コラム:教員向け小論文指導方法

小論文とは、様々な事象を論理的に考察する学術的な文章のことですが、統一的な定義があるわけではありません。

英語では Essay または単に Writing がこれにあたると考えられ、イギリスやアメリカでは日本以上に授業や試験で使われている印象を受けます。日本では、雑誌等でも小論文と呼べるものがおおく掲載されていますが、主に入学試験や入社試験で使われているものが小論文と言われることが多いようです。大学の講義で提出するものはレポートと呼ばれることが多いのではないでしょうか。
小論文とレポートについての研究は、日本ではまったくといっていいほどなく、ほとんどは以下のように小論文テストの評価方法についてです。これなの論文では、小論文の定義もなく、またそもそもほとんどが入試で使われるような「課題文型小論文」を対象としていません。

・渡部洋、平由実子、井上俊哉 (1989)「小論文評価データの解析」東京大学教育学部紀要
・宇佐美慧 (2011) 小論文評価データの統計解析 行動計量学
・渡部洋、曹亦薇 (1993) 小論文評価における字の美しさの影響について、東京大学教育学部紀要. 32巻, 1993.3, p.253--256
・石岡恒憲、亀田雅之 (2002) コンピュータによる日本語小論文の自動採点システム、電子情報通信学会, 信学技報
・椿本弥生、柳沢昌義、赤堀侃司 (2008) 人文・社会科学分野を中心とした大学教員によるレポート実施と採点の現状に関する調査、メディア教育研究
・小高知宏、村田哲也、高建斌、諏訪いずみ (2003) n-gram を用いた学生レポート評価手法の提案、電子情報通信学会

医学に限定すると、日本医学教育学会で入学者選抜という項目がありますが、小論文が議論されることは稀なようです。

・大野 良三、天野 隆弘、平出 敦 (2009) 第23回入学者選抜に関する討議会報告:―日本医学教育学会入学者選抜小委員会, 医学教育 40(3), 205--207.

そこで、ここでは小論文を「ある主張を論理的に説明する文章」とし、
小論文の評価は、主張とそれを支持する論理性にあるとします。

医歯薬看護系の小論文とは

小論文の定義に従うと、「原子力発電を推進すべき」という主張であっても、「原子力発電は廃止すべき」という主張であっても、論理的に説得力があれば等しく評価されます。しかしながら、医歯薬看護系の小論文と限定されると事情が少し異なります。

例えば、クローン人間はいまだに小論文の参考書に取り上げられますが、

・ヒトクローンは、法律で禁止されている。諸外国でも同様である
・ヒトクローンについて、大学受験生は知識を持っていない

といった観点から、医歯薬看護では議論する必要がほとんどない主題になっています。

小論文においては、たとえ法律上禁止されていることでも議論する価値がある場合ももちろんあるでしょう。ただし、それは法学的な問題であり、医療従事者の職務は法律を変えることではなく、法令等の枠内で最大限の医療行為を行うことです。このため、こういった問題はあまり出題されませんし、論じる必要もありません。

小論文の添削・指導

小論文「試験」対策や自己推薦書などのための添削・指導を行う場合は、いくつかの注意点があります。

傾向:まずは、受験する大学のことを詳しく知ること。例えば、昭和大学は医療系の学部がそろっていることが特徴の一つであり、チーム医療を進めています。これを徹底するために、1年時には富士吉田のキャンパスで医療系学部の学生が寮で共同生活を送ることになっています。ただし、このようなことは他の受験生もみな知っているので、自己アピールや小論文で書いても差が出ません。これは基礎知識であって、小論文で書くことではありません。

次に、入試問題の傾向をつかむことです。図表問題を出題する大学を受験するのであれば、図表問題対策は必須となりますが、逆に出題しない形式の対策にあまり時間をかける必要もありません。

字数と時間:時間と字数は重要です。400字論述を課す大学を受けるのに、800字論述の練習ばかりしてはいけないし、逆もまた無駄になります。受験する大学が決まっている場合は、制限字数を制限時間内にかけることをまず練習するべきです。

評価と添削:医歯薬看護学部では、小論文を参考程度に使用することが多く、採点を行わなかったり、4〜5段階評価程度の場合も多くあります。
そのため、学習時には評価は以下のように行います。

