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良いインタビューの条件は、愛情と理解。そして率直さ。

■最も重要なポイントは、愛情と理解

どんなメディアにも欠かせないコンテンツがインタビュー記事です。このマガジンの中でも何回か物語(ナラティブ)の重要性に触れていますが、インタビューはインタビュー対象者が語る内容が、物語そのものだからです。良いインタビューの条件を考えると、インタビュー対象者への事前調査をしっかり行い、インタビューの際には策定したシナリオにとらわれず臨機応変に対応し、インタビュー対象者から素のことばを引き出す、ということになります。

村上春樹さんの小説「回転木馬のデッドヒート」の中にこんな一説があります。

インタヴュアーはそのインタヴューをする相手の中に人並みはずれて崇高な何か、鋭敏な何か、温かい何かをさぐりあてる努力をするべきなのだ。どんなに細かい点であってもかまわない。人間一人ひとりの中には必ずその人となりの中心をなす点があるはずなのだ。そしてそれを探りあてる努力をするべきなのだ。どんなに細かい点であってもかまわない。人間一人ひとりの中には必ずその人となりの中心をなす点があるはずなのだ。そしてそれを探りあてることに成功すれば、質問はおのずから出てくるものだし、したがっていきいきとした記事がかけるものなのだ。それがどれほど陳腐にひびこうとも、いちばん重要なポイントは愛情と理解なのだ。
「回転木馬のデッドヒート」

この一番重要なポイントが、愛情と理解というところが、とても頷けます。私も過去に編集をしていた時代、自分でも何度かインタビューを行ったことがありますが、何度やっても本当に難しいなぁという実感でした。当時はライターさんからインタビュー原稿を週に10本以上いただいて内容のチェックと校正をしていたのですが、心底面白くて心に残るインタビューというのは100本あったら数本というのが肌感です。

それでは、順番に重要なポイントを解説していきたいと思います。

インタビュー対象者への事前調査

インタビューをする前には、事前調査が欠かせません。インタビュー対象者が小説家であれば、著書を読み込まなければなりませんし、俳優であれば出演作品を観ておく必要があります。もちろんミュージシャンであれば、音源を聞いてライブに足を運ぶ必要があります。

ここで重要なのが、インタビュー対象者への事前調査の量とインタビューの質は相関するということです。WEBメディアの盛り上がりとともに1本あたりにかけられる記事単価が減り、ライターのフィーが減ると、調査にかけられる時間が減少してしまう傾向があります。最近では、インタビュアーがインタビュー対象者の新刊しか読まない、あるいはまったく著書を読まないでインタビューするという例もあるでしょう。

なぜインタビュー対象者への事前調査がインタビューの質と比例するかというと、インタビュー対象者の歴史を理解することが、質の高いインタビューの構成を生むからです。
インタビューにおいて重要なのは、インタビュー対象者の背景や歴史を考慮した上で“今”にスポットを当てることです。例えば、ある女性アーティストにインタビューを行うとします。そのアーティストはアイドルグループとしてデビューした後、グループ卒業後にソロデビューし、アイドル時代とは全く異なるシンガーソングライターになりました。
このアーティストの新譜発売に合わせたインタビューであった場合、もし新譜しか聴いてなければ新譜に関する質問しかできません。例えば、こういう聞き方になります。

「今回の楽曲では、失恋をした大人の女性をテーマにされています。“悲しい”“寂しい”など直接的な表現を使った詞が特徴的ですが、どういった心情で作詞されてたのですか。」

しかし、アイドル時代からの楽曲も聞いていれば、質問の仕方がこう変わるかもしれません。

「今回の楽曲では、失恋をした大人の女性をテーマにされています。“悲しい”“寂しい”など直接的な表現を使った詞が特徴的ですよね。アイドル時代の初期の楽曲も、こういった特徴があったと思います。ソロ以降の楽曲については、比喩を使った間接的な表現が多かったですよね?今回の楽曲は原点回帰という側面もあるのでしょうか?」

このように、インタビュー対象者の歴史を追えていれば、過去と今を線でつなぐ厚みのある質問が可能となり、グッとインタビューが面白くなってきます。インタビュー対象者側もこういった質問をされれば、自分のことをよく調べているということが分かって、信頼感が生まれるので、話をしやすくなるのです。

