オンラインメディア、課金モデル成立のカギは「情報への熱量×プロによる情報提供の価値」

前回の記事「雑誌は30万部超えのプレジデント、デジタルは有料会員60万の日経電子版が圧勝。ビジネス誌クロニクル。」がおかげさまで好評でした。記事中にてオンラインの有料課金モデルで成功している2つのメディアー日経電子版とNewsPicksを例に挙げていますが、この2つのメディアから、課金モデルを成功させるためのポイントを考えてみたいと思います。

■もともと、お財布から支出されているカテゴリをねらう

だいたいの人は月々の収支の予算割りを決めています。食費は数万円、交通費も数万円、携帯は1万円までなど、人によって出費をすべきカテゴリがまず決まっており、そのカテゴリにいくらまでお金をかけるかという予算感があります。

ですので、今まで人が出費してこなかったカテゴリに新規に出費してもらうよりは、すでに出費しているカテゴリをオンラインに移し替えてもらう方が難易度が低いのです。
ビジネス情報への投資というカテゴリは、意識の高いビジネスパーソンがビジネス誌として出費をしてきたカテゴリです。ビジネスに対して感度の高い人であれば、ビジネス情報誌を購入したり、ビジネス系の新書などを日常的に購入しています。NewsPicksはこのビジネス情報誌への投資をオンライン化することをねらったと思われます。NewsPicksへ課金する人は、毎月購入していたビジネス誌を購入するのを止め、代わりにNewsPicksの有料会員になるわけです。

一方日経新聞電子版は、すでに“新聞代”という支出カテゴリを押さえていたため、その出費をオンラインに振り替えるのはさらに障壁が低くなります。かつ、日経新聞はもちろん経済・ビジネス誌なので、新聞代という家計の支出カテゴリを押さえていた上に、ビジネスというビジネスパーソンの投資対象になりやすいカテゴリである”という最強のオンライン課金モデルに適した記事であったことが分かります。

この仮説の通り、NewsPicksはビジネス誌と同じくらいの課金額(月額1,500円)に設定されていますし、日経電子版も従来の新聞とそれほど変わらない価格(月額4,200円)が設定されているのです。

そう考えると日経新聞以外の一般紙も、新聞代というカテゴリを押さえているわけで、オンライン移行にはアドバンテージがあるのではないかと思われますが、下記の記事中に朝日新聞も“デジタル会員登録者数230万人超(内、有料会員30万人に迫る)”とあり、一定量の有料会員が存在することが分かります。

【大予測:メディア(新聞)】伝統メディアが反転攻勢に
https://www.huffingtonpost.jp/hiroyuki-abe/new-old-media_b_13949998.html

現状、新聞・雑誌ともに紙のメディアの発行部数は右肩下がりです。つまり、毎年一定量は新聞や雑誌の購読を止めるという選択肢を取っている読者が存在するのです。
ということは、早々にオンラインの受け皿を用意し、購読を止めるという選択肢に加えてオンラインの有料会員に移行するという選択肢を取ってもらわなければ、読者の母数は目減りすることが見えています。
現状一定の購読者層が存在する新聞や雑誌にとっては、この数年の間にどれだけオンラインに投資し、紙の読者をオンラインに移行させる受け皿を作れるかがカギになるでしょう。

しかし、ファッション誌に毎月数百円の支出をしていた人が、有料のファッションメディアにお金を払うかというと、そうでもないでしょう。先ほどの予算を割いているカテゴリであるかどうかという判断軸に加えて、「情報への熱量×プロによる情報提供の価値」というもう一つの軸があります。

■情報への熱量×プロによる情報提の価値 = ニッチなメディア

まず、読者がメディアが提供する情報への熱量があるかという軸があります。たとえばビジネス経済紙を購読している読者は、仕事に役立つ情報収集やスキルアップを目的として情報を収集しているので、非常に熱量が高いジャンルといえるでしょう。一方ファッション誌においては、たまに読むけれども必須とまではいかない人がほとんどでしょう。
ビジネス・経済ジャンルに比べると読者の熱量が低いことが想定されます。しかし、ものすごくオシャレに興味があるから絶対に毎号欠かさずファッション誌をチェックする、という人も一定量はいると思います。
ここに2つめの軸「プロによる情報提供に価値があるかどうか」が加わります。ビジネス経済紙はビジネスや経済の専門家によるインタビューや解説記事など、プロによる情報提供に価値があります。一方ファッションはどうでしょうか。インスタグラムやWearを開けば一般の人たちによるコーディネイトの投稿が見つかりますし、中にはモデルやタレントもいます。つまり、ファッションのプロではない素人の人たちのコンテンツが大量に流通しており、見ている人もそれで満たされています。ゆえに無料で見られるものに対して、お金は払いづらくなります。このように、2つめの軸としてプロによる情報提供配信が価値を持つことが有料課金の条件になります。

