メディアのファンを醸成するために必須のストーリーとは?

■メディアをメディアたらしめる文脈=コンテクスト

ウィキペディアでメディアを調べると、下記のようにあります。

メディア(media)とは、情報の記録、伝達、保管などに用いられる物や装置のことである。媒体(ばいたい)などと訳されることもある。記録・保管のための媒体とコミュニケーションのための媒体とに大別することができるが、両者には重なりがある。

メディアとは情報伝達のための媒体です。では、メディアをメディアたらしめるものとは、メディアに載っている情報なのでしょうか。個々のメディアには、そのメディア特有の空気が流れています。メディアを形成する空気そのものが、メディアの価値を表すといってもいいでしょう。

メディアの空気を決定づける大きな要素がメディアのストーリーです。メディアのストーリーは「メディアの文脈=コンテクスト」によって形成されています。たとえば下記の単語の羅列群を見てみてください。

・きゅうり
・にんじん
・はくさい
・たまねぎ

これらの単語群は“野菜”というカテゴリでグルーピングされていることが分かります。

では下記の単語群はどうでしょうか。

・腕時計
・ビジネススーツ
・革靴
・ビジネスバッグ

個々の単語=モノは、先ほどの野菜のように同じカテゴリに属している単語ではありません。しかし、この4つの単語からは「ビジネスパーソン」というイメージが浮かび上がってきます。
個々の単語を見ただけで、それらをくくる全体像を想起出来ることが文脈=コンテクストということになります。
それでは、上記の単語を少し付け加えた以下の単語を見たときに、どんな文脈=コンテクストが浮かび上がるでしょうか。

・ロレックスの腕時計
・アルマーニのビジネススーツ
・ジョン・ロブの革靴
・エルメスのビジネスバッグ

これらの単語からは「所得の高いビジネスパーソンという文脈=コンテクスト」が浮かび上がるのではないでしょうか。こういったラグジュアリーブランドのメンズ向けのアイテムを扱う雑誌といえば、ちょいワルおやじというコピーで有名人なった「LEON」が思い浮かぶでしょう。
個々のメディアは、どのような情報を取り扱うかという情報のセレクトによってメディアの文脈=コンテクストを作り上げ、読者はそこに浮かび上がる文脈を読み取って、自分に向けられたメディアかどうかを判断します。読者は、この文脈に共感できればメディアのファンとなるのです。

もうひとつ例を挙げると、次の情報群からは何を思い浮かべるでしょうか。

・ルクルーゼで簡単おもてなし料理
・コストコで狙うべき、コスパ十分の食材リスト
・IKEAとニトリで作れる!夢の子供部屋

ルクルーゼ、コストコ、IKEA、ニトリといった単語群からも主婦向けの雑誌―、Martあたりが思い浮かびます。扱う情報群のあいだにただよう文脈によって、読者はメディアを取捨選択しますし、逆にメディア側も想定読者を定めて文脈づくりをしているのです。

■文脈=コンテクストを持ったメディアは、体験を提供する

特色のある文脈を持つメディアは、読者の共感が得られてファンの多いメディアになります。文脈を持ったメディアは情報を伝えるための媒体という役割を超えて、ひとつの娯楽となるのです。
たとえば、さきほどの「LEON」は年収数千万円の読者層を想定していましたが、実際に購読していた読者にはもっと年収の低い人々が一定層いたそうです。なぜ彼らが「LEON」を読むのかといえば、自分が憧れる暮らしという文脈を仮想体験として楽しむためでしょう。彼らは「LEON」に掲載されている情報ではなく、メディアが提供する世界観を体験するために購読をしており、さらにその世界観を決定づけているものはメディアの文脈なのです。

雑誌「Hanako」は、誌面のリニューアルによって一時期部数を数万部程度回復したことがありました。「Hanako」は文脈を持った世界観を提供することに長けている雑誌です。カフェ特集や鎌倉特集など雑誌を見て、掲載されているお店に行く人たちは一部だと思いますが、それらの特集を眺めることでカフェの世界観や鎌倉の散策といった体験を疑似体験しているわけです。

このように文脈を持った雑誌は読者に体験という価値を提供出来るため、情報のみを提供している情報誌に比べて部数の落ち方がゆるやかになります。単に情報を提供するという観点でいうとネットが最も適しているため、情報に特化した情報誌ー東京ウォーカーなどは部数が激減しています。

■文脈を形成する企画、写真、文章
このようにメディアの空気を形成するのは文脈なのですが、メディアに載る情報をもう少し細分化すると企画、写真、文章という3要素にカテゴライズできます。この3要素が相互に作用して文脈が作られます。

