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【運動器7】私が経験した慢性疼痛に対する1つの大きな勘違い-無料公開中-

はじめに
Buenas noches!terapeuta!(スペイン語でこんばんは療法士のみなさん)

 本日より運動器7の一員としてお世話になります江原弘之です。理学療法士15年目、44歳の44マグナム世代のおじさんと覚えてくだされば光栄であります。運動器7の中でも明らかに最年長(たぶん)。

正直いうと「記念すべき企画の初回をマグナム世代のおじさんにしておけばなんとかやるだろう」という、運営側のぶっこみを感じずにはいられません。しかし、このような機会でもなければ自分のここまでの経歴を振り返ることもありません。令和元年の初日だし!

貴重な機会を頂いたと思いましょう!初回となる今回は私の経歴と、運動器リハビリの中でも痛み、慢性疼痛のリハビリを行う中で気づいた大きな勘違いについて書きたいと思います。

日本初のペインクリニック設立病院に勤務
 

 理学療法士としての初陣は、整形外科クリニックを選択しました。その後、「急性期病院で働きたい」という思いがわき始め、NTT東日本関東病院リハビリテーション科に勤務することになりました。

ここでの勤務が、私にとって大きなターニングポイントとなりました。NTT東日本関東病院は、日本初の「ペインクリニック科」設立病院だったのです。

当時、ペインクリニックにおけるリハビリの重要性が叫ばれている時代であったため、ここでの臨床・学術経験は今の私の礎となりました。

“未知痛”との遭遇


 私が「痛み」と出会ったのは、理学療法士になるずっと前のことでした。遡ること30年前、中学生だった私は腰痛に悩まされていました。その後、腰痛は理学療法士になったことで解消されましたが、新たな「未知痛」との出会いが、ペインクリニックで待ち受けていたのです。

ペインクリニックに勤務した当初は、毎日が「未知痛」との遭遇。クリニック勤務よりも高いレベルで仕事をしたかった自分にとっては、無意識に、のめりこんでいく強い誘因因子になったのだと思います。

ここで一旦、ペインクリニックに関する役割を説明しておきます。

”ペインクリニックでは、症状や身体所見から多角的に痛みの原因を診断し、薬物療法だけでなく神経ブロック*を始めとする各種の治療法を駆使して痛みを軽減・消失させQOLを向上させます。また、慢性痛、神経の障害やがんによる治療困難な痛みでは、医師、看護師、薬剤師、理学・作業療法士、臨床心理士など痛み診療に関わる多くのスタッフと連携して最適な治療へと導いていきます。"引用:https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_about.html

 ペインクリニックというのは、痛みを専門に診療する科、もしくは麻酔科の技術で治療できる疾患・症状を治す科のことです。つまり痛みだったら何でも診ることはできます。まだ、医療職でも知らないという方も多い診療科です。もちろん、理学療法士も例外ではありません。

一般的に運動器リハビリで痛みが関わる疾患は、外傷後や術後の痛み、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、変形性関節症の痛みなどの整形外科的疾患が多いと思います。一部しびれなどの神経症状が関わることもあるでしょう。

私がペインクリニックとの連携で関わってきたのは、整形外科疾患の他に全身痛、術後遷延痛、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、脳卒中後疼痛(視床症候群)、線維筋痛症、その他原因不明の長引く痛み・しびれでした。

特にCRPSは「リハビリが痛み治療の中心になる」と論文で言われるほど、治療には我々理学療法士の能力が期待されています。

CRPSのための修正治療アルゴリズム このアルゴリズムは、リハビリテーション中の患者の臨床的進歩に応じて、治療法の使用を強調しています。

Journal of Pain and Symptom Management 2006 31, S20-S24DOI: (10.1016/j.jpainsymman.2005.12.011)

ただ、CRPSなどの「神経障害性疼痛」という分類*1に属する慢性疼痛のリハビリは本当に大変で、かならずお昼休憩後にリハビリ時間を設定していました。

その理由はなぜか。本当にリハビリした後、自分の身体と精神の疲労感がすごかったので、昼食を食べてからでないと立ち向かえなかったんです。このような環境の中での必要性と仕事の重要性と達成感(なかなか得られない時もありますが)の中で、慢性疼痛のリハビリにのめりこんでいきました。