この知識量とインタビューの質が比例することがよく分かるのが、プロインタビュアー吉田豪さんと指原莉乃さんのこちらのインタビューになります。

AKB48「#好きなんだ」発売記念 指原莉乃×吉田豪インタビュー
https://natalie.mu/music/pp/akb48_02

インタビューを読むと、吉田豪さんが指原莉乃さんやAKBの系譜をきちんと追っている上にTwitterもチェックしていて、Twitterからうかがい知れる指原さんの心情を察して質問していることが分かります。
さらに、このインタビューを読むと、指原莉乃さんがハロプロなどのザ・アイドルソングの熱狂的なファンということが分かるのですが、それを引き出しているのがこの質問です。

──総選挙といえば2013年に指原さんが初めて1位になって、自分がセンターで歌う「恋するフォーチュンクッキー」を初めて聴いたとき、全然その曲を好きになれなかったっていうエピソードが大好きなんですよ。

そうなんですよ。全然いいと思わなくて。

──超名曲じゃないですか!

今はそう思えるようになったんですけど。最初にみんなで聴いたとき、こじはる(小嶋陽菜 / AKB48)さんが「え? カップリング?」って言ったんですよ(笑)。それが忘れられなくて。「確かに!」って。今だったら「なんだよ、この曲!」って笑いにできると思うんですけど、当時は「初めてセンター取ったのに、この曲か……終わった」とか思って。秋元さんには「お前が好きな曲なんて、目をつむっても書けるよ」って言われるぐらい、私は“ザ・アイドル!”って感じの曲が好きなんですよ。なのでショックでした。しかも、「お前のためにA面の曲、替えたから」って言われてたから、「それなのに、この曲?」って。でも(篠田)麻里子様だけ「いい曲じゃん」って言ってたのはすごく覚えてます。

https://natalie.mu/music/pp/akb48_02/page/5

インタビューのテクニックのひとつとして「〇〇ですか?」と聞くよりは「〇〇ですね」と事実をのべると、インタビュー対象者が強く共感か否定をすることになり、話を引き出しやすくなります。
ここでは「恋するフォーチュンクッキー」を初めて聞いたとき好きではなかったというエピソードを出し、その返答から「“ザ・アイドル!”って感じの曲が好き」という指原さんの返答が、読者の印象に残るセンテンスになっています。

吉田豪さんがこのエピソードを知らなければ話を向けられない箇所なので、インタビュー対象者に対する知識と質は比例するのです。さらに、このインタビュー全文を見ても分かるように、AKBについての知識だけではなくてアイドルカルチャーについての総合的な知識がなければこのインタビューが成立しないことが分かります。
特定ジャンルの知識を一夜漬けで覚えるのは無理なので、専門ライターは一朝一夕にできるわけではなく、日々の取材やインタビューを通してジャンルそのもの知識を蓄えていく必要があるわけです。

そしてインタビュー対象者に対する知識や、特定ジャンルへの知識が豊富にあると、現在と過去を結ぶ線が見えてくるので、おのずと質問が浮かんできて、インタビューのシナリオを練ることが出来ます。

・事前に作ったシナリオにとらわれず、臨機応変に対応

インタビュー対象者を事前に調査して、想定の質問などのシナリオを練ることは重要です。しかし、インタビュー本番で重要になるのが、その事前のシナリオにとらわれすぎないことです。インタビュアーがシナリオにとらわれすぎると、質問を深掘ることが出来なかったり、インタビュー内容を誘導してしまうことになります。
シナリオを作ることは重要なのですが、シナリオにとらわれ過ぎないことも重要で、このあたりが最もインタビューにおいて難しいさじ加減になります。

事前に作ったシナリオにとらわれるあまり、記者がインタビュー内容を誘導してしまっている例が、こちらの記事です。

「なぜユニクロと比較するんですか」 ZOZO前沢氏の本音
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33853520W8A800C1000000/

有料会員向け記事なので引用は控えますが、インタビュー内においてたびたびインタビュアーがユニクロを持ち出しており、インタビュー中に前澤社長が「どうしてもユニクロと比較したいんですね。」と発言する一幕があります。
なぜここまでインタビュアーがユニクロとの対抗軸に固執したのかというと、このインタビューが「ZOZO前沢氏、確執と野望」という連載記事のひとつだからです。この前の記事タイトルは下記のようになっており、一連のシリーズが“急成長してベーシックアイテムの生産にも乗り出したZOZOが、ユニクロの牙城を崩すかもしれない”というストーリに列挙しているため、記者がその型にはめようとしている様がうかがえます。

