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【福島県双葉町】住民帰還後の医療インフラの課題とは? 〜オンライン服薬指導実証事業の紹介〜


ご挨拶

こんにちは、メドレー政策渉外部です。政策渉外部ではへき地などの医療過疎地域を中心に、全国の自治体で実施されている医療実証事業に協力しています。
今回は、2023年11月から福島県双葉町で開始されている、オンライン服薬指導実証事業についてご紹介します。

実証事業の背景

福島県双葉町は、東日本大震災及び原子力災害を受け、住民は全国各地で避難生活を強いられていましたが、2022年8月に一部地域において避難指示が解除され、住民帰還が始まっています。被災当時の町民人口は約7千人。現在は約80人以上が町に住んでいます。そして2023年2月には、住民帰還開始後に設置された医療機関として初となる、「双葉町診療所」が開所しました。

震災前、町内には病院をはじめ、医科・歯科診療所など民営の医療機関が複数ありましたが、一連の災害によって全て閉業しており、今も民間による医療機関の開設のめどは立っていません。現状ではこの町営診療所が唯一の医療機関です。診療所に医師や看護師などのスタッフは常駐せず、南相馬市の病院から医療従事者が派遣されており、現在は週に3回の診療日が設けられています。

町が抱える課題

双葉町診療所では、薬の処方が発生した場合は院内で処方していますが、常備されていない薬を処方する場合や、薬の在庫切れが発生することもあります。このような場合、診療所は処方箋を発行し、患者は処方箋を調剤薬局まで持参して、薬剤師から薬の説明(服薬指導)を受けた上で薬を受け取ります。

ところが、双葉町には調剤薬局がありません。災害前にあった店舗は全て閉業しており、直近の開設も未定です。町の外にある薬局は最も近い店舗でも診療所から約5km以上離れており、移動には自動車などの交通手段が必要となります。患者の中には高齢者や体調面で運転が難しい方、徒歩以外の移動手段を持たない方もいるため、こうした患者の方々にとっては調剤薬局へ足を運ぶことが難しく、町の課題となっています。
対応策として、診療所で多種多様な薬を常時ストックしておくことも考えられますが、薬の使用期限やコストの観点などから見て現実的ではありません。今回の実証事業ではこの課題に対する解決策及びその有用性を検証していきます。

実証事業の概要

今回の実証では、院外処方が発生し患者が調剤薬局へ行くことが難しい場合、医療機関は患者の指定する調剤薬局へ処方箋をFAX送信し、患者はスマートフォンやタブレットなどを用いて、薬剤師からオンラインで薬の説明(「オンライン服薬指導」)を受けます。薬は薬局から配送され、後日自宅で受け取ります。
オンライン服薬指導は、自身のスマートフォンなどを使って患者の自宅で受けられますが、端末の操作が困難な場合や自宅に通信環境が無い場合、患者は診療所内に用意されたスペースで専用タブレットを利用できるようになっており、診療所スタッフの補助を受けながらオンライン服薬指導を受けることも可能です。
なお、オンライン服薬指導用のシステムには、患者向けに「オンライン診療・服薬指導アプリ CLINICS(クリニクス)」と薬局向けのシステム「Pharms(ファームス)」が利用されており、メドレーは医療機関に対するCLINICSアプリの利用支援や、薬局に対するPharmsの導入支援を行っています。

診療から薬を受け取るまでの流れ

オンライン服薬指導が必要となった場合の具体的な流れを、テキストと図で解説します。

  • 診療後、医療機関は患者が指定した調剤薬局へ、処方箋をFAXで送信する(下図①・②)

  • FAXを受信した薬局は、オンライン服薬指導が申し込み可能となる「申し込みコード」を患者の端末へ送信する

  • コードを受信した患者は自力で、または診療所スタッフの補助を受けながらCLINICSアプリを使って、オンライン服薬指導を申し込む

  • 薬局は患者のCLINICSアプリへ呼び出しを行い、オンライン服薬指導を実施する(下図③)

  • 薬局は服薬指導を実施後、患者の自宅へ薬の配送手続きを行う(下図④)

  • 薬代や配送料など、薬局への支払いは患者のクレジットカードで決済される。また、処方箋原本は後日医療機関から薬局へ引き渡される

なお、前述の通り、患者は診療所内でスタッフの補助を受けながら専用タブレットでオンライン服薬指導を受けることが可能です。これまでメドレーは複数の実証に参加してきましたが、こうした診療所内でオンライン服薬指導まで実施するといった取り組みは初めてになります。
また、今回の実証では、サービス開始前に住民説明会が行われ、実証概要のほか、CLINICSアプリのダウンロードから近隣の薬局の検索方法、オンライン服薬指導の受け方などアプリの使い方に関する説明が行われています。

本実証で期待される点

本実証によって、患者は院外処方が発生した場合、交通手段の有無や天候に影響されずに薬の受け取りが可能となります。また、今後診療所では町民の増加に合わせて様々な処方のニーズに対応していくことが求められ、院外処方もこれまで以上に多く発生することが予想されます。そのため、今回の実証で得られた成果や課題は、将来的に院内処方から院外処方へと、メインとなる処方形式の切り替えを検討するための材料にもなり得ます。

関係者からの期待の声

福島県双葉町 健康福祉課のご担当者様にお寄せいただいたコメントをご紹介します。

令和4年8月30日に特定復興再生拠点区域の避難指示区域の解除が行われ、11年5ケ月ぶりに双葉町内に居住が可能となりました。
双葉町への帰還促進の条件として、医療施設の設置が必須となり、令和5年2月1日に双葉町診療所が開所しました。
しかし、当初は、最寄の薬局が南相馬市小高区と楢葉町にしかないため、移動手段の無い高齢者等のために、診療所で薬の提供を行い、現在まで院内調剤を行っておりました。
今回の実証により、患者が移動することなく、診療所内で処方薬剤の説明を受け、後日薬剤が自宅に配送されることにより、いままで以上の薬剤が医師により処方され、患者にとっては、薬局に出向くことなく薬剤の提供を受けることが出来ます。
今後、本システムを利用することにより診療所がより良い医療拠点になり、ひいては診療所の利用者増加、さらに、双葉町内への帰還増進を期待しております。

終わりに

今回、政策渉外部の担当者は実証の準備のため双葉町を訪問し、診療所から最寄りの薬局まで実際に車で移動しました。片道5kmという距離は車でこそ10分程度ですが、患者が簡単に歩ける距離ではないことは確かです。また、双葉町と周辺地域を繋ぐ道路の周囲は帰宅困難区域も多く残されており、そのような区間は道路照明灯が少なく、夜は文字通り真っ暗になります。たとえ車があったとしても、日没が早い冬季や荒天時においては、見通しの悪い道のりを運転する必要があり、危険を伴います。
今回の実証によって、このような移動に関する負担が少しでも減り、復興へ向かう双葉町の住民の皆様が安心して医療を受けられる環境づくりに少しでも貢献できれば幸いです。
メドレーは、今後も様々な地域や環境において、医療における課題を解決するための一助になれればと考えています。

補足

今回はオンライン服薬指導の実証に関する記事でしたが、別記事でもご紹介したとおり、政府は地方自治体に対してへき地等でのオンライン診療の活用を求めています。この流れの中、2023年5月の厚生労働省の通知ではへき地における医師の常駐しないオンライン診療のための診療所の開設が特例的に認められており、さらに2023年中には都市部においてもこのような診療所の開設に関して結論が出される予定です。2024年には診療報酬改定もあり、政策渉外部では今後のオンライン診療に関する動向について、引き続き注目していきたいと思います。

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