医学部小論文の頻出テーマ

医学部をはじめとして、医歯薬および看護などの医療系学部では、他学部と比較すると、小論文を課されることが多くなっています。これはなぜでしょうか?また、どのようなテーマが頻出でしょうか?

2012年度から2014年度の医学部医学科の出題テーマ (国公立118題、私立75題)は、以下のとおりです。
クローン技術  国立大:0、私大:0
iPS細胞     国立大:0 、私大:2
再生医療    国立大:2 、私大:0
脳死      国立大:0 、私大:1
臓器移植    国立大:3 、私大:0
安楽死・尊厳死 国立大:0、私大:0
医療過誤    国立大:0、私大:0
高齢化     国立大:2、私大:4
ターミナルケア  国立大:7、私大:2
生活習慣病   国立大:0、私大:1
その他     国立大:104、私大:66

こうしてみると、予備校や参考書が「医学部の頻出テーマ」としているテーマが、意外に出題されていないことがわかります。例えば、最近話題の iPS 細胞などは、研究指向の大学でなければまず出題されることはありません。2012年度には、杏林大学と東邦大学で出題されたのですが、どちらも iPS のような研究だけが医療ではない、という内容でした。では、小論部の本当の頻出テーマはなんでしょうか?

一部の研究指向の大学をのぞけば、医学部は「医師養成」が最大の目的です。そして、医師に求められている資質は、知識や技術以前に医療従事者としての倫理観です。これらを理解することは医師に必要な条件であるのは言うまでもありません。実際、医師国家試験では以下のような問題が出題されています。

第105回 医師国家試験 (平成23年2月12日) C 6
「患者の権利」の行使として妥当なのはどれか。
a 入院中に無断で外泊する。
b 詳しい病状説明を求める。
c 診療録を無断でコピーする。
d 採血に失敗した医師を怒鳴る。
e 診察の順番を無視して診察室に入る。

第105回 医師国家試験 (平成23年2月12日) C 22
36歳の男性。病気に対する不安を主訴に来院した。21歳から喫煙を開始し、1日40本吸い続けてきた。最近、親戚が肺癌になったため自分も近いうちに肺癌になるのではないかと心配している。説明で適切なのはどれか。
a 「遺伝子診断を受ける必要があります」
b 「直ちに禁煙しないと肺癌になります」
c 「食事に気をつければ肺癌は予防できます」
d 「これから禁煙すれば肺癌になる可能性は減ります」
e 「喫煙した人すべてが肺癌になるわけではないので安心してください」

このような問題は、医学を学んでいなくても答えることができる問題です。しかし、医学部学生のなかには、これらの正答がわからない学生が一定数いるのです。こうした一般常識を重要視しているために、小論文が課されているのです。

実は、医師養成を目的としている大学では、医療--患者間のコミュニケーションといった人間性をみる問題が多く出題されます。そして、医学が進歩した結果、高齢化や慢性疾患が増えた現在、患者とその家族の QOL (Quality of Life, 生活の質) を向上させることも重要になってきているのです。

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