ソラを見上げて #01 雨上がりの虹
僕には夢がある。
ファッションデザイナーになる事。
そして、僕が作った服を世界中の人に着てもらう事。
地元に服飾関係の学校が無かったから仙台に行くことを決めた。
一人暮らしの経験は無いけど、家事全般はこなせる。
まぁ何とかなるだろう。そう思っていた……
ー2025年春・仙台ー
◯:改札を出て、ヨドバシとは逆側の出口……こっちか
(外からサラリーマンが傘を畳みながら駅構内に入ってくる)
◯:着いて早々雨か……幸先悪いな。
『うわ……天気予報見とけば良かった』
傘に手をかけると隣から独り言が聞こえてくる。視線を向けると、そこには長身の女性が立っていた。
『ま、衣装じゃないからいいか』
衣装? モデルとかしてるのかな? 確かにどんな服も着こなしそうだけど…
◯:あの……
『え? ……あ、すいません。聞こえてましたか?』
◯:はい。もし良かったら、コレ使って下さい
『え? いや、私そんなつもりじゃ…』
◯:いいんです。僕の家、駅前らしいんで。走ればなんとかなります。
『らしいって、自分のお家なのに……』
◯:それじゃ
『あ、ちょっと! ……行っちゃった。じゃあ遠慮なく使わせてもらおっかな】
ー仙台駅前・コンビニー
◯:はぁ……はぁ。
何が『なんとかなります』だよ。ずぶ濡れもいいとこだ
◯:へっくしょん!
そんな目で見ないで下さい。夢への第一歩を少し踏み外しただけなんです
(缶コーヒーと傘を手に取り、会計を済ませる○○)
【ありがとうございました〜】
◯:……嘘だろ?
何で晴れてんの?さっきまでの土砂降りは? 人を縦横無尽に濡らしといてトンズラかよ。
◯:はぁ……
居合わせた女性にカッコつけて、ずぶ濡れになって……逃げ込んだコンビニで傘を買ったら、晴れてて虹がとっても綺麗でした。良かったね、俺。
◯:もういいや、鍵借りに行こ。
―仙台駅前・某マンション―
〇:417、417……ここか。
実家と違うドア……今日からここにが僕の家
【ガチャ……🚪】
〇:おぉ
靴が無い玄関、調理器具が無い台所。非日常な風景に思わず声が出る。奥には一切家具が置かれていないリビングが見える。
〇:何もないと広く感じるなぁ……
そして、透き通るような白い肌の女性。
〇:……え?
何で人? 部屋間違えた? いや、入る前に確認したし、鍵だって……
?:……
ヤバい、目が合った!
〇:すっすいません! 部屋を間違えました! 失礼します!
(一目散に逃げだす○○)
〇:おいおいおいおい、どうなってんだよ……
【ピッピッピピ……📱】
『はい、宮城ハウス駅前店です』
〇:もしもし? 今日からXXマンション417号に入居する○○ですけど!
『あぁ、さっき鍵を借りに来られた○○様ですね。どうされましたか?』
〇:僕が借りる部屋って417号で合ってますよね?
『えぇ。そうですよ』
〇:417、417号ですよね? 間違って契約してませんよね?
『そんな訳ありませんよ。一体どうされたんですか?』
〇:だって、鍵開けて部屋に入ったらリビングに白い服の女性がいて……
『……カーテンが揺れてそう見えただけじゃないですか?』
〇:いやでも実際に……
『変な事で電話してこないで下さいよ。切りますよ?』
〇:あ、ちょっと!
【ツー、ツー、ツー……📱】
〇:なんだよ……コッチは必死だってのに。
―不動産会社―
社員①:変な事で電話してこないで下さいよ。切りますよ?
【ピッ……📱】
社員①:はぁ。
社員②:今の電話、もしかしてヨンイチナナか?
社員①:あぁ、まさか初日にかかってくるとはな。
社員②:ここ三年で12人目の契約。本格的にお祓いでもするか?
社員①:見えない相手に金使ってどうする? 第一消えたかどうか誰がわかるんだよ?
社員②:さ、今回は何か月もつかな……
―仙台駅前・某マンション―
(再びドアの前に立つ○○)
〇:はぁ……よし
幻覚、あれは幻覚。カーテンが揺れただけ……
【ガチャ……🚪】
(ドアを開け、リビングへ向かう○○)
?:いい天気ね~。こんな日は野球見に行きたいわ~
〇:……
やっぱり人だ。カーテンはあんなに気持ちよさそうに背伸びしない。
?:あ、さっきの男の子。
話しかけてきた!
?:私のこと見えてるんでしょ? 怖がらないの?
〇:……怖いですよ。マンションの入居初日から不法侵入されて…色々聞きたいのはむしろ僕の方なのに『怖くないの?』って聞かれるし。命の危険すら感じてます。
?:不法侵入だなんて失礼ね。私はここに来てもう三年目よ?
〇:は?
?:だ・か・ら、私の方がセンパイ。これからよろしくね?
〇:ちょっと待ってください。この部屋は僕が契約したんですよ? 三年目って意味わからないですよ。しかも、これからよろしく? どういう事かさっぱりです
?:うふふ、そんなに怖い顔しないの。どう? 綺麗なお姉さんと、めくるめく日々……
〇:目がくらむ程の危険な香りはしますけど?
?:んもぅ、連れないわね
何なんだこの人は。不法侵入の上に同居を勧めてくるとか正気なのか?
〇:とにかく、ここは僕の部屋です。出て行って下さい
?:まぁまぁ、そう言わずに。ほら見て! 空に虹が掛かって私達を祝福してくれて……
〇:誤魔化さないでください。ていうか、あの虹は僕の敵です
さっきもそうだ。虹が出ると良くない事が起きる。僕にとっては不吉の象徴だ。
?:けちんぼー
〇:そんなに住みたいなら、両隣の部屋が空いてますからそちらへ
?:それがそうもいかないのよ
〇:お金はありませんからね?
?:お金って言うか……
〇:じゃあ何です?
?:魂が無いのよね。
〇:……は?
?:私、幽霊なの
〇:……ん?
?:……ん?
〇:んん?
?:だから……わたし幽霊なの。しかも地縛霊♪
〇:……足、あるじゃないですか
?:発想が昭和ねぇ。君、いくつ?
〇:18ですけど?
?:4つ下か。随分若いわね
〇:噓でしょ? その見た目で22歳? 高校生の間違いでしょ?
?:はぁ? 人を見た目で判断しないでほしいんですけど? 失礼しちゃうわ!
〇:幽霊だったら見た目とかの前に、見えてる方が問題でしょ!?
これが、僕と彼女の出会い……じゃなくて、憑りつかれた日だった。
ーつづくー
【おまけ】
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