キーワード解説:遺伝子のスイッチとiPS細胞

細胞は、個体全ての遺伝情報をDNAに蓄えています。このため、植物などは切り取った一部から完全な植物が再生されることがあります。しかし、動物の場合、例えば指先の細胞が分化して内臓になることはありません。これはなぜでしょうか?

実は、細胞は分化するにつれて、不必要な遺伝情報を削除するのではなく塩基配列情報自体には変化なく遺伝子発現のオン/オフが切り替えることができるのです。それを行うはDNAメチル化やヒストンの修飾などです。

これはつまり、脱メチル化することで動物細胞でも万能性を取り戻すことが考えられます。これを証明して作られたのが、iPS細胞に他なりません。iPS細胞の誘導過程では、DNAのメチル化状態やヒストンの修飾状態が、分化された体細胞の様式から未分化のES細胞の様式に変化することが報告されています。実際、iPS細胞誘導時に脱メチル化されることが分かっています。また、これらの領域のDNAのメチル化レベルは、不完全に初期化されたiPS細胞では完全に初期化されたiPS細胞に比べて高いことが知られています。しかし、そのメカニズムはまだ完全にはわかっておらず、現在最先端の研究対象となっています。

遺伝子やその実態である DNA が身体的・行動的形質を決定するとする遺伝子決定論は、エピジェネティクスによって覆されました。がん、生活習慣病、精神疾患などは、エピジェネティクスも関わっていると考えられるようになってきています。

iPS細胞という最先端の研究が、メチル化と脱メチル化という高校レベルの化学で理解できることは、とても興味深いことです。有機化学が楽しくなりますね。


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