企画
・どのような情報を
・どのような切り口(視点)で

写真
・どのような写真で伝えるか

文章
・どのような文章で伝えるか

たとえば先ほどのHanakoの「カフェ特集」であれば、このようになります。

企画
▼どのような情報を
カフェ特集(東京都内の)

▼どのような切り口(視点)で
オシャレだったりレトロだったり、可愛いスイーツがあったり、女性が嬉しいカフェ店をセレクト

写真
ストーリー性のある写真をメインに

文章
写真の添えるようなコメント的な文章

読者が誌面を通してカフェを擬似体験するには、写真が最も重要になります。ストーリー性があって非日常を演出する大きな写真と、そこに添えられたコメントという構成で、流れるような誌面構成でカフェを見せていきます。

注意深く雑誌を見ると、雑誌によってこの構成が大きく異なります。顕著にその傾向が表れるのが女性誌です。女性誌は大きく分けてコンサバ系のOLさんがターゲットの赤文字系(Cancamなど)と、やや個性的なファッションが中心となった青文字系(Sweetなど)に大別されてきました。(今はファッションのベーシック化によって両者の垣根は限りなく低くなっています。)

女性誌でちょくちょく掲載されるのが「1か月着回しコーデ」という特集です。これはもう何十年にもわたって女性誌の鉄板企画として脈々と行われたきた企画だと思いますが、赤文字系雑誌と青文字系雑誌には大きな違いがあるのです。

例えば、赤文字系雑誌がこの企画をやるとほぼ100%の確率でこうなります。

企画
▼どのような情報を
30日着回しコーデ

▼どのような切り口(視点)で
・広告代理店で働くA子の着回しコーデ
・大学の同級生で商社で働く圭介とは付き合って3年目。しかし、新しいプロジェクトで出会ったクリエイター聡のことが気になって…。

写真
・職場でのプレゼン中のコーデ
・彼氏や職場の男性先輩、合コンで出会ったクリエイターなどとのデートコーデ
・職場の後輩たちとの歓送迎会におけるコーデ
・休日のオフコーデ

文章
・ストーリー仕立ての文章
 例)圭介からのラインがもう3日も帰ってこない。聡さんから打ち合わせの後にご飯に誘われちゃったけど、ご飯くらいならいいよね。取引先の人との平日ディナーは、大人っぽさも見せつつ、シルエットが可愛い紺のAラインノースリーブワンピで。

このように赤文字系の着回し企画には3つの特徴があります。

1.主人公のバックグラウンドがあり、物語風になっている
2.気になる男性が登場し、最後に結ばれて終わる(か、彼氏がいてケンカをするが最後に仲直りする)
3.写真に、男性などの第三者が常に写り込む。

つまり、この特集で表現されるコーデとは、意中の男性や彼氏、職場の後輩、取引先など第三者の目を介したときにどう見せたいかという、TPOをおさえたコーデなのです。

一方、青文字系における30日着回しコーデ企画はこのようになります。

企画
▼どのような情報を
30日着回しコーデ
▼どのような切り口(視点)で
・雑貨店で働くB子の着回しコーデ

写真
・全身写真を正面からとらえた写真を中心に、コーデがよく解る写真。

文章
・コーディネートの解説に徹する。
 例)ポロシャツとフレアスカートを合わせた甘くなりすぎないコーデ。足元もコンバースのハイカットでカジュアルに。

青文字系ファッション誌の場合は、異性が写真に写り込むことなく、純粋にコーディネートの解説が中心になっています。つまり、ファッションが好きな人に向けに、ファッションそのものの解説に終始しているのです。

このように企画の概要までは同じであっても、企画の詳細や写真、文章といった伝え方によって、紡がれる文脈は大きく異なります。赤文字系は「彼氏をゲットして職場で印象を良くするためのコーデ」という文脈であるのに対して青文字系は「ファッション好きのためのコーデ解説」という文脈なのです。

※赤文字系雑誌「Classy」の着回しコーデ特集。写真には常に意中の男性など第三者が写り込む。

ということで、メディアをメディアたらしめるものは文脈であり、それは企画・写真・文章のセレクトとその構成によって決定されるのですが、事例のほとんどは紙の雑誌でした。一方、WEBメディアはどうなのでしょうか。