*1痛みの分類:国際疼痛学会で定義されている慢性疼痛の分類は、一次性慢性疼痛、術後及び外傷後慢性疼痛、慢性神経障害性疼痛、慢性頭痛及び口腔顔面痛、慢性内臓痛、慢性筋骨格系疼痛、がん性疼痛の7種類です(Treed RD et al 2015)

痛みのリハビリに対する1つの大きな勘違い

「PTが知識や技術を高め続ければ痛みそのものを治すことができる」

これは、痛みに対する理学療法士たちの大きな勘違いです。私も最初はそれが理解できずに、徹底的に体のことを勉強したりセミナーに行って徒手技術を高めることだけに集中してきました。

多くの整形外科疾患、運動器の痛みは徒手療法で大きな効果を期待することができるでしょう。

ただ、慢性化した神経障害性疼痛やひどい整形外科疾患の痛みは理学療法の技術に反応しないどころか、動かすと痛みが悪化したり、「アロディニア」と呼ばれる触れることさえできないくらい強い痛みも存在するのです。

「セラピストは痛みを何でも治せる。痛みを治す○○法を学びましょう」

 と言うことを、この場でお伝えする気はありません。最近ではこのような謳い文句が、SNS上で非常によく見ますが、私が日々向き合っている慢性疼痛に苦しむ患者さんに対しては、ハッキリ言ってそんな方法は存在しません。

反対に、上記のような理学療法士の“過信”が慢性疼痛を作っている可能性もあります。これに対して私は、臨床から学ぶことが大事だと身をもって体験しています。

だからこそ皆さんにはこの事実を早く知ってほしい、理解してほしいという想いから、この記事を書いています。これからの連載では、私がこれまで経験し、学んだかとの全てのことをお伝えしていきます。

私の臨床を変えたDNSアプローチ*2

 患者さんの痛みがある時を境に、医師が行う治療に反応しなくなってくることがあります。理学療法評価をしてみると、“アライメント、筋緊張、動作パターン等が悪いままである”ことに気づきました。痛みと関連する身体機能障害が残っていたのです。

この痛みに関連する機能障害に対して、現在私は「動的神経筋安定化・発達運動学的アプローチ(DNSアプローチ)」を取り入れています。自身の腰痛に対しても、さらに体が強化される実感もあり、頭ではわかっていた身体機能や体の動きを体感して学ぶことができました。

 DNSアプローチは一緒に働いていた医師も理解してくれているので、今の職場でのモットーである「歯が痛い以外何でもリハで評価して診ます」につなげることができています。

*2DNSアプローチとは:動的神経筋安定化・発達運動学的アプローチのこと。理学療法士であるパベル・コーラー氏が開発・展開している独自の徒手的アプローチで、呼吸機能や脊柱安定化機能の改善を中心とし、短期間で身体に内在するシステムを活性化させる。チェコにあるプラハスクールにより、世界中でセミナーが開かれている。日本でもトップアスリートがパフォーマンスアップのためのトレーニングに取り入れたことで話題となり、理学療法士やアスレティックトレーナーに広まっている。小児リハビリテーションで広まっているボイタ法と共通するところがあり、乳児の運動発達段階に則した呼吸法や運動療法が特徴的なアプローチ法である。

慢性疼痛のリハビリに困っているセラピストの皆さんへ


 慢性疼痛のリハビリを始めて10年、痛みの治療やガイドラインや最新の研究成果と臨床経験とをフィットさせてやってきました。リハビリでどのように痛みを対処してよいか困っているセラピストの話もよく聞きます。

おそらく今後も揺らぐことがない絶対守るべきは以下の3点です。

1,患者さんのレベルに合わせた自発的な運動療法を提供し続ける

2,痛みを否定せず患者さんの話を聞き続ける

3,チームを組み相談できるところをつくる

特に介護保険領域のセラピストは、利用者さんとの長期的なかかわりの中で理学療法士の心が折れてしまうこともあります。“治すより続ける”、評価しつづけることを念頭におくことをお勧めします。

今後も皆さんが気になっていると思われる痛みの心理社会的要因なども含めて、様々な痛みの臨床の話を書いていく予定ですので楽しみにしていてください。

他のPOST運動器7のメンバーもなかなか濃いメンバーがそろっていますね。この企画も全体的にも必見だと思うのでご期待ください!

それではこれからどうぞよろしくお願いいたします。Adios!(スペイン語でさようならの意味)

【目次】

第1回:私が経験した慢性疼痛に対する1つの大きな勘違い

第2回:慢性疼痛の種類と痛みの評価~どこがなんで痛いのか~

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