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R6年度診療報酬改定をふまえて〜オンライン診療は何が変わる?〜


R6年度の診療報酬改定

こんにちは。メドレー政策渉外部です。
今年は2年に1度の診療報酬改定の年です。2024年2月14日に答申(概要)が出され、3月5日の公示をもって確定しました。
そもそも、診療報酬改定とは何?と思われた方は、2年前のnote「誰もがオンライン診療を利用できる未来が近づいてきた〜令和4年度診療報酬改定について〜」に解説がありますので、ご確認いただければと思います。
なお、これまでは3月に発表された診療報酬改定の内容は4月1日から施行でしたが、医療機関・ベンダーの負担を軽減する目的で、公示から施行までの期間が延長され、今年は6月1日施行に変わります。
そのため、このnoteの内容が実際に医療機関等で反映されるのは、2024年6月からとなります。

オンライン診療に関連する診療報酬上の変化

総論的には、新たな評価も増え、より活用の幅が広がると捉えています。以前、制度変化について説明したnote「新型コロナ5類移行後のオンライン診療に関する制度変化のまとめ」で、概念図を出しましたが、その延長を描いてみると、以下のようになるかと思います。

各論的に今回の改定方針(※1)の中で、オンライン診療に関連する注目ポイントを中医協資料から抜粋すると以下になります。

・へき地医療において、患者が看護師等といる場合の情報通信機器を用いた診療(D to P with N)が有効であることを踏まえ、へき地診療所・へき地医療拠点病院が D to P with Nを実施する場合について、新たな評価を行う。

指定難病患者に対する治療について患者が医師といる場合の情報通信機器を用いた診療(D to P with D)が有効であることが示されたことを踏まえ、遠隔連携診療料の対象患者を見直す。

・発達障害等、児童思春期の精神疾患の支援を充実する観点から、小児特定疾患カウンセリング料について要件及び評価を見直すとともに、医師による小児の発達障害等に対する情報通信機器を用いた診療の有効性・安全性に係るエビデンスが示されたことを踏まえ、発達障害等を有する小児患者に対する情報通信機器を用いた医学管理について、新たな評価を行う。

・「情報通信機器を用いた精神療法に係る指針」を踏まえ、情報通信機器を用いて通院精神療法を実施した場合について、新たな評価を行う。

・これまでの情報通信機器を用いた歯科診療の実態も踏まえ、継続的な口腔機能管理を行う患者及び新興感染症等に罹患している患者で歯科疾患による急性症状等を有する者に対する情報通信機器を用いた歯科診療を行う場合について、新たな評価を行う。

・口腔がんの経過観察等、専門性の観点等から近隣の医療機関では対応が困難な場合において、近隣の歯科医療機関の歯科医師と連携して遠隔地の歯科医師が情報通信機器を用いた歯科診療を行う場合について、新たな評価を行う。

上記の事項を4点にまとめて解説したいと思います。

1.精神科の管理料の一部がオンライン診療時にも算定可能に

R4年度の診療報酬改定の際は、精神医療に関するものは、オンライン診療時には、医学管理の評価の対象外となっていました。そのためオンライン診療の際は、対面診療の際に算定されている通院精神療法という管理料は算定対象にはなりませんでした。
一方、令和5年には「情報通信機器を用いた精神療法にかかる指針」が策定されました。また、オンライン診療は対面診療と同等の評価が可能であるという研究結果(※2)も出ており、今回の診療報酬改定においては、要件を満たす場合には、通院精神療法の算定が可能となりました。現時点では時間外診療、精神科救急医療の提供など地域の精神科医療提供体制へ貢献する施設であることを前提に、過去1年以内に対面診療を行った患者の再診時、かつ、精神保健指定医(注1)が診察を行う場合に限られます。
先日公開したnote「規制改革会議とオンライン診療」で規制改革会議の解説をしていますが、同会議でも精神科オンライン診療についての議論がありました。ただし、精神科診療では取り扱いに注意が必要な向精神薬の処方を必要とする場合が多く、他科のオンライン診療以上に、適切な処方に留意が必要です。(初診の場合は、診療科に関わらず、オンライン診療における向精神薬の処方は「オンライン診療指針」において禁止されています。)

