肉巻き小話

『コノ”ハシ”ワタルベカラズ』

 ある男が橋を前に二の足を踏んでいる。この橋で友人が『喰われた』のだ。この橋は曰く付きの橋らしく、大体言われている噂をまとめるとこうだ

「謎の老人がやってきて呪文を唱えた後橋に『喰われる』」

 馬鹿馬鹿しいと普通なら一蹴するが、実際に友人がここで行方をくらませたのだから眉唾物と言ってられない
「どうしても確かめたい。アイツはどこに行ったんだ?」
好奇心と友人の安否を確かめたい気持ちの半々だ
 しかし、改めて橋を見ても特に何の変哲もなさそうな橋である。ただ一点、不思議な看板があるだけだ

『コノハシワテルベカラズ』

どこかで見たトンチの様な看板だが、あの日を思い出すと友人は確かに真ん中を渡っていたはずだ。ならば「コノハシ」とは「端」ではないのか。
 男は改めて「ハシ」と読む単語を調べた。
・端─ 物のはしの部分。
・箸─食器・道具の一種。
・橋─ 川・湖沼などの交通路などの上に道路などを通すための構築物。

とまあこんなものだろう
「箸だと意味不明になるし、橋だと橋が存在する意味がない。でも端でもないし・・・」
男は頭を抱えた。
「考えてもわからないなら行動だ。渡ってみよう。」
男は橋に足をかけようとしたその時である
「ソノハシワタンデヌェゾ!」
─きたか!謎の呪文を唱える老人!!
「そうは行くか!お前の呪文が発動する前に渡り切ってやる!」
「オイ!ヒトヌォハナスキカンバ・オッチヌド!」
「呪文が激しくなってきたな!だが、このままなら渡り切れる!  …ぬおぉ!?!?」
突如男の右足が沈んだ。橋板が割れたのだ。それだけに留まらず、橋全体が軋みをあげ始めた
「これが呪文…!うおおおおお喰われてたまるかぁ!!!」
残った左足で強く橋を蹴り、前へ飛び込み橋の先端まで辿り着いた
「なんとか喰われずに済んだか…」
その直後
「オォーーイ!ダイジョブカァ!?」
老人の呪文が聞こえる
「まだ何かするつもりか!?せめて何を言ってるかだけ聞いてやる!」
男はよく耳を澄ます
「ダイジョウブカッテキイテンダルォ!?」
ん?
男は首を傾げた
どこからどう聞いても日本語である
「え、えーと、大丈夫ですー!」
「そうかー!ちょっと待っとれぃ!今迎えに行ってやるずぉ!」
今度ははっきりと日本語が聞こえた。しかも助けてくれようとしている
何がどうなっている?呪文をかけようとしていたのではなかったのか?
男は今一度自分に放たれた呪文を思い出す
「ソノハシワタンデネェゾ」
「ヒトヌォハナスキカンバ・オッチヌド」
よくよく考えてみれば
「その橋渡るんじゃねぇぞ」
「人の話聞かないとおっ死ぬぞ」
と言っているような気がしてきた。
「よう生きとったなぁ!また落ちてったかと思ったどぉ」
「はは…すいません…」
「ほら、トラックさ乗るだ。向こうにちゃんとした橋があるでよ」
「助かります!」

男は老人に聞こえない声でボヤいた
「"橋"は漢字で書いてくれよ〜」

おわり

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