D (40点以下):課題文のコピペ。あきらかに間違っている内容。
C (41点〜59点):課題文のコピペでない主張があるが、特筆する主張もない。
B (60点〜75点):特筆する知識や主張があるか、あるいは論理的である。
A (76点以上):特筆する知識や主張があり、かつ十分な説得力がある。

添削とはそもそも何でしょうか?「添削」というと、とにかく赤ペンでたくさんアドバイスを書き込むことのように思いがちですが、低評価の小論文の場合はその必要はあまりありません。赤ペンで直すのは、明らかな間違い、とくに致命的な間違いに留める方がよいでしょう。わずか60分程度の試験時間で、誤字脱字、「てにをは」や句読点の間違いがなく書くのは、そもそも不可能というものです。

添削は、その添削によって答案が合格点になるようにするべきものだと考えられます。こう定義すると、医系の小論文で、添削はほとんど効果はありません。添削したことによって、35点の答案が40点になることはあっても、それを続けても60点に達することはないからです。ですので、添削の基本的は、いまの評価を伝えて、評価が低い場合は書き直しを促すことになります。実際、問題集で添削を行っているものを読むと、多くは生徒の答案の原形がほとんどなくなったものが添削例・解答例になっています。


最近は、型書き小論文が流行しているようです。これは、「たしかに (反対意見) しかし (自分の主張)」というように展開していく型を推奨するものです。しかし、実際に採点した経験上、この型であっても低い評価の小論文もあるので、あまり意味はないでしょう。

基本的に、文章の書き方ですぐに減点にはなりません。以下は、減点となりやすいため避けるべき数少ない表現です。

「私は ... と思う」:客観的に正しいことなら断定表現します。断定はできないが、一般論なら「 ... と思われる」となります。感想文なら不要です。いずれにせよ、「 ... と思う」という文章にはならないはずです。

入試に向けた表現でない表現:ごくまれですが、入試であることを理解していない表現が見られます。この場合は、書き方を大幅に修正しましょう。

自分の問題としていない表現:よくある表現として、「国は、〜〜について対策すべきだ」と主張する答案があるが、入試で聞いているのは、「受験生が何に関心があるのか」である。他人に丸投げする態度は、小論文として正しくとも、入試ではとして適切ではない。

課題文形式


課題文形式の論述は、1ページから2ページ程度の課題文があり、要約問題と論述問題があります。課題文形式対策の指導を行う場合には、以下の順序が適当でしょう。

・生徒が解答を作成する。
・採点する。評価は点数でも、A, B, C, D などでも構わないが、なぜその評価なのかを説明する。
・問題に関するキーワード (例: 緩和ケア、地域包括ケア、家族志向ケアなど) を明確にした上で、キーワードの解説を行う。
・評価が B, C, D であれば、生徒に書直しを指示する。その際、Bであれば部分訂正、C, D であれば最初から書直すよう指示する。
・評価が C, D であり、内容に不正確さがあれば、関連する書籍やホームページを紹介する。
・書直し答案を採点する。このとき、A/Bに達しないようであれば、理解が不十分なので、同じテーマの問題を繰り返す。

図表形式


図表形式のキーポイントはそれほど多くはありません。図表読取りは、図表に書かれていないことを書いてはいけません。この際にポイントとなるのは、数値をしっかり書くことです。「出生率が下がった」と書くよりも「出生率が4から1.4に下がった」などと記述することがポイントです。「自分の考え」では、背景や対策など図表中に書かれていないことを書きます。

医療系学部の教授は、医学論文に慣れています。「図表の読み取り」は、論文の結果に相当します。「自分の考え」は、論文の考察に相当します。

テーマ形式


テーマ形式の問題とは、課題文がないかまたは短いため、参考になる内容がない状況で与えられたテーマについて論述する小論文でのことです。一般に小論文はテーマ形式の方が多いですが、大学受験では逆に非常に少ない形式です。
テーマ形式の問題は、内容が医療系かそうでないかで大きく分かれます。医療系の出題であれば、あらかじめ課題文型形式でしっかりとした知識を身につけることが重要です。非医療系の出題であれば、対策による伸びは難しいので、得意・不得意がはっきりわかれるため、なるべく早く見極めることが重要である。

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