2.小児特定疾患カウンセリング料もオンライン診療で評価可能に

小児特定疾患カウンセリング料とは、小児科や心療内科の医師や医師からの指示を受けた公認心理士が、気分障害や発達障害などの精神疾患を持つ小児に対し、治療計画に基づいたカウンセリングを行った場合に算定されるものです。
小児の数は減少している一方で、20歳未満の精神疾患総患者数は年々増加傾向にあります(※3)。特に発達障害の初診待機状況は深刻で、令和元年の調査では、平均2.6か月と報告されています(※3)。
発達障害等を有する小児患者に対するオンライン診療は、その有効性や安全性にかかるエビデンスが出てきていることもふまえ(※4)、今回の診療報酬改定においては、医師が行う場合の小児特定疾患カウンセリングについて、オンライン診療の際も算定できるようになりました。外に出ることが難しい小児患者においても、オンライン診療とカウンセリングを同時に受けられるようになることで、治療効果が高まることが期待されます。

3.へき地におけるD to P with Nのオンライン診療について加算が新設

以前、note「オンライン診療のこれから」で解説したのですが、医療資源の減少に対する対策が喫緊の課題であるへき地における医療において、D to P with N形式でのオンライン診療の活用が期待されています。
この有効性をふまえ、へき地診療所・へき地医療拠点病院などが、D to P with N形式でオンライン診療を実施した場合の評価として、看護師等遠隔診療補助加算が新設されました。
2024年4月からは医師の働き方改革の一環で時間外労働上限の規制が本格化されます。こういった流れの中で、高齢の患者さんやスマートフォンの操作などに不慣れな患者さんであっても看護師の介助という安心を担保しつつ、これまで受診困難だった方が、医療にかかりやすくなることが期待されます。また、医師の移動時間の削減により、従来の対面診療へかける時間が増えることで、より質の高い医療にもつながります。

4.歯科でのオンライン診療時も診療報酬の算定が可能に

これまで、歯科におけるオンライン診療は、新型コロナウイルス流行時の特例措置が出ていた時期を除いては、保険診療による算定ができませんでした。
しかし、「歯科におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」が策定されたこと等もふまえ、今回の診療報酬改定により歯科でのオンライン診療についても、要件を満たした場合には、基本診療料や一部の管理料の算定が可能になります。
また、口腔がんなど、より専門性が求められる疾患の診療の際に、近隣の歯科医師と遠隔の大学病院などの歯科医師がD to P with D形式で診療を行った場合の評価も歯科遠隔連携診療料として算定できるようになります。

変更された点すべては挙げられないので、大きく変更となった上記4点に絞ってご紹介していますが、これ以外にも算定可能になった管理料や、算定対象が増えた管理料もありますので、詳細は原典をご確認ください。

(注1)厚生労働省によって指定された国家資格であり、重度の精神障害患者の入院などに際して人権に関する権限を持つ医師。

※1 令和6年1月12日 中医協資料 令和6年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理
※2 Live two-way video versus face-to-face treatment for depression, anxiety, and obsessive-compulsive disorder: A 24-week randomized controlled trial
※3 令和5年11月22日 中医協資料 総-3 個別事項(その6)について p83
※4 令和5年12月15日 中医協資料 総-5 外来(その4)について p44 

診療報酬改定の先に見るオンライン診療の展望

今回の診療報酬改定により、算定可能なオンライン診療の場面はより増加しています。今後のオンライン診療普及という観点では、喜ばしいことです。

一方で、オンライン診療の意義は、一回一回の診療における評価のみならず、それが医療にどういう影響を与えるのかという俯瞰の観点も必要ではないでしょうか。例えば、前述の通り、へき地におけるD to P with Nの活用は、医師一人が移動する時間を削減でき、その間に診療できる人の数を増やすことができます。人口減少時代の中で、今後、医療資源の有効な活用は喫緊の課題です。日本全体に起こりうる変化を先行して示しているともいえるへき地での診療のあり方は、将来の日本の医療がどうあるべきかを検討するうえでの、一つのモデルともいえます。

メドレーとしても、自治体等と協働して、実証などを通して得られた医療資源の少ない地域でのオンライン診療の知見について発信するとともに、安全で有用なオンライン診療のあり方を、引き続き考えていきたいと思います。”納得のできる医療”につなげるために。

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