坂)


菜:夢で史緒里ちゃんが『また会おうね』って……

生:そっか。

菜:だから、ここに来なきゃって思って。

生:そうだったのね。実際に来てみてどう? 何か感じられた?

菜:いえ、目の前にお墓があるだけで……それ以外は何も。

生:What I am looking for is not out there. It is in me.

菜:え?

生:探し物は目に映るものだけじゃない。自分の心の中にあるものよ。


菜:心の、なか。

生:そ。心の中で想えばいつだって会える。

菜:……

生:お墓参りだけが故人を偲ぶ事ではないわ。

菜:そうですね……ありがとうございます。

生:ん。それじゃ、帰りましょっか?

菜:はい。

生:こんなこと言っておいてなんだけど、案外近くでのぞき見してたりしてね?

菜:史織里ちゃんがですか? あっはは、そうかも。お墓の陰から覗いてるかもしれませんね。

生:そうなのよ。あの子って人見知りでしょ? お盆になっても向こうから会いに来れないとかありえそうだもの。

菜:あはは、ほんまにそんな気がしてきました。



(その日の夜……)

―○○のマンション・リビング―

〇:あんなに広いと思わなかったね。

ソ:うん。立派な墓苑だったね。

〇:どうだった? 何か思い出したり、発見はあった?

ソ:ん……うん。

(少し複雑な表情のソラ)


〇:ん?

ソ:発見っていうか……

〇:ていうか?

ソ:発見されたと言うか……

〇:え?

ソ:見えてたみたい……わたしのこと。

〇:え、僕がソラを見えてるみたいに?

ソ:うん。

〇:まぁ……墓苑の住職だし。常日頃そういった仕事だから見えるのかな……

ソ:違うの、ご住職じゃないの。

〇:え?

ソ:お墓参りの時に会った……女の人。

〇:それって、生田絵梨花さん?

ソ:……

(うなずくソラ)


〇:まじか。

ソ:最初は偶然目線が合っただけだと思ってたんだけど。

〇:ソラを見てたってことか。

ソ:うん。○○の所に戻ろうとしたら声をかけられて、納豆餅はどうのとか、いきなり歌ってみろとか言われて。

〇:納豆餅? なんでそんな事を?

ソ:さぁ? 納豆餅が好きなんじゃない?

〇:ていうか、生田さんはソラを見て驚いたりしなかったの?

ソ:うん。普通に人と話すみたいに声かけてきた。

〇:うーん……

ソ:どうしてあの人には見えてたんだろ?

〇:ソラ。僕がテレビを買ってきた日のこと覚えてる?

ソ:ん? うん。

〇:テレビを見ていたソラが涙を流したことがあったよね?

ソ:あったね。

〇:あの時、テレビに映ってたのは生田絵梨花さんだった。

ソ:うん。


〇:ソラは生田さんと初対面だよね?

ソ:多分。

〇:多分?

ソ:あの人にも同じこと聞かれた。『私とアナタって初対面?』って

〇:それで?

ソ:初対面じゃないんですか?って

〇:生田さんはなんて?

ソ:『それもそうか』って言ってた。

〇:……

(口元に手を当て、考え込む○○)


ソ:○○?

〇:生田さんと生前のソラの間に何かあるんだ……きっと。

ソ:生前の私?

〇:ソラ、お墓に書かれてた名前は見た?

ソ:うん。久保史緒里さん……でしょ?

〇:そう。名前に心当たりは?

ソ:……

(首を横に振るソラ)


〇:そっか。

ソ:ごめんね。せっかく連れてきてくれたのに。

〇:いや、謝るのは僕の方なんだ。

ソ:……どういうこと?

〇:実はソラに隠してた事があるんだ。

ソ:え?

(○○は一枚の写真をソラに見せる)


ソ:これは……やだ、ちょっと○○。こんな写真いつ撮ったの?

〇:ソラ、写真の日付を見てごらん。

ソ:ひづけ……えっと、2021年5月……30にち

〇:うん。

ソ:2021年って今から……

〇:4年前だよ。

ソ:てことは……あれ? 私がここに来たのって三年前よね? ていうか私と○○はまだ4か月しか経ってないのに……

(これまでの出来事を思い出し、混乱するソラ)


〇:この写真に写ってるのはソラじゃないんだ。

ソ:え?

〇:楽天イーグルスのユニフォームを着てるこの女性は、久保史緒里さんなんだ。

ソ:うそ……

〇:これが、僕がソラをお墓参りに誘った理由なんだ。

ソ:じゃあ私とそっくりだって言ってた梅澤美波さんの親友は……

〇:うん。久保史緒里さんの事なんだ。

ソ:そんな……

〇:黙っててごめん。

ソ:わたし……私は久保史緒里なの?

〇:わからない。

ソ:……

〇:だから調べようと思う。生田絵梨花さんのこと。そして久保史緒里さんのことも。

ソ:○○は……知りたいの?

〇:ソラが成仏するためには地縛霊になった理由を探さないと——

ソ:記憶が戻ったら……もし私が久保史緒里だとしたら、今までの記憶はどうなっちゃうの? ○○の事を忘れちゃうかも知れないって事?

〇:まだそうと決まった訳じゃないだろ?

ソ:○○……わたし、怖い。

(不安と恐怖で泣き出すソラ)


〇:大丈夫。一緒にいるって言ったろ?

ソ:ん……うん。

〇:記憶を取り戻す方法が分かっても、ソラがそれを望まなければしなければいい。

ソ:ぐすっ……いいの?

〇:いいよ。

ソ:ありがと。

〇:ソラがしたいようにすればいい。それが一番だよ。

(ソラの頭を撫でる振りをする○○)


ソ:○○。

〇:ん?

ソ:もし、私が『成仏したくない』って言ったら……

〇:え……

ソ:ごめん。今のナシ。

〇:……

ソ:やさしいね、○○。

―つづく―



【おまけ】



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