「ZOZO前沢氏、確執と野望」
【1】ユニクロが笑う、ZOZO前沢氏の死角
【2】ZOZOを覚醒させた ユニクロ柳井氏の一喝

記事において物語(ナラティブ)は大切ですが、そこにある事実を物語としてすくいあげるのと、記者が恣意的に物語を作り上げるのは真逆の行為なのです。

・インタビュー対象者から素のことばを引き出す

最後のポイントは、インタビュー対象者から素のことばを引き出すことで、これが最も難しいポイントです。冒頭に村上春樹さんの著書から例を挙げましたが、同じく村上さんのエッセイで、インタビューのポイントについてこのように語っています。


(1)「なんだ、こんなことも知らないのか?」と相手に見下されないようにする。下調べは綿密にやる。
(2)相手をリラックスさせ、話をひきだし、しかもときどき冷やりとさせる。
(3)プログラムにとらわれず、相手の発言に臨機応変に対処し、話の大筋を終始前へ前へと進める。
村上朝日堂の逆襲

このうち、話を引き出す手法は(2)にあたります。インタビュー対象者に話をしてもらうには、リラックスしてもらう必要があります。先ほどのAKBの指原莉乃さんのインタビューにおいても吉田豪さんとは顔見知りであり、リラックスしていることがうかがえます。難しいのはインタビュー対象者と初対面の場合ですが、インタビュー開始時にアイスブレイクなどしてリラックスした空気を作ることが重要です。

しかし、難しいのは“ときどき冷やり”の方です。プロのインタビューと素人のインタビューが異なるのはまさにこの点で、リラックスしたままインタビューが終わるとただの迎合になってしまうことが多いのです。この“ときどき冷やり”を上手く扱えるのは、プロの中でも本当に一握りでしょう。

音楽メディアのナタリーを創業された大山卓也さんは著書の中でこのように語っています。


定石にとらわれず「自分が聞きたい」「この人と話したい」と思うことを素直に相手に投げかけることによって、結果的に他のどこにも載っていない記事ができあがるのだと思う。自分が読者として読みたいインタビューにならなければ、やる意味がないと思っている。
ナタリーってこうなってたのか

そして、次のインタビューでは、実際に“いきものがかりはどこか田舎っぽいというか「ダサい」ところがありますよね。”などと、怒られるギリギリのラインの質問の連続になっているといいます。

いきものがかり インタビュー
https://natalie.mu/music/pp/ikimonogakari


この記事はいきものがかりのファンはもちろん、それまで彼らの存在をスルーしていた読者からも大きな反響を呼んだ。決してトリッキーな内容を狙っていたわけではない。「新作インタビューではこういうことを聞くものだ」という”お仕事モード”を避けて、単なるファン代表として自分の聞きたいことを素直に話しただけだ。それが結果的に面白いインタビューにつながったことは幸運だった。そして、このインタビューポイントは「相手を褒めるばかりでは引き出せない話がある」ということかもしれない。
ナタリーってこうなってたのか

インタビュー対象者から素のことばを引き出すには、純粋に忖度せずに自分が、そして読者が気になっていることを率直に聞くというのがポイントになります。(そして、それが非常に難しいのです。)
ちなみに、忖度しないで率直に気になることを聞けるライターといえば、ヨッピーさんが有名です。Yahoo!ニュースにも掲載された「ZOZO前澤社長の1日に密着」では、皆が気になっているであろうお金の使い道を質問したり、その返答に「理論がガバガバすぎません?」と突っ込みを入れたり赤裸々なインタビューになっています。

ZOZO前澤社長の1日に密着「恋愛は?」「年収35億円、使い道は?」
https://withnews.jp/article/f0180724002qq000000000000000W09d10701qq000017476A

インタビューをされた前澤社長もTwitterで“天才的に失礼”と表現しており、ヨッピーさんの率直な質問がギリギリのラインであることが分かります。


ヨッピーさん、天才的に失礼で唯一無二のライター兼編集者さん。この人じゃなきゃこんな記事にならないもんね。記事にはなってないけど「前澤社長、オナニーはしますか?」って真顔で聞かれた時はさすがに困惑したわ。笑笑
https://twitter.com/yousuck2020/status/1021651472839131141

これは個人的な興味ですが、もしもヨッピーさんがユニクロの柳井さんのインタビューが取れたとしたら)、同じテンションでいけるのでしょうか。(絶対に柳井さんは怒りそうです。)

ということで、インタビューにおいて大切なポイントを解説しましたが、最後にポイントをまとめるとこのようになります。

・一番重要なポイントは、愛情と理解
・インタビュー対象者への事前調査は入念に
・インタビュー対象者における周辺ジャンルの知識(アーティストだったら音楽、映画監督だったら映画)も必須
・事前に作ったシナリオにとらわれずに臨機応変に
・自分や読者が聞きたいと思うことを率直に聞く

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