■文脈力が圧倒的に弱いWEBメディア

先ほどの企画、写真、文章をWEBメディアとして実現できるか評価すると以下のようになります。

企画

→SEO経由やキュレーションアプリ経由の流入が多いと、連続した特集記事は不可。

写真
×
→予算がかけられないので撮りおろしが出来ない。

文章

まず、SEOやキュレーションアプリ経由の流入が多い場合、ユーザーはメディアのトップではなくて記事単体に流入するため、連続した企画が組みづらくなります。
誌面であれば、読者がページをめくってメディアの文脈をつかんでいくのですが、WEBメディアはページ単位での接触になるため、文脈を築きづらくなるのです。

次に、写真についても雑誌と同じようにカメラマンを手配するなどが出来ません。WEBメディアはアクセスを担保するために1か月の間に大量の記事を投稿する必要がありますし、しかも雑誌とは異なり無料で提供しているため、いまのところ収益源は広告収益がメインになります。誌面ほど予算をかけて写真を確保することが難しいため、メディアの世界観を作りづらくなっています。

最後に、文章についてはトーンを揃えることは可能ですが、前の2つが雑誌に比べて弱いため、文脈力という面でいうと雑誌に比べて弱くなります。
しかし、WEBにおいてもこの文脈力は非常に重要です。先ほど“メディアが提示した文脈にユーザーが共感できれば、メディアのファンとなる”というくだりがありました。今のWEBメディアの大きな収益源のひとつして記事広告がありますが、メディアのファンをしっかり獲得出来れば記事広告におけるPV単価が上がり、広告が入りやすくなります。文脈をつむいでメディアのファンを獲得すれば、そのファンになった人は今度はSEO経由ではなくてメディアのトップから訪れてくれます。このようにユーザーがファン化してメディアへの接触率があがれば、記事広告を入れやすくなるのです。

逆に、ファンが獲得出来なければSEOやキュレーションアプリ経由の流入に頼るしかなくなるため、メディアの価値が高まらず1PVあたり0.1~0.5円といわれるアドセンスなどの広告収益に頼らざるおえなくなります。その結果、安い単価で記事を量産し、記事に共感が集まらないからメディアのファンがつかない循環に陥るわけです。

では、WEBメディアが文脈をつむぐには、どのようにしたら良いのでしょうか。

まず、企画の点でいうと長期連載の企画が出来るのは、メディアがアプリ化されて直接流入のユーザーの割合が多い場合に限ります。ですので、WEBの特性上、1記事単位の内容によって文脈を紡いでいくしかありません。この時、変な記事がまざると文脈力が削がれてメディアブランディングが阻害されるため、編集長が全て記事のトーンやクオリティをチェックするべきです。
変な話ですが、男性向けのラグジュアリー誌が下記のラインナップになっていたら違和感を覚えますよね。

・ロレックスの腕時計
・しまむらのTシャツ
・ジョン・ロブの革靴
・エルメスのビジネスバッグ

そんな馬鹿なと思うかもしれませんが、WEBメディアをやっているとアクセス欲しさにどうしてもSEO経由のアクセスを取りやすい安易なワードに流れたくなる欲求との闘いになります。その結果、最初はファッションメディアだったはずなのに、気づいたらエロ・ゴシップネタを扱っていたという例は、いくらでもあります。

2点目の写真ですが、これはある程度予算をかけて頑張るしかありません。WEBは写真に予算をかけられないけれども、写真はメディアの心臓部であるというパラドックスが、WEBにおけるプロのメディアの醸成を阻害している気がしています。
この点においては既存の出版社はいくらでも誌面用の写真を持っているため、もっと本腰を入れてWEB版も頑張ればアドバンテージがかなりあるのではないかと思っています。

ということで、メディアをメディアたらしめる文脈の重要性について解説してきたのですが、最後にうまく文脈を紡げていると思うWEBメディアを例にあげます。

ひとつめは「MERY」です。画像の著作権問題が起こる前から文脈を作れているメディアでした。生まれ変わっても文脈はそのままに運営出来ていると思います。
(ちなみにコアターゲットは20代女性と思われますが、30代後半の女性でもMERYを認知して見ているという人をちょくちょく見かけます。これがWEBメディアにおける文脈力の弱さを物語る一面でも思っています。もしもMERYが紙の雑誌で、あのゆるふわの世界観が誌面としてつむがれていたら、30代以降はそもそも手に取らないからです。)

2つめはキナリノです。雑誌でいう「リンネル」リニューアル前の「クウネル」あたりのポジションをうまくWEBに移し替えているのではないかと思います。

ということでメディアの空気をつくり、ファンの獲得に繋がるメディアの文脈=コンテクストについてでした。

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とりさん

メディアが解るマガジン

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