これをマトリックスで整理するとこのようになります。

情報への熱量が高いジャンルかつ、プロによる情報の価値が高い右上が、オンラインメディアにて課金が出来るゾーンです。情報への熱量が高けれども、プロによる情報提供の価値が低い右下が、素人によるオンラインコンテンツに代替されるゾーンです。
先ほどの経済ニュースはこの右上「オンラインメディア課金向き」に属します。ちなみに、マンガコンテンツもこの右上に属します。熱量の高いマンガ好きはたくさん存在しますし、本当に面白いマンガを描ける漫画家は希少だからです。この法則に乗っ取ると、情報提供価値の高いクリエイターは、オンライン時代において非常に希少価値が高くなります。このクリエイターというカテゴリに含まれるのは漫画家もそうですし、先ほどの経済情報を提供出来る専門家も含まれるでしょう。

この右上に属するメディアのジャンルという観点で考えた場合、ビジネス・経済紙以外にもマッチするものはあるのでしょうか。例としてはプロレスがあげられます。プロレスファンの熱量の高さは、一度プロレスを観にいった人であれば肌で感じることが出来ると思いますし、近年は興行も好調のようです。この時点で情報への熱量という点はクリアします。

そして、プロレスを解説しようとすると非常に専門知識を要します。一般的な技の名前に加えて選手特有のオリジナル技、その技の構成についての知識はもちろんのこと、各プロレス団体とも所属するレスラーのキャラクターや歴史に合わせてユニットを組んでいたりします。その系譜についても、ふまえておく必要があるため、プロレスの解説やレスラーへのインタビューは非常に難易度が高いのです。

週間プロレスの発行部数は20万部で、定価550円で販売されています。ということは月額2,000円程度でオンラインメディアを作ればサブスクリプション型のメディアとして成り立つ可能性が十分あるわけです。他にも各種スポーツや麻雀など課金モデルに向いているメディアのカテゴリがいくつか思いつきます。つまりはニッチなメディアの方が読者の情報への熱量が高いため、オンラインによる課金型メディアが成立しやすいのです。発行部数が10万に満たなくとも、情報への熱量があってプロによる情報提供に価値があれば、オンラインメディアに移行する可能性は高くなり、数万人の有料会員がいればビジネスとしても十分にまわるからです。

ということで、オンラインメディアに向いているメディアの分析が終わったところで、課金のしくみについて考えてみたいと思います。

■フリーミアムが前提。コンテンツの量×質がカギ。

まず、有料オンラインメディアはフリーミアムが前提となります。無料ユーザーでも見られるコンテンツと、課金ユーザー向けのコンテンツを用意し、やがてユーザーに課金ポイントが訪れるのを待ちます。
前回の記事でも触れましたが、有料会員60万人を有する日経電子版が採用しているのが英国の「ファイナンシャルタイムズ」がはじめたといわれるメーター式課金方式です。

まず、無料会員機能を導入して、有料会員向けの記事でも一定量は無料会員が見られるようにします。(日経電子版の場合は月10本です。)この記事量を超えて有料会員向けの記事を見たい場合は、課金をすることになります。
(※日経電子版の場合は朝刊・夕刊も「紙面ビューアー」で見られるなどの有料会員向けの機能もありますが、話を分かりやすくするために、オンライン上での有料記事に話をしぼります。)

NewsPicksは無料会員が見られる有料記事はありませんが、アプリ版のNewsPicksを利用する際には会員登録が必要になります。
ですので、基本的には無料会員機能をそなえた方が良いでしょう。無料会員登録をしてもらえば、取得したメールアドレスに定期的にメディアの情報を送ることが出来るので、課金ポイントを増やすきっかけを作ることもできます。しかも、無料会員登録をしてもらうことで、後の有料会員登録への心理的障壁が下がる効果もあると思います。セールスマンが使うところの「フット・イン・ザ・ドア」のようなイメージです。
ちなみに、情報への熱量が少なければそもそも無料会員登録もしないため、無料会員という機能の導入においても、先ほどの2項目の条件を押さえている必要があります。

次に、フリーミアムをする前提である以上、KPIのひとつはコンテンツの量になります。コンテンツの量が多ければ、会員登録をする機会や課金をするチャンスが増えますし、有料会員登録後に見られるコンテンツの量が、有料登録をするひとつの判断になるからです。
さらに、コンテンツの量を増やすという観点で、コンテンツはストックされることが望ましくなります。NewsPicksでは、bookというコーナーからストックされているオリジナル記事のラインナップを見ることが出来ます。オンラインメディアの場合、ストックされたコンテンツの見せ方がないがしろになりがちですが、フリーミアムの観点からいえば、ストックされたコンテンツをうまくアピール出来れば課金率が高まるのです。

■物語(ナラティブ)のあるコンテンツ×連載記事 がカギ

では課金されやすいコンテンツの質についてはどうでしょうか。課金が訪れるタイミングとして下記の2種類が考えられます。

A メディアに対して総合的に課金を検討している
B 読みたい記事があるから、課金を検討している

Aの場合は、冒頭の「日経新聞を購読していたが日経電子版に乗り換えようか検討している」パターンや、毎日オンラインメディアに接触しているうちに読みたい記事が目立つようになったので課金を検討しているパターンになります。
紙のメディアからオンライン版に乗り換えを検討している際に、ユーザーの心理的障壁を下げるのが有料プランの中身と価格です。もちろん紙の雑誌に比べてオンライン版の有料プランは価格を下げた方が心理的障壁が低くなります。日経新聞の宅配は4,900円/月ですが、電子版は4,200円/月と安くなっています。かつ、日経電子版はビューアーで朝刊と夕刊を見られる上に、電子版の有料会員向けの記事を無制限に見られるというメリットがあります。つまり、ユーザーからすると今まで見ていた新聞をビューアーで見られる上に、電子版で見られる記事が多くなるのであればお得である、という心理が働きます。

既存の紙メディアがオンラインに移行し、かつ紙のメディアが平行して存続するのであれば、オンライン版の有料会員機能として既存の紙のメディアも見られるという特典をつければお得感が増すでしょう。
先ほどのプロレスの例ですが、プロレスファンは記事に加えて試合中の写真を重視する傾向にあります。誌面であればページの関係もあり、掲載される写真数は絞られますが、オンラインの有料会員であれば試合中の写真をもっと見られる、などの誌面にプラスアルファした特典をつければ、読者はオンラインの有料会員に魅力を感じることになります。

一方、Bの読みたい記事があるから、課金を検討しているを喚起するコンテンツとしては、物語(ナラティブ)のあるコンテンツ×連載記事がカギになります。物語(ナラティブ)のあるコンテンツがなぜ重要なのかは、前回の原稿に書いたとおりです。当事者しか知りえない苦悩や舞台裏をつづった物語が含まれるインタビューやルポは、人の心をゆさぶり、続きを読みたいと思わせるのです。そして、それを連載記事にすることがポイントです。先ほどのメーター方式であれば、月10本は無料会員でも見ることが出来ます。たとえば今月の残りの閲覧数が7本だった場合、全10回の連載を読んでいて残り3本が来月にならなければ見れない、しかも続きが気になるといったシチュエーションが最も課金濃度が高いタイミングになるからです。しかし、この入会経路の場合は、目的の記事を読んだ後にすぐに退会してしまう可能性があるので、連載コンテンツはきちんとパッケージングしてストックとして見せることが重要になります。

このように、読者が紙のメディアからオンラインへの移行を検討した際にお得感を演出することと、オンラインの無料会員ユーザーに有料会員へ移行してもらうには物語(ナラティブ)のあるコンテンツを連載すること、そしてそれをきちんとストックして提示することが重要なのです。

ということで、オンラインメディアの課金モデルについて考えてきましたが、記事中にもあるように紙のメディアが課金モデルを展開するタイミングはまさに今です。熱量の高い読者が一定量存在するうちに、オンラインへの布石をいかに打てるかがカギになるでしょう。

データ出典
http://magazine-ad.com/sports/a0005.html

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